第7話王会議
翌朝、莉緒は目が覚めるとここが教会ではないことにすぐには気づかずに、寝巻として羽織っていた白のワイシャツを脱ぎ始める。
するとそこでガチャと扉が開く音が聞こえた。振り返って見ると、シルフィアが着替えを持ってきていた。しかし彼女は何故か顔を赤くしている。視線が莉緒の左に向いていたのでそちらを向いた。そこには自前の杖の上に座り、優雅に足を組みながら、腕組みまでしているフィーリアスの姿があった。
「やあ、おはよう」
莉緒の時が止まった。思考がフル稼働で状況整理をしている。そう、彼女は教会から引き取られ、とある人物の弟子としてここにお世話になることになった。この部屋を与えられ、就寝。起きればなぜかここに入ってくるはずがない彼がいる。まさに今、この状況だ。
「僕、夜明けと同時に起きるから。シルフィアも一緒。というか今十時だよ?」
かなり寝ていたようだ。心配してここにやってきたのだろう。しかしそこまで理解が追い付かなかった莉緒がとった行動は一つ。シルフィアはこの状況を見て逃げた。ということで遠慮なく行動できた。
つまり何が言いたいかというと――
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」
「おわっ⁉ 耳に響くッ!」
恥ずかしさのあまり、悲鳴を上げた、ということである。
しかも無意識に花嫁の魔力を声に纏わせて。
結果、フィーリアスは目を回し、シルフィアは何もないところで一人、アタフタしていた。
ちなみに、隠し扉の向こうにいた図書館の利用者、スタッフ、そしてオウリアはこの声に反応し、
『‼⁉⁇』
バッタバッタと気を失ったのは別の話。
朝 フィーリアス邸
「うぅ~~・・・」
「ハハハハハハハハ! まさか無意識とはいえ、こうなるとは思わなかった!」
「まったく・・・。仕事場で皆がバタバタ倒れたときは疲れましたよ・・・。次から繋げっ放しにしないでください」
「カーッカッカ! まあまあオウリア殿、気楽に考えよ。人生追い込んでおったら、禿げるぞ」
「・・・何か言いましたか? アアン⁉」
「うっうっ、うぇぇぇ」
「こら! 莉緒が顔を真っ赤にして怒って泣いているんだから、喧嘩はやめなさい!」
「「それはあんただよ、元凶」」
「んー?」
フィーリアスはコテンと首を可愛らしく傾げる。まるで気付いていないようだ。隣で顔が真っ赤になった莉緒にポカポカ殴られているが、笑いながら捌いている。
やがて朝食の時間になると、莉緒も大人しくなり朝食を食べ始める。するとまたフィーリアスがとんでもない発言をする。
「あ、今日王会議だから。昼食いらないからね?」
「「「・・・・・・・・・」」」
莉緒、フィーリアス以外の三人の時が止まった。とてつもなく青ざめて。
「あ、あの・・・」
シルフィアは膝を抱え、シェドは掌を合わせ祈っており、、オウリアは頭を抱えていた。ちなみにフィーリアスはくすくすと笑いながら三人を見ている。
莉緒はどういうことか分からずオロオロしていた。少なくとも、昼食がいらないことは関係ないだろう。
「あの・・・。皆さんどうされたのですか・・・? 王会議とは? 何故そんなに怯えているんです? あの、先生」
「それはねぇ、皆嫌なんだよ」
「嫌? どういうことです?」
「まず、王会議っていうのは僕を含めた二十人の王が定期的に集まる集会だね。内容は色々。他愛のない世間話の時もあれば、真剣な会議をするときもある。でも基本、眷属を一人侍らせることが絶対でね。彼らは一度経験して、もう行きたくないと思っているわけ。嫌っていうのはそういう意味」
「なるほど」
「知識が一つ増えたね」
フィーリアスは弟子の頭をよしよしと撫でる。莉緒は少しくすぐったそうに身をよじる。しかし口元は少しうれしそうで嫌な感じはしてなさそうだった。その証拠に、
「エヘヘ」
という言葉と共に頬を赤く染めている。未だに怯えている三人をほっといて。
そしてその少しほんわかした雰囲気を――
「だって嫌なんじゃああああああああああああああああ」
「「⁉」」
――シェドの絶叫がぶっ壊した
「あの中で黙ったまま突っ立ておくのは我慢ならんのじゃあ! しかも王の魔力が混ざった空間はまさに地獄じゃ。もう行きとうないと誰でも思うじゃろう、普通‼‼」
「おや、奇遇ですね。同じことを思ってました」
『同じく』
オウリア達三人が王に対して恨み事や文句を言い連ねる中、莉緒だけが場違いのようにアタフタしていた。ちなみにフィーリアスは面白そうに眷属たちを見ている。
すると次の瞬間、シェドが残像が残るほどの速さで、自身の王に迫る。
「王よ‼ 此度は誰じゃ! 誰を連れていくんじゃ‼‼」
「ディートリヒ」
「「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」」
シェドが涙ぐみながら手を合わせて感謝する。オウリアはハンカチで目元を押さえながら少し泣いていた。シルフィアは胸の前で十字を切り、嬉し泣きをしている。
「というのも、君たちには別の仕事を任せたいからだよ」
『それは何でしょうか』
「オウリアには、僕が留守中の間、莉緒の魔法勉学を全体的に教えてやってほしい。教員免許あるだろ? 魔法限定だけど」
「ありますが・・・場所は? それなりに教えるには相応の場所が必要だと思いますが・・・」
「図書館に入っていいから。基本館長業を任せてしまっているけど・・・」
「問題ありません」
「よし。範囲は禁書のスペース以外すべてだ」
「・・・ハッ」
「シェド。君には逆に体術を教えてやってほしい。護身術もそうだが、基礎作りを当分主にしてくれ。あと、あっちの世界の奴らに挨拶。お前なら、自由に行き来できるからな。案内を任せる」
「御意」
「シルフィアは僕が帰ってくるまで、家のお守り。客が来たら対応して」
『はい』
部下にきびきびと指示を出す姿は、王様のようだと莉緒は思ってしまった。
普通にしていれば、王様らしさがないのにこういうときだけ、別人のように王様らしくなる。
同時に「ほんとに弟子になったんだな」という新鮮さと「ほんとに私でいいのかな」という不安がこみあげてくる。
そんな雰囲気が出ていたのか、フィーリアスが彼女の頭を再度撫でる。とても優しく。自然と心が穏やかになっていった。
「大丈夫さ。自分に自信をもって。僕が選んだ時点で、君は選ばれている。何も気負うことはないよ。僕が選び、君が僕の手を取ってくれたんだ。間違いは決してないからね」
「・・・はい」
暫く撫でられる感覚を堪能していると、不意にフィーリアスが手を放し、書斎に向かう。
彼が帰ってくると、その手には何かの書類を持っていた。よく見れば、その書類の題名には『ユーロ連合魔晶学院 特待生編入推薦書類及び概要』
「・・・・・・・・・」
「僕が帰ってくるまでに全部書いといてね」
「え? いや、ちょっと! 特待生ってどういうことですか! 私普通でいいですよ⁉」
莉緒の抗議の声に、フィーリアスが笑って答える。
「仕方ないだろう? 僕は教授なんだ。前に教えたろう? 才能ある者を推薦できるって」
「ええ、言いましたね! それが――」
「推薦されると僕の場合、特待生扱いになるの」
「・・・・・・」
莉緒は目が虚ろになっていた。それを作り出した彼は、笑いながら紅茶を飲んでいた。
無言でシルフィアが莉緒の肩に手を置く。彼女もまた、被害者らしい。
「あ、来た来た」
そんな中、何かに気づいたかのようにシェドが玄関へ赴く。
『おお、来たか! 息災じゃったか? ん? 王なら奥におる。ほれ、さっさと来んか』
カツカツという音が向こうで響いてくる。こちらに来ているようだ。おそらくフィーリアスが先程言っていた、会議に連れていくディートリヒという人なのだろう。
どんな人なのだろうと莉緒は思った。少なくともおじさんとかではないだろう。そうだと信じたい。あとまともな人だとなお嬉しい。
シェドが先に登場する。先導を終えると、自分の主の座っているソファの左後ろに立った。
先に見えたのは男物の黒のブーツ。次に拘束服をモチーフにしたような灰色のズボン。ベルト部分は黒地の荒々しい柄のアクセサリを飾っている。上は黒と赤の線がまばらに描かれた白のワイシャツ。それに加え、雪を思わせるかのような白に赤の牙のような線を入れ銀の肩当てなどが付いたジャケットを肩に乗せているだけ。
左目は白く、右目は紺色の中に血色の点が見えた。髪は灰色で右目部分の前髪を顔面に降ろし、そこ以外は刺々しく後ろに向かって刈り上げられていた。
「不明王が第五眷属、ディートリヒ・サバルクーガ。不明王の命により参上しました」
「ハハハ、ご苦労さん」
フィーリアスが軽いノリでディートリヒに接する。しかしディートリヒの空気は重い。
するとフィーリアスが莉緒を見て彼を指さし、紹介する。
「莉緒、紹介するよ。ディートリヒ・サバルクーガ。僕の眷属で、今回王会議に付き人として連れていくのが彼だよ」
「あ、は、初めまして! 柊莉緒です。今回フィーリアスの弟子になりました。どうぞよろしくお願いします!」
「・・・・・・『花嫁』か」
「!」
一瞬で本当の正体がバレた。彼にはまだ説明も何もしていないのに、だ。莉緒はどうすればいいか思考しようとしても、驚きが上回り思考停止してしまった。
「おーい、莉緒?」
「・・・ハッ」
「なんでディートリヒが知ってるんだろう、って思ったでしょ」
「・・・はい」
「それはね、彼が“王殺し”だからだよ」
「おうごろし?」
王殺しとは、神を超えた二十の王に対を為す『王を殺すためだけに生まれた存在』である。その数は、規模は分からず、一人一人が王を殺す力を持っていると言われている。そしてそれぞれには戦うための意味を司り、その意味の力を使い、王を殺す。その存在は神を超えておらず、人間のまま器を昇華した。ただそれだけの存在の癖に、不老不死である。王を殺す存在は、王にとって天敵とも言っていい。
「でも、殺られるのは下級の王。二十番目とかが多いな。慣れてきたらあんな奴らどうってことないよ」
「は、はあ・・・・・・」
「彼、ディートリヒは僕自らが指示した。王殺しになれってね」
「・・・え?」
「そのころには、彼はもう僕の眷属だったんだけど、ふと気になってね。眷属の力と王殺しの力組み合わせたらどうなるんだろう、ってね」
「あの時は、たまげたのう」
「結果は見事大成功と言っていいものとなった。眷属の力と王殺しの力は一緒に宿ったんだ。多分不明の血が作用したんだろうね」
「意味は不明、解明です」
「あ、彼、剣術の達人だから、莉緒も護身用に時々教えてもらいなさい」
「! はい! ありがとうございます!」
それから数分、談笑してからフィーリアスがおもむろにソファから立ち上がる。外からは風が不自然なほどに荒々しく吹いていた。
「迎え来たからそろそろ行こうかな」
「迎えですか」
「うん。ほら」
玄関の扉を開けると、白く巨大な龍が家の庭に佇んでいた。うろこの一つ一つが白く輝き、蛇のように長い体はとても巨大で家の敷地に収まっていない。下手すれば、家ごと潰れてしまうだろう。
莉緒は初めて龍を見たのか、そこから一歩も動けなかった。立ったまま気絶していた。
「あらら、参ったね・・・。おーい、莉緒ー?」
「アッ、はい⁉ 何ですか?」
「意識飛んでた」
「そりゃそうでしょう。なんていう龍なんですか?」
「こいつに名はない。生物名はないんだよ。なんてったって、天空王のペットみたいなものだから」
「あ、そうなんですか」
「僕はクアトロスって呼んでる。ほら見てごらん」
フィーリアスが口元の包帯を緩め、口笛を吹く。すると、龍が頭をこっちに向けてきた。
彼は臆することなく、龍の額の鬣をかき分ける。そこには、縦に並んだ二つの眼があった。
「! これは・・・」
「この眼は普段は使わない。ある時だけ、真価を発揮するものでね。・・・まあ目が四つあるから四っていう意味のクアトロからちなんで、クアトロスって呼んでるんだよ」
「なるほど」
「触ってみる?」
「え、いいんですか?」
「もちろん。なあ」
クアトロスがグルグルと喉を鳴らし、莉緒に向かって行く。そして顔を彼女に摺り寄せる。
「わ!――ちょ、くすぐったい」
少し驚いたのか、そんな声が出てしまう。しかし、表情は嬉しそうに笑っていた。
「ずいぶん懐かれたね」
「そ、そうですか? ちょっと嬉しいです」
暫く戯れていたが、ディートリヒが時間だと告げると、クアトロスはフィーリアスに身を寄せる。
「じゃあ、行ってくる」
『お気をつけて』
「こっちは任せい」
「ああ」
フィーリアス、ディートリヒの二人がクアトロスに乗ると、クアトロスが鎌首を持ち上げ、徐々に天空へと上昇していく。
「先生!」
「ん?」
「帰ったら、いろいろ教えてくださいね?」
「ああ、約束だっ――あああああああああああああああああああああああああああ⁉」
いきなりクアトロスが速度を上げた。ディートリヒは事前に角を持っていたから振り落とされなかったが、肝心の王であるフィーリアスが落ちた。
「「「あ」」」
そんなことは露知らず、龍は全速力で昇っていく。
「・・・仕方ないなあ」
「ど、どうするんですか? 行く手段あるんですか?」
「あるにはあるよ。割と力ずくだけど」
どうするのか気になった莉緒は、目の当たりにする。
王の実力を。
フィーリアスは屈伸をはじめ、足をほぐす。そして重心を低く構えた。
「? 何を―――」
「それじゃっ―――‼‼」
ドオンッッッッ‼‼という音と同時に、彼の姿が消えた。気が付けば、地面が思い切り凹んでいた。
莉緒はあまりの速さに口が塞がらなかった。
「王は神を超えている。これほどの速さはまだ本気じゃないですから」
「え⁉ そうなんですか! すごい・・・」
遠くで、何かが爆発する轟音が聞こえた。見れば、龍の真上に黒の点が見える。フィーリアスだろう。その黒点はそのまま直下していき、龍に落ちていった。
「さて、こちらもこちらでしなければならないことがたくさんあります。まずは書類の作成です。次に魔法の講座も開くので、そのつもりで」
「はい。よろしくお願いします」
オウリアはその言葉を聞き、懐から鍵とペンダントを取り出す。
「それは・・・?」
「今から、図書館へ案内します。そこで、勉強です」
彼は、暖炉の傍らに飾ってある面妖なタペストリーの前に立った。そしてペンダントを前に翳す。すると、鍵穴が中から出現。そこに鍵を差し込んだ。
光り輝く。そして疑似的な扉が出現し、扉が開く。
「・・・・・・」
「驚かれましたか? ようこそ大全不明図書館へ」
「不明図書館?」
「ええ、この図書館は我が王が集めた数々の魔法書や、歴史、小説等々、約一億冊の本が保管されています」
「へ?」
オウリアは静かに笑い、シェドはニタァと口元を歪ませる。
「さあ、始めましょうか」
「存分にしごいてやろう・・・。カカカッ」
数時間後、一人の少女の悲鳴が聞こえたという。
その頃、フィーリアスたちは神の領域を超え、王の領域へ来ていた。
ここは、神の力が干渉されない『神の溝』である。
「ここに来るのは久しぶりだねえ」
「そうですね」
龍の背から降り、真っ白な廊下を歩いている彼らは緊張感など全く無いように見えた。これから王が集まるというのに、何も感じずに自分を貫いていた。
「今日は欠席者はいないから、君も何人か挨拶してくれば?」
「いえ、俺は傍らにい続けます。」
「そうかい」
「はい。そうでございます」
前言撤回。会話が長く続いていなかった。いや、フィーリアスは問題なのだが、彼がディートリヒの方を見れば、小刻みに震えていた。
「ディートリヒ、だいじょう――」
「大丈夫です!」
あーだこーだやっていたら、目の前に純白で光り輝く大聖堂が見えてきた。
「見えてきた。部屋の隅にでも待機していてくれ。いつでも臨戦できるようにしてね」
「分かりました」
フィーリアスが扉の前に立てば、重い音と共に、扉が開く
そこはただ一つの巨大な大理石の丸机が置かれていた。その周りには個性的な面々が一つの椅子を開けて、残りの椅子に座っていた。
「やあ、お揃いのようだね」
フィーリアスが彼らにそういうと帰ってくる言葉は、一人一人違った。
「なーにが『お揃いのようだね』だ。遅刻だよ」
「そうよ。貴方、今日は遅かったじゃない」
「まあまあ、先輩にも何か事情があるに違いないです」
「そうなら我々も苦労しないんですがね・・・」
「まったくだねぇ、ははは」
その言い合いに参加していないものが二人。
一人は空をイメージした白の装束を纏った髭の男、天空王。
もう一人は、古代の王朝を思わせる衣服を着て、宝剣を携えた男、厳格王バルディス・ヘルド。
フィーリアスはバルディスの隣にあった空席に座る。そして前のめりに倒れていき、だらしない姿を見せる。
「おい、だらしなくするな」
「いいじゃん。減るものじゃないし」
「・・・なぜ遅れてきた。いつもいの一番に座っていたじゃないか」
「んー、今日はちょっとね」
「?」
バルディスとそんな会話をしていると、パンパンと手を鳴らす音が聞こえた。見ると大海王シーラが何か言いたそうにしている。
「話はあとよ。後でなさい。ね?」
「「はい」」
「さあ、天空王。会議を始めましょう」
天空王はコクリと頷く。
「これより、王会議を始める。今回の議長は・・・、フィーリアスだ」
「あれ、もう僕の番?」
「今日遅刻した罰だ」
「・・・わかったよ。じゃあメンドイから早めに終わらすよー」
「なっ、フィーリアス貴様・・・」
気怠いフィーリアスの号令とも言えない号令に、バルディスが驚き睨む。
「じゃあ、何か連絡ある奴いるー?」
「・・・はあ。最近ゼウス辺りが何か企んでいるように思える。何かは分からんがな」
バルディスの言葉に滅亡王があっと何か思い出したかのように、声を漏らす。
「どうしたの? 滅亡王」
「それ多分、疑似的な王を作ろうとしてるんだと思う」
「ドユコト?」
フィーリアスの疑問に、亡霊王が笑顔で答える。彼に教えることが嬉しいようだ。雰囲気が違う。
「神たちが、私たちに反逆しようとしてるってこと。そのための神の兵器ってとこね。ちなみにケルトを除く神々が協力してるらしいわ」
「好戦的なケルトの神々が不参加かい? 不自然だね・・・」
意外なケルトの情報に、王たちがいろんな考えを張り巡らす。
そんな中、フィーリアスがふわふわした声で言った。
「ケルトはそりゃ参加しないでしょ~」
「? どういうこと――」
「だって、僕個人の貿易相手なんだもん。オーディンとは晩餐を共にしたことが何回かあるしね。ついでにロキとも」
「「「は?」」」
「はいこの話終了ー。まあ疑似的な王の製造は・・・、輪廻ー?」
「あ、はい!」
「君の国で対応よろしくー」
「‼ 分かりました! 頑張ります!」
こうして世界の案件が、揉めることなく終わっていく。
すべての案件が終わった時点でフィーリアスが手を上げる。
「どうしたの? 不明王」
「ん、情報共有」
「?」
「『花嫁』が見つかりましたー。パチパチパチ」
「「「「‼⁉⁇」」」」
その言葉に王全員が硬直した。彼らにとって花嫁は偉大だからだ。
「ちなみに女の子でーす」
「それ本当か、フィーリアス」
「ええ、本当ですよー。皆さんもよければ会いに来てやってくださいー。もっとも――道化は知っていたようですが」
「はあ?」
道化王は首を傾げ、何を言っているのか分からないというように言った。
「保護したのが、君の息がかかった教会だったからね。今彼女は僕の弟子だから、僕のものということになるけどね」
フィーリアスが自身の不明の王としての魔力を放出させる。それは冷たいようで熱く、穏やかでいて獰猛に、様々な感情と気配が入り交じり、不快と恐怖を増長させている。
道化王はカラフルなペイントが施された顔の冷や汗を流していた。今のフィーリアスの威圧は、他の王にも伝わっている。しかし、自分に向けられた圧は他とは異なり、強かった。
部屋の隅にいた王の眷属たちも冷ややかで、重い圧と殺気に触れ今にも倒れそうになっていた。道化王の眷属である少女は過呼吸を起こして、今にも死にそうだ。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
「・・・君の眷属、死にそうなんだけど・・・、大丈夫?」
「「「お前のせいだよ‼」」」
「んー?」
フィーリアスは首を傾げている。自覚なしに王の圧力を放っていたようだ。
「まあ、話は終わり。帰っていい?」
「まだだ! そもそも俺の所有していた教会にいたのだろう? だったらそれは俺のものだ!」
「それと言っている時点で、君の元から離れてしまっているんだよ」
「なんだと⁉」
「あ、皆よかったら見に来たら? 歓迎するよ。もっとも――今僕の持ってる図書館で勉強中だけど」
それを聞いて道化王を除く王たちがはあとため息をつく。
行けるわけがない、そう思っている。なにせ、フィーリアスの所有しているその図書館は地球の裏の裏。つまりは次元すらも超えた場所にあるからである。
「まあ、明日になれば僕の家にいるだろうけど」
「「「‼⁉⁇」」」
「明日は、薬学を教えようと思っているからね」
「いえ! 今日行くわ!」
「うん。それがいい」
我先に一目見たいという欲剥き出しの王たち。しかし、道化王は何かを警戒し、返事をしない。命知らずなのは、フィーリアスよりも先に王になった六人。
「いいけど・・・、時間は限られるよ?」
「それでもいいわ! どんな子なのかだけ見れるだけ大収穫よ! ・・・じゅるり」
「うん今ちょっと本性剥き出しになったね? 悪いけど亡霊王は明日の昼頃ね。滅亡王、子守りヨロ」
「うん分かった・・・ってなんでぼくなのさ⁉」
「三王は苦手意識持ってるし」
「厳格王は⁉」
「ん? 交流も兼ねてこの後僕の家で食事。泊ってくんでしょ?」
「ん? ああ、そのつもりだ」
その会話に滅亡王はムキーッと怒りの感情を露わにする。
どうやら、亡霊王の扱いは王たちの中では『厄介なお荷物』という認識なのだろう。
古参の中では滅亡王が亡霊王の扱いに長けている。彼は亡霊王の魅力にメロメロだからだ。
ちなみにいえば、亡霊王は女である。故に最も長く生きている亡霊の女王といったところだろう。
「それでは、これで王会議は終了とする。我ら旧世代は厳格王を除き後日、不明王の元へ訪れよう。新世代は己で決めてほしい」
「大歓迎だからね~?」
「・・・では、解散‼」
天空王のその一声で王たちはぞろぞろと部屋から出ていく。
フィーリアスは、スキップをしながら道化王に近づき、耳元で囁く。
「殺すとかそういうことをしてみろ。お前の国ごとお前を殺してやる」
「‼‼」
声を低く脅すように言ったわけでもないのに、道化王は冷や汗が止まらなかった。悪寒が止まらない。化粧も汗で剥がれ落ちている。
新世代にとって旧世代の王たちは、畏怖と尊敬の塊であり、敬わなければならない対象である。それは自分たちと手合わせしても間違いなく旧世代の王が勝つから。
しかし、不明王は違う。彼も旧世代の王ではあるが、新世代の王はいい印象を持っていない。他の王は、実力の問題。しかし不明王は存在としての問題である。何を考えているのか分からず、実力も分からない。新世代の中では輪廻王が一番慕っているが、道化王から見れば理解ができない。
フィーリアスはクスクス笑い、じゃあね、と肩を叩き道化王の傍を離れていく。
脅された彼は、眷属の少女に声をかけられるまで動けなかった。
やがて動いた彼は、爪が食い込むほど両手を握り、不明王に向かって憎しみの眼を向けていた。
憎しみにとらわれた彼はこの後、大きな間違いを犯す。この時の彼は、そんなことは微塵も思っていなかった。
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