いっしょにケーキを食べたいひと

 彼女がふと思い出したように、スマホを取り出して見せてきた。

「近くにケーキ屋ができたんだって!」

「じゃあ、いまから行ってみよ」

「ふふ。やった~」

 子どものようによろこぶ彼女に、ぼくは以前から計画していたことを今日実行しようと考えた。『彼女に思う存分、大好物のケーキを食べさせてあげたい』。なぜなら、彼女はすきなものを食べるとき、心底しあわせそうな顔をするから。


 おとぎ話に出てくるようなケーキ屋に着き、店に入ると、彼女は感動したようにショーケースを覗きこんだ。

「見てみて。ここのケーキたち宝石みたい!」

「ほんと。きらきらしてる」

「どれにする?」

「すきなの頼みなよ」

「でも、いくつも買えないから、厳選しないとだよ!」

「買ってあげる。だから、気に入ったの全部選びなよ」

「ええ? い、いいの?」

「いいよ。どれが気になってるの」

 ぼくがいうと、彼女はおそるおそる、食べられる宝石を指さしていく。

「えっと。この洋梨のタルト」

「あとは?」

「リンゴのシブースト、ザッハトルテ、マロンミルフィーユ」

「それから?」

 いうと、彼女は顔をあげ、ぼくを見つめてきた。

「きみのは?」

「おれはいいよ」

「えー! なんで! わかった、あたしを太らせる気でしょ」

「いや、太るとか別に気にしないけど」

「じゃあ、なんで!」

 つめ寄られ、ぼくはしどろもどろになる。しかし、ついに彼女の視線に耐え切れず、白状してしまった。

「……食べてるところを見たいだけ」

「え?」

「きみがおいしそうなもの食べてるところがすきだから、たくさん見たいだけ。つまり、ぼくのわがままだから気にしないでいい」

「……へんなの~」

「へんとかいわないで」

「ふうん。じゃあ気にしなくていいんだね?」

「うん」

「じゃあこの、レアチーズケーキもお願いしま~す」

 

 家に帰ると、皿に乗せられたケーキが、ぴかぴかと光っている。二枚の皿に、リンゴのシブースト、そしてレアチーズケーキ。

「はいっ」

「え?」

「いっしょに食べよ。レアチーズケーキすきでしょ~」

「覚えてたんだ」

「あたりまえ~」

「ぼくもぶんも、選んでたの?」

「ちがーう。あくまで、あたしが食べたいもの。これは、ケーキがないきみへの、おすそわけだよ。やさしいでしょ~」

「うん。やさしい。ありがと」

「いっしょに食べたほうが、あたしはおいしそうに食べるよ」

 そういって、彼女は笑った。

 そうか。きみがおいしそうに食べる理由は――。

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