変な自販機の変なジュースを飲め!※今回は更新ここまでです

「まずはぁ、地下鉄乗りなさいって!」

アイナはスマホを見つめながら学校の近くの駅まで歩こう、と提案する。


「おい、俺のチャリは?」

「アイナは電車通学なので自転車がないんです、押して行きます?それともアイナを乗せてくれる?」

アイナはニコニコ笑うとそう言った。


リクは駐輪場まで走ると自転車を押しながら「アイナちゃんには敵わねぇなぁ、駅に置いとくかぁ」と満更でもなさそうに笑う。

ユキはリクのこういう所がなんだか嫌だ。


「ユキ、喉渇かねえ?」


リクは自販機を見つけたのかユキにそう声を掛けてくる。

リクは自販機があるとすぐ飲み物を買うのだ。ついでにユキにも買ってくれるけど……ユキはなんだかそれが申し訳ない。


「……別に。アイナは?リク買ってくれるってさ!」

ユキはアイナを振り返るとそう言った。

「えー!ラッキー!じゃあ私ブルーレルでお願いしまーす♡」アイナは可愛らしい声を出すとリクの方に身体を傾けエナジードリンクの銘柄を指定する。


「アイナちゃんカフェイン中毒者?」

「そうなんです。エネルギーチャージしたい!手が震えてきた」

リクは自転車を路肩に停めると自販機に歩み寄る。

最近は自販機のデザインも多種多様だ。

お店の外見に合わせて外側がおしゃれに塗装されているものもよく見る。




「真っ黒なんだね」

ユキはその自販機の外見を見てそう言いながら歩み寄った。

その自販機は真っ黒に塗装されていて……一見不気味だが、別の見方をすればクールなデザインに見えなくもない。


「あれ?」


リクは自販機の前に立つと妙な声を上げている。

「なに?」

ユキはアイナの後ろから自販機を見た。

そこには同じ缶がずらりと並んでいて……どれも中身が何かわからない。

なぜなら全て黒く塗りつぶされた缶だからだ。



「えー?今どき100円!?安い!」

「え?アイナ……そこ?」

アイナはキラキラした目でそう言うとユキの方を向いた。

「ね♡先輩、100円ください♡」




「…………は?なんで私?リクに貰えっつーの!」

「えー!ダメ!リク先輩じゃなくて…ユキ先輩のが欲しいのー!」アイナは頬を膨らませながらクネクネと言った。

「えー!?ねえリク……私ね」ユキがリクにコッソリと耳打ちがしたくて歩み寄りつま先立ちをした。ユキはあまりお金がない、リクに出して欲しい……と助けを求めようとした。


そうユキが言い終わる前にリクが「アイナちゃん俺が出すよ」とヘラヘラして言ったけれど……「……じゃあユキ先輩に渡してください」とキリッとした顔でアイナが言う。


「なんでそんなに私から貰うことに執着してんだよ……キモいなぁ」ユキは根負けして財布からなけなしの100円玉を出してアイナに渡す。

「だってぇ……リク先輩に面倒くさい女だと思われちゃうじゃないですかぁ!」アイナは悪びれもせずにアイナから100円玉を受け取ると「あーすっ」と軽く感謝を述べる。


「今十分面倒くさいと思ってるよ、きっと」

「あははは!ノープロブレム!」ユキはケラケラ笑いながら自販機に向かうアイナをじっとりした目で見送った。



リクがコッソリユキの財布に自分の財布から100円を補填したので「別にいいのに……」とユキは口先を尖らせた。

「いいよ、本当は俺お前にご馳走したかったんだからさ」と肩を抱こうとしたので、それを避けながら「……まあ、ありがとう」とできるだけ素っ気なく言う。



ガチャンッ



アイナが自販機の前で屈むと中から商品を取り出している。


「なにそれ……」

それは自販機の表示と全く同じの……真っ黒な缶だ。

「まあ、嘘偽りはなさそう!」

アイナは明るい調子でそう言うと、パシャパシャ写真を撮った。恐らくSNSに載せるのだろう。


「えー?飲むのやめな……アイナ」

「うーん……最近ヤラセとか……炎上するんですよねぇ……」

「へんな缶ジュース買った、でいいじゃん……」


アイナはうーん、と首を傾げながら深く考え事をするふりをしている。

ユキはアイナからそれを奪い取ると成分表示を眺めた。


「あ、ユキ先輩泥棒!」

「なんて人聞きの悪い……私の金だろ!」

黒い缶は全てが真っ黒で……成分表示などはないくせに「アルミ」とだけはしっかり記入してある。


「絶対絶対に飲まない方がいいよ」

ユキは力強くアイナに言った。

リクはこのやり取りに飽きてきたのか、自分の足元に寄ってきた猫を撫でながら口笛を吹いている。


「えー、せっかく買ったのにぃ」

「また新しいの買ってやるから……」

ユキはアイナより背が高いので、腕を高く伸ばし彼女がジュースを奪い取るのを阻止している。アイナは暫くぴょんぴょんと飛び跳ねていたけれど……「わかりました!もう諦めます……」としょんぼりしたので、ユキは痺れてきた手を下ろす。




その隙をついてアイナはユキからジュースを奪い取ると、遠くに走りながら缶を開けた。

「あ!おいこら!」

「先輩は甘いなぁ!これで万バズ間違いなしですよぅ!」

アイナはそう言いながらぐいーッと一気にそれを飲み干した。



「…………」

「ああ……」

ユキは絶望感にアイナを見つめ、気をハラハラさせた。

彼女はそれを飲み干してから……一切動かなくなったからだ。


「ねえちょっと……大丈夫?」


ユキがそっとアイナの肩に触れると「うげーーーっ!」っとえづいた。「うわ!きったないなぁ!」

「もー!!なにこれなにこれ!ドブの味がするー!!ドロッとしててツブツブしてて最悪!なにこれ?タピオカ?」

「うえー!やめてよ食レポすんな!」

ユキはアイナの妙に上手い食レポに顔を顰めて彼女の手から缶を奪う。

「はー?全部飲んだの?」

ユキは空っぽの缶を逆さまに振ると信じられない気分でアイナを見つめる。「ぐいーっとやっちまいました……」アイナは手で口元を押さえると青白い顔をしてそう言った。

「アイナちゃん大丈夫?今日はもう解散にしようぜ。駅まで送るよ、な?ユキ」

リクはアイナの顔を覗き込むとそう言った。





「あー、ごめんごめん!」

ユキはバタバタと玄関で靴を脱ぎ捨てると、もう既に帰ってきていたハルキに軽く謝る。

ハルキは風呂上がりなのか、首からタオルを掛けて「大丈夫だよ、気にすんなって」と鍋の中身をグルグルかき混ぜている。

ハルキはユキの3つ下の弟だ。

今、高校受験に向けて塾に通っている。


「姉ちゃんも高校生だし色々あるだろ。俺も料理は気分転換になるから……いいよ気にしなくて」


そう言ってタオルで顔を拭いた弟の背中をユキは見つめた。


随分と大人になった――――――

最近まで赤ちゃんだった気がするのに。





「リクくんとキスした?」

ユキが思いを馳せているとハルキがニヤニヤしながら振り返りそう言ったので、ユキは弟の言動に感動した自分にムカつきながら「リクとはそんなんじゃないってば」と少し乱暴に荷物を床に置いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼面町の都市伝説を解明せよ! mokumoku @mokumokumokumoku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ