第16話
アズールの村を出て、数日。
俺とフィーナは、王都へと続く街道を歩いていた。
「わぁ……! あれが、馬車というものですか! なんて速いのでしょう!」
「フィーナさん、危ないからあまり道に出ちゃダメですよ」
「は、はいっ! すみません! ……でも、すごい。人間の世界は、驚きに満ちていますね!」
初めて見るもの全てに、フィーナは子供のようにはしゃいでいた。その純粋な反応が微笑ましくて、俺は自然と笑みを浮かべていた。
道中、森狼やゴブリンの群れに遭遇することもあったが、俺が『
《うむ、微笑ましいのう》
《フィーナちゃんの初々しい反応、実に良い!》
《新人よ、もはや保護者だな! いや、新婚旅行か! カッカッカッ!》
視聴者も、この平和な道中を楽しんでいるようだった。
そして旅立ちから五日後。俺たちはついに、目的地である商業都市『リンドブルム』に到着した。
「……すごい」
フィーナも、そして俺も、目の前に広がる光景に圧倒されていた。
天を突くような巨大な城壁。ひっきりなしに人や馬車が出入りする壮大な城門。アズールの村とは比較にならない、人の熱気、喧騒、そしてエネルギー。
「ここが……人間の、街……」
フィーナが呆然と呟く。
俺たちは人波に乗りながら、なんとか街の中心部へとたどり着くと、まずは宿を確保し、冒険者ギルドへと向かった。
リンドブルムの冒険者ギルドは、王都のそれに匹敵するほどの規模だった。
屈強な冒険者たちが、昼間からエールを飲み交わし、武勇伝を大声で語り合っている。その荒々しい雰囲気に、フィーナが少しだけ俺のローブの袖を掴んだ。
「大丈夫ですよ」
俺は彼女を安心させるように小さく頷くと、受付カウンターへと向かった。
「すみません。街の大図書館を利用したいのですが、許可をいただくにはどうすれば?」
「大図書館のご利用ですか?」
受付嬢は俺とフィーナの姿を値踏みするように見ると、少し事務的な口調で答えた。
「利用には、身分を証明できる貴族の推薦状か、当ギルドが発行するCランク以上の冒険者証が必要になりますが……お持ちですか?」
「いえ、俺はFランクです」
俺が正直に答えると、受付嬢はあからさまに「はぁ」とため息をついた。
そのやり取りを、近くのテーブルで聞いていたガラの悪い男たちが、ニヤニヤと立ち上がった。
「なんだぁ? Fランクのひよっこが、お勉強か?」
「隣のかわい子ちゃんはエルフか? 俺たちと遊んだ方が、もっと楽しいことが勉強できるぜ?」
三人の男たちが、下卑た笑いを浮かべながら俺たちを取り囲む。お約束すぎる展開に、俺は内心うんざりした。
「用はない。どいてくれ」
「ああん? 生意気な口をきくじゃねえか、小僧!」
リーダー格の男が、俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてくる。フィーナが「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。
俺は、その汚れた手が俺に触れるよりも速く、腰の聖剣『
――抜いては、いない。ただ、触れただけ。
だが、それだけで十分だった。
「「「ッ!?」」」
聖剣から漏れ出した、微かだが絶対的な神聖なオーラが、男たちの邪な心を直接撃ち抜く。
三人は、まるで金縛りにあったかのようにその場で硬直し、顔を真っ青にしてガタガタと震え始めた。本能が、死を悟ったのだ。
「……もう一度言う。どいてくれ」
俺が静かに告げると、三人は声にならない悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「……お見事」
その一部始終を、ギルドの隅のテーブルで見ていた人物がいた。フードを目深に被っており、顔はよく見えないが、女性のようだ。
「お客様、大変失礼いたしました」
騒ぎを聞きつけたのか、ギルドの奥から、恰幅の良い、支配人らしき男が現れた。彼は俺の実力と、腰の剣がただものではないことを見抜いているのだろう。その目は、探るような、それでいて敬意の色を浮かべていた。
「どうやら、ランクだけで判断できる御仁ではないようだ。よろしければ、お話をお聞かせ願えますかな?」
「……ええ、実は――」
俺が事情を説明しようとした、その時だった。
ギルドマスターは、俺の言葉を遮るように、一枚の
「話は後ほど。あなたほどの御仁に、丁度よい依頼が一つございます。特例として、図書館の利用許可を約束いたしましょう。……この、誰も手を付けたがらない厄介な依頼を、解決していただけるのなら、ですが」
その視線の先には、一枚だけポツンと残された、黒い羊皮紙の依頼書があった。
依頼内容は『ワイバーンの雛の保護』。だが、その下には『ただし、親鳥の討伐は禁ずる』という、奇妙な一文が添えられていた。
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