第13話幕間・二

 柊莉緒の過去は至って一言で言えば簡単なものだ。両親に売られ孤児院で生きてきた。

 ただそれだけのものだ。彼女の父親は八歳の彼女に情欲を抱き、何度も犯そうとした。彼女の母親は、自分の夫が娘を犯そうとしている事実に目を背け、絶望し、失望し、何人もの男と関係を持ち、不倫をするようになった。

毎日続く喧嘩の声、蔑みや肉欲に満ちた視線にさらされ、思い通りにいかないのならばと、邪魔者扱いされ、売られた。

 売られた先は当時貴族として名をはせていた男の家だった。しかし、莉緒は心を開くことは全くなかった。

 その男も犯そうとしていたからだ。この時、莉緒は十歳。無意識のうちに魔力を放出しており、その時には王の花嫁と資質を力が備わっていた。故に周囲の男からは肉欲に満ちた目を向けられ、女からは侮蔑の目で見られていた。これが柊莉緒が体験してきた生まれながらの不幸といえるだろう。

 それとは逆に彼女にとって幸運だったのは貴族の男から命からがら逃げた自分を、行き倒れそうになった自分を助けてくれた教会の神父とシスター、孤児院の子供たちだった。

 十一歳のときに屋敷から逃げ出した自分を保護し、匿ってくれた。

 特に神父にはよく懐いていた。自分に対し、肉欲に満ちた目を向けてこなかったから。シスターも自分に侮蔑の目を向けたりしなかった。そんな環境は莉緒にとって初めてだった。

 だからこそありがたく思った。

 しかし実際の所、神父もシスターも王の眷属であるが故に、耐性が付いていただけに過ぎない。さらに言えば、二人は意識に放出している花嫁としての魔力に気づき利用する気で保護しただけだったのだ。当時莉緒はそのことを全く知らず、自ら捕まりに行ってしまったのだ。

 莉緒はその後も子供たちと仲良く過ごし、気づけば十八歳になっていた。時折仲が良かった孤児院の友達もいなくなっていたが、神父から、

「引き取り手が見つかってね。ここを出ていってしまったのだよ」

 といっていた。当時はそれを鵜呑みにし、信じてしまっていた。また、風のうわさで、莉緒がいた貴族の屋敷は、経営不振の陥り一年前に行方不明になったとも聞いた。しかし、彼女にとって今が幸せな時間だからと、彼らの事はもはやどうでもよかった。

 莉緒が孤児院で暮らし始めてもうすぐ八年になろうとした時、彼女は生活必需品や食べ物を買って帰路についていた。

 だからこそ忘れていたのだ。自分の体質を。自分の魔力を。彼女は忘れていた。すれ違った男と肩がぶつかり、食べ物が落ち、拾おうとした際に、男と目が合ってしまった。その瞬間男は下卑た笑みを浮かべた。彼女はその時に彼が自分の体を見ていることに気づき、堕ちていたものを全て拾い、足早々にその場を立ち去った。

 男は追ってこなかった。しかし、莉緒の魔力にあてられた魑魅魍魎が彼女を襲おうとなだれこんでくる。このままでは彼女は魑魅魍魎の餌としてぐちゃぐちゃに噛み潰されるだろう。もうだめと感じた時彼女はある存在と出会った。

魑魅魍魎とは違う雰囲気を醸し出す男――不明王フィーリアス・アルディバートに。

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