夕陽に染まった花の色は
そのアカウントは、更新されるたびに、さまざまな花を載せていた。ポピー。サクラソウ。マーガレット。パンジー。その花たちには見覚えがあった。
「あ……アカウント、昨日更新されてる」
放課後、わたしは自分の席でスマホをタップする。花の画像が添付されている。フリル満点の、パーティドレスのようなラナンキュラスの花。下に、ちらりと映りこんでいる陶磁器の花瓶。木目調の壁。間違いない――うちの教室だ。このアカウント、うちの教室にかざってある花をアップしてる。だったら、アカウントの持ち主は、『彼』しかいない。
窓から、黄金色の夕陽がさしこんできていた。開けっ放しの窓から風が吹きこむ。カーテンが光を反射しながら、ひらひら揺れている。教室には、もう誰も残っていなかった。でも、あのアカウントの持ち主は、もうすぐここにやってくるはず。すると少しして、廊下から足音が聞こえてきた。ガラッと教室のドアが開く。案の定、やってきたのは『彼』だった。
「あれ……ど、どうしたの? まだ、残ってたんだ」
彼は右手に大きな花束、左手にスマホを持って、わたしにむかってほほ笑んだ。花束は、こぼれおちるように咲き誇った太陽のようなアネモネ。この世の光をすべて集めて、花びらに仕立てたみたいだ。
「きれいなアネモネだね」
「うん、そうなんだ……。元気に咲いてくれたから、もったいなくて。今回も、持ってきたんだ」
彼は、花屋の息子だ。咲きすぎて鮮度が落ちてしまった花は、売れ残ってしまう。そんなフラワーロスを避けるため、あまった花を学校に持ってきてくれるのだ。
「いつも花を持ってきてくれるんだね」
「うちの教室のぶんだけだよ」
「だけど、大変じゃない」
「……きみも、花がすきでしょ?」
わたしは、スマホを見た。ついさっき、アカウントが更新されている。まぶしい光のようなアネモネの花。
「ねえ、このアカウント……あなた?」
わたしがスマホの画面を見せると、とたん、彼の顔は、みるみるうちに夕陽の赤に染まっていってしまった。つられて、わたしまで顔が熱くなってくる。
「えっ、どうしてわかったの」
「見ればわかるよ」
「……ねえ、できればこのアカウント、秘密にしてくれないかな。恥ずかしいから」
「いいけど……ただで?」
「じゃあ、口止め料。あげる」
そういって、彼はアネモネの花をわたしに差し出した。わたしは、そっとアネモネを受け取る。じんわりと、彼の熱が伝わってくるようだった。
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