2 変わる世界

「写真部、なくなっちゃって寂しいね」

正式に廃部になるのはまだ少し先だが、コンクール出展を持って写真部としての活動は最後となった今、山内がカメラを持ち歩く理由も、持ってきても許される理由も、もうなくなった。

「瀬川くんってば、最初は写真部の存在すら知らなかったのに、今は寂しいの?」

山内としても、寂しくないと言えば嘘になるが、シュンっと眉を下げる瀬川に笑顔を見せる。

それもこれも全て、それまで代わり映えのしなかった生活に生まれた変化のおかげで、いつも一人ぼっちだった放課後の教室に響く話し声が、その寂しさを紛らわせる。

「寂しいよ、だって……」

いつも一人で写真を眺めていた席の一つ前には、こちらを振り向いて座る瀬川がいる。

「もう、山内さんに写真撮ってもらえなくなった」

いじけたような、拗ねたような表情をしてみせる瀬川に、思わずくすっと笑みが溢れる。

「瀬川くんって、そんなに撮られるのが好きだったんだ」

子供みたいな表情を見せる瀬川があまりに可愛らしくて、ここにカメラがないことがとても悔やまれる。

「うーん……撮られるのが好きって言うよりも」

ガタッと音がして視線を上げると、突然立ち上がった瀬川が内緒話をするようにぐっと顔を寄せる。

「山内さんが撮ってくれるから好きなんだ」

耳をくすぐるその声に、くすぐったくて身をよじる。

「あー、また瀬川が山内さんとイチャついてるー」

明らかに冷やかし混じりのその声に慌てて視線を動かすと、ドアの前に立ってニヤニヤ笑う三人のクラスメイトの姿が見えた。

「イ、イチャついてたとかそんなんじゃ……!」

「邪魔しちゃってごめんね、山内さん。もっと時間かけて戻ってくればよかったね」

「だから違うのこれは!」

楽しげな笑い声は三人分、そこに瀬川の苦笑が混じる。

「山内さん困らせるのもいい加減にしろよー」

「だってよ。瀬川が邪魔されて怒ってるぞ」

「しょうがない、じゃあこの話は場所を変えてってことで」

「ハンバーガーがいいか、カラオケがいいか。カラオケだったらポテト必須な!」

騒がしいクラスメイト達に駆け寄った瀬川が、振り返って座り込んだままの山内を手招く。

「行こう、山内さん」

慌てて鞄を掴んだ山内も、クラスメイトと瀬川の元へと駆けて行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る