くるくるスキスキ回転寿司
久しぶりに、回転寿司に来た。彼女がすきなのは、トロサーモン。ぼくがすきなのは、コーン寿司。彼女に渡された注文用タブレットで、すぐにコーン寿司を注文する。彼女が頼んだ茶碗蒸しよりもさきに届いたので、彼女に笑われてしまった。
少しして、彼女が頼んだものがすっかりそろう。とたんに彼女は、しかめっ面になった。
「ねえ。なんでDM、既読無視すんの」
ぼくは「え?」と顔をあげた。
「あの、へんなDM?」
彼女がいっているのは、今朝ぼくのスマホに届いていたDMのことだろう。今日の朝六時半ごろに、それは届いていた。
『おーい』
『ねーねー』
『ヒラメって、ひっくり返ったらカレイになるんだって!』
『さかなー』
ぼくは、SNSを開いて、あらためてそのメッセージを読み返す。読み終えたあと、スマホをゆっくりとテーブルの上に置いた。既読無視をしているわけでは、決してない。返事を打とうともしてみた。だけど――。
「これになんて返せばいいんだよ」
「うそー。なんで?」
「なんでってさ~」
「ふふ。そういえばさ、キスってひっくり返したら、スキになるんだよ」
「あーもう。はいはい……」
彼女のいいたいことがわからないので、ぼくは食べ終わった寿司のお皿を二枚、三枚とつみはじめた。彼女のぶんは、彼女のぶんでつんでいく。ぼくの食べたぶんよりも、低いタワーができあがる。
「キスって魚がいるの、知ってたー?」
「知ってるよ」
彼女がニヤニヤしながら、ぼくの顔をのぞきこんでくる。
「ねーねー。ハグしてよ」
「ハグしない。ここ、回転寿司」
「ハグってひっくり返したら、どうなるのかわかる?」
「えーっと」
彼女がテーブルを周りこみ、ぼくの隣に、ぴっとりとくっついて座った。そして、軽く小突くみたいに、ぼくの肩をパンチしてくる。猫パンチみたいな強さだけれど、ぼくは彼女のコントに乗ることにした。芸人みたいに、おおげさにダメージを負ったフリをする。
「グハッ」
「あははっ」
彼女はご満悦といったふうに、注文用タブレットを操作し、なにかをオーダーした。ぼくは、負傷した肩をおさえながら、わざとらしくいう。
「こら、なにすんだ」
「ごめんごめん。はい、おわびのコーン寿司」
俊足で届いた二つのコーン寿司に、思わずふたりして笑う。
「……ゆるす」
「ふふっ。ハグしないのー?」
「あとでする」
次に回転寿司に来るときも、彼女といっしょにコーン寿司を頼もう。
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