第1話 壁際の朝
──空が白み始めても、ラスピルの街は眠ったままだ。
眠っているのは人間だけで、外壁を這う監視ドローンは、夜と同じ目を光らせている。
ベルは、鉄くずを継ぎはぎした小屋の扉を押し開けた。湿った朝の空気が肌を刺す。見上げれば、外壁の鋼鉄が雲の色と同化して、空の境界を奪っていた。
路地には、同じように日雇い仕事を求めるワーカーたちが無言で歩く。靴底は泥と油で汚れ、誰の顔も冴えない。
「おう、ベル。今日も早いな」
顔なじみの中年が、片手でパンの欠片をつまみながら声をかける。
「寝ると腹が減るだろ。だったら稼いだほうがマシだ」
軽口を返し、列の最後尾へ向かう。
その途中、灰色のフードを深くかぶったセエレを見つけた。背には古びたライフル、腰に小ぶりな刃。
「おまえ、今日は遅いと思ってた」
ベルが声をかけると、セエレは肩をすくめた。
「昨日の稼ぎ、ほとんど食料で消えた。さすがにストックがない」
「そりゃ困るな。昼までには飯にありつけるよう頑張るか」
そう言うと、セエレの口元にわずかな笑みが浮かんだ。
やがて、オフィスのゲートが開く。白い制服の係員が、平板な声で依頼票を読み上げる。
「本日の危険度レベル2以上案件──セキヤ地下帯、第七構造体、調査補助」
ざわめきが走った。セキヤ地下帯は滅多に回ってこない高額案件だ。
ベルはセエレと目を合わせ、短く言う。
「……行くか」
「行く」
二人は列を抜け、依頼票を受け取った。
まだ知らぬ“接続”の運命が、その先で待っていることも知らずに──。
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