1

ファインダーの向こうにしっかりと瀬川を見据え、夢中でシャッターを切っていると、不意に頭の中に声が響いた。

『写真もいいけどさ、たまにはちゃんと山内さんの目で見てよ』

シャッターに指をかけた状態で、しばらくそのまま固まる。

ただ黙ってファインダー越しに瀬川を見つめ、しばらくして意を決したようにカメラを下ろすと、真っすぐにグラウンドを見つめた。

ホームベースを両足でしっかりと踏みしめる瀬川を、自分の目で見つめる。

最高のシャッターチャンスを逃していることはわかっているが、不思議と後悔は湧かなかった。

瀬川の喜びに溢れる表情を、キラキラ輝くその姿を――ファインダー越しではなく、真っすぐに自分の目で見つめる。

「ホームラン……」

仲間に囲まれて笑う瀬川に小さく呟いてみると、聞こえるはずなんて絶対ないのに、タイミングよく瀬川が顔を上げた。

何事か大声で叫びながら必死で手を振る姿に、窓枠に手をついて僅かに身を乗り出す。

もういつ雪が降ってもおかしくないような寒風に乗って、声が届いた。

「山内さーん、見た!?ホームラン!!」

両手で大きく手を振って、嬉しそうに瀬川が叫ぶ。

ちょっぴり躊躇した後、それに応えるように手を振り返した。

「おめでとう」

カメラを掴んでいない方の手を大きく振り、瀬川の喜びに精一杯応える。

仲間の輪の中から外れて走り寄ってきた瀬川が、山内のいる窓の真下で立ち止まった。

そして大きな身振り手振りで何やらジェスチャーをしたあとに、満面の笑顔でピースサインをしてみせる。

その様子に小さく笑みを零すと、言われたとおりにカメラを構えて、ファインダー越しに瀬川を見つめた。

その笑顔にしっかりとピントが合った瞬間シャッターを押し込むと、一人きりの教室にカシャッと軽やかな音が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る