ちょっとキケン?なアルバイト

 大型犬みたいな幼なじみの彼が、わたしのバイト先の喫茶店に来たのは、夕方ごろだった。犬みたいにやっと嗅ぎつけたぞ、なんて表情で、わたしを見おろしてくる。

「えーと。誰に聞いたの? わたしがここでバイトしてるって」

「気にするな。ようすを見に来ただけだ」

「あっそ。ご注文は?」

 気にしていないふうだけど、あからさまに彼はあたりをキョロキョロと観察している。わたしのことに関しては、親よりも過保護な、彼。昔っからこんなかんじで、わたしの周りの環境について気を配ってくれるんだけど、ちょーっとやりすぎ……なんだよなあ。

 なんて思っていると、ずっとスマホをいじっていた男性客に話しかけられた。

「ねえ、きみ。ここのバイト? かわいいねえ。何時に終わるの?」

「いえ。あの……仕事中なので、すみません」

「いいじゃん、いいじゃん~。まさか、彼氏持ち?」

「か、彼氏なんていませんっ」

「あはは。反応、おもしろ。じゃあ、おにーさんと仕事終わり、どっか遊びに行かない?」

「えっと、ほんとうに仕事があるので……ちょっと」

「だーかーら。終わってからでいいからさー」

 ガタンッ。

「はあー。やっぱり、アルバイトは反対だ」

「な、なんだよ。おまえ……?」

「この店員さん。仕事中だっているが」

「おまえに関係ないだろ」

「関係はある。おれはこいつの彼氏だ」

「……はあっ?」

 思わず、声をあげたのは、わたしだ。彼は、男性客をジッと睨みつけている。ひるんだようにして、男性客はそそくさを会計をして、店を出て行った。

 わたしは、あきれたように、彼を見あげた。

「あんたはわたしの彼氏じゃないでしょ」

「そんなことは、どうでもいい。おまえ、危機感がないんならもうバイトするな」

「危機感って、どういうこと?」

「誰彼かまわず、愛想をふりまくなっていってる」

「接客なんだから、仕方ないでしょ。仕事! 給料! 生活のため!」

「……バイト、してほしくない」

 喉からしぼりだすように、彼はいう。

「おまえが、他の男にあんなふうに話しかけられているは、その……耐えられない」

「接客以外なら、いいの?」

「おまえの安全のためだ」

「……わかったよ。いうとおりにするから。そんな顔、しないの」

 大きなからだを犬みたいにしょんぼりさせるから、思わず頭をなでなでしてやる。

「も~。ただの幼なじみがここまで世話焼いてくるなんて、この世であんただけだよ?」

 まったく……いつになったら告白、してくれるのかなあ。

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