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「あっ、そう言えばまだちゃんと言ってなかったかも、あたし」

駆けて来た山内を見て、二カッと笑ったクラスメイトが口を開く。

「山内さん、コンクール入賞おめでとう!」

改まったその言葉に、はにかみながらお礼を返すと、それを見ていた瀬川が嬉しそうに笑った。

あの時、思い切ってコンクールに出展した最初で最後の作品は、自分でもびっくりするほどの好成績を収めた。

当然それは部の功績として全校朝礼でも発表され、教室に戻ってからも担任やクラスメイトからたくさん声をかけられ、意図せず自分の名前を広める結果になった。

そのおかげで、いつも一人だった山内の周りに、今では常にクラスメイトの姿がある。

「全部……瀬川くんのおかげだから」

はにかむように笑ってみせると、目があった瀬川が慌てたように視線を逸らす。

それを見て、またクラスメイト達にニヤニヤ笑いが広がった。

「あれ、そういや瀬川、お前今日はバスケ部の応援に呼ばれてるって言ってなかったか?」

思い出したようなその問いかけに、瀬川はハッとしたように目を見開いて固まる。

どうやら、すっかり忘れていたらしい。

「よし、バスケ部の奴らに見つかる前に逃げよう!」

そう言うやいなや、瀬川は山内の手を取って走り出した。

「あっ、こら瀬川置いていくなー!」

後ろから追いかけてくる声と足音を聞きながら、瀬川に手を引かれるままに廊下を駆け抜け校舎を出る。

ついこの間まであんなに寒々しかった風が、今ではほんのりと温かい。

「せ、瀬川くん……いいの?バスケ部」

おずおずとそう切り出すと、顔だけでこちらを振り返った瀬川が笑顔で大きく頷いた。

「今はバスケより、山内さんだから!みんなでコンクールのお祝いするって、約束したでしょ」

コンクールでの受賞を、誰よりも喜んでくれたのは瀬川だった。

その時の笑顔を思い出すと、今でも自然と頬が緩む。

「おいこら、瀬川ー!」

「無駄に足速いんだから……このスポーツバカ!!」

「ちょ、まっ…………お前ら全員速いわ!」

振り返った瀬川が、駆けてくる三人の姿を見て楽しそうに笑う。

「一番遅かった奴が、みんなの分おごりな!さて、ちょっとスピード上げるよ、山内さん」

「……うん!」

それは、暖かくて優しい……春の始まり。

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ファインダー越しの瀬川くん まひるの @mahiru-no

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