第15話
アレスたちが村を去ってから、数日が過ぎた。
あの一件は、まるで嵐のようだったが、過ぎ去ってしまえば村には元の穏やかな日常が戻ってきた。俺もまた、その日常の中にいた。
「よう、旦那。精が出るな」
「ハーガンさんこそ」
俺は、ハーガンの鍛冶場でふいごの操作を手伝っていた。聖剣を打ったあの日以来、俺は時々こうして彼の仕事を手伝うようになっていた。ハーガンはぶっきらぼうだが、俺の【鑑定眼】を頼りにしてくれており、その関係が心地よかった。
鑑定の力で鉱石の選別を手伝ったり、農具の修理を手伝ったり。誰かに必要とされる、ささやかだが満たされた毎日。
(こういう暮らしが、したかったんだよな)
そう実感していた矢先のことだった。
村の入り口が、少しだけざわついている。何事かと視線を向けると、そこにいたのは、森のエルフであるはずのフィーナだった。
「フィーナさん!?」
俺が驚いて駆け寄ると、フィーナは少しはにかみながら、ぺこりとお辞儀をした。彼女が人間の村へ一人で来るのは、初めてのことだろう。その美しい姿に、村の男たちが少し色めき立っている。
「ごきげんよう、ユウキさん。あなたの村、とても活気があって素敵な場所ですね」
「どうしてここに? 里はもう大丈夫なんですか?」
「はい。あなたのおかげで、皆すっかり元気になりました。これは、里の者たちからの、改めてのお礼です」
そう言ってフィーナが差し出したのは、美しい緑色の上質なマントだった。エルフの秘術で織られたものだろう。
「『風織りのマント』です。身につける者の体を軽くし、森の木々の加護が、あなたを危険から守ってくれるはずです」
ありがたく受け取ると、マントは驚くほど軽く、そして温かかった。
俺たちは広場のベンチに腰掛けて、しばらく里での出来事などを話した。だが、ふと彼女の表情が真剣なものに変わる。
「ユウキさん。……今日は、お礼を言いに来ただけではないのです。あなたに、一つ、お願いがあって参りました」
「お願い?」
フィーナは、翠色の瞳で、まっすぐに俺を見つめた。
その瞳には、以前のようか弱さではなく、強い意志の光が宿っている。
「わたくしも、強くなりたいのです。ユウキさんのように、誰かを守れる力が欲しい。そして、長老様がお話しされていた、邪神の本体……その脅威を、この目で見過ごすことはできません」
彼女は一度言葉を切ると、意を決したように、深く頭を下げた。
「どうか、わたくしを、あなたの旅に連れて行ってはいただけないでしょうか!」
その言葉は、俺の胸に強く響いた。
俺自身、まだ「旅に出る」と明確に決めていたわけではなかった。だが、彼女の真剣な願いが、俺の心の迷いを吹き飛ばしてくれた。
《おおお! ついにヒロインがパーティーイン!》
《待ってました! これでこそ冒険譚だ!》
《二人旅か! 熱いな!》
視聴者も、この展開を祝福してくれている。
俺は、フィーナに向かって、優しく微笑みかけた。
「頭を上げてください、フィーナさん。……正直、俺もどうするべきか、少しだけ迷っていました。でも、あなたのその言葉で、決心がつきました」
俺は立ち上がり、空を見上げる。
この空は、遥か彼方、邪神の本体が眠るという『封印の地』まで続いている。
「行きましょう。二人で」
「! はいっ!」
フィーナの顔が、満開の花のように綻んだ。
こうして、俺たちのパーティーが結成された。たった二人の、小さなパーティー。だが、俺たちの背後には、視聴者という最強の支援者がついている。
「それで、ユウキさん。まずはどこへ向かうのですか?」
「そうですね……まずは情報収集です。邪神の『封印の地』について、何か知る必要がある。この辺りで一番大きな街……商業都市『リンドブルム』へ行ってみましょう。あそこの大図書館なら、何か手がかりが見つかるかもしれません」
目的が決まれば、話は早い。
俺たちは、アズールの村の皆に別れを告げた。
ハーガンは「いつでも戻ってこいよ、旦那」とぶっきらぼうに、村長は涙ながらに、俺たちの門出を祝ってくれた。
村の出口で、俺とフィーナは一度だけ振り返る。
俺に居場所をくれた、温かい村。
「「行ってきます!」」
俺たちの声が、綺麗に重なった。
辺境の村でのスローライフは、ここで終わりを告げる。
その先にあるのが、どんな困難な道だとしても、今の俺にはもう、何の不安もなかった。隣で輝くような笑顔を向けてくれる、大切な仲間がいるのだから。
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