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ファインダーの向こうにしっかりと瀬川を見据え、夢中でシャッターを切っていると、不意に頭の中に声が響いた。
『写真もいいけどさ、たまにはちゃんと山内さんの目で見てよ』
シャッターに指をかけた状態で、しばらくそのまま固まる。
ただ黙ってファインダー越しに瀬川を見つめ、しばらくして意を決したようにカメラを下ろすと、真っすぐにグラウンドを見つめた。
ホームベースを両足でしっかりと踏みしめる瀬川を、自分の目で見つめる。
最高のシャッターチャンスを逃していることはわかっているが、不思議と後悔は湧かなかった。
瀬川の喜びに溢れる表情を、キラキラ輝くその姿を――ファインダー越しではなく、真っすぐに自分の目で見つめる。
「ホームラン……」
仲間に囲まれて笑う瀬川に小さく呟いてみると、聞こえるはずなんて絶対ないのに、タイミングよく瀬川が顔を上げた。
何事か大声で叫びながら必死で手を振る姿に、窓枠に手をついて僅かに身を乗り出す。
もういつ雪が降ってもおかしくないような寒風に乗って、声が届いた。
「山内さーん、見た!?ホームラン!!」
両手で大きく手を振って、嬉しそうに瀬川が叫ぶ。
ちょっぴり躊躇した後、それに応えるように手を振り返した。
「おめでとう」
カメラを掴んでいない方の手を大きく振り、瀬川の喜びに精一杯応える。
仲間の輪の中から外れて走り寄ってきた瀬川が、山内のいる窓の真下で立ち止まった。
そして大きな身振り手振りで何やらジェスチャーをしたあとに、満面の笑顔でピースサインをしてみせる。
その様子に小さく笑みを零すと、言われたとおりにカメラを構えて、ファインダー越しに瀬川を見つめた。
その笑顔にしっかりとピントが合った瞬間シャッターを押し込むと、一人きりの教室にカシャッと軽やかな音が響き渡った。
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