ふたりだけの天体観測

 都会よりも、少し離れた田舎の河川敷。さらさらと流れる浅い川には、宝石箱をひっくり返したような星々が、反射して映っている。昼間では、ひっそりとすがたを隠している夜たちが、今ではこんなにもうつくしく、空に広がっている。土手にピクニックシートを広げて、ぼくたちはそこに横になっていた。彼女は、きれいな星空をながめて、うれしそうにはしゃいでいる。ぼくも、空にむかって目を細めた。ふだん見ないような数の星々に、手を伸ばせば届きそうな気がした。

「ふふ」

「どうしたの。とつぜん、笑いだして」

「何しようとしたの、いま~」

「いや、その……」

 気づけば、空に向かって手を伸ばしていた。自分がしようとしていたことをやっと自覚して、つい顔が熱くなる。あまりにも、星がきれいに見えたから、取れちゃいそうだと思ったなんて、まるで映画みたいなことをじっさいにしてしまったなんて。しばらく、彼女にからかいのネタにされるに違いないと気づく。ぼくはなんとかいい

わけをしようと、頭をめぐらせた。

「せ、星座をきみに教えたいなって、思っただけだよ」

「星座? わたし、知らない。どれが、どれ? 教えてよ」

 もちろん、ぼくは星座なんて知らない。名前くらいは知っていても、どの星とどの星をつなげて、どんな星座になるのかなんて、わからない。しかも、今日は都会よりもたくさんの星が見えている。どの星たちも、自分だけがスターだといわんばかりに自己主張していて、いつも見ているのがどの星なのか、見当もつかない。

 ぼくは、苦しまぎれに頭に浮かんだことをてきとうにならべてしまう。

「えっと、あれが……スタバ座かな」

「さっき飲んだから、てきとういってる~」

 寝っ転がりながら、くすくす笑う彼女。ぼくのいいわけに、彼女はすぐに乗ってくれる。ぼくは、つぎつぎに星を指していく。

「あれが、カルボナーラ座。ナポリタン座。ポテチ座に、チョコレート座」

「今日、わたしたちが食べたものばっかりだね~」

「星座なんて、昔の人が勝手に考えた名前なんだからさ。いま、ぼくたちが考えてもいいんじゃないかな」

「じゃあ、みんなにどうやって、わたしたちの新しい星座を教える?」

「ぼくたちだけが知っていればよくない? あいことばみたいに」

「それいいね!」

 ニコッと彼女が笑う。

「それじゃあ、わたしも考える。あれは~ピスタチオ味のジェラート座!」

「あはは。これから、色んな味の星座が生まれそうだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る