パブロ

白川津 中々

◾️

 画家になりてぇ。

 そう思い立ちカンバスと油絵具を購入。木炭とか練り消しとかパンの耳とかいるらしいがそんなものを使うのは俺の絵ではない。ラフ? いらん。男がチマチマと準備などするものではない。故にそれを消す道具も必要ないのである。だいたい過去を修正するような行為は絵でなくても好かん。一度描いてしまったら人生と同じでやり直しなどきかないしきかせては駄目。一発こそ誉咲く桜の潔さ(だから俺はもっぱらボールペン派だ)。それが俺のアートであり生き様。勢いよし。気持ちよし。表現力未知数なれど、想像力は無限大。少し茶がかったカンバスに色を塗り、当たりをつけて筆を走らせれば可愛いカワウソが描けちゃいました! ちくしょう! 失敗だ! 全然可愛くねぇ! 線はガタガタだし色合いもなんだか胡乱。ボロ雑巾と言われたらそう見えてしまう。何日もかけて絵具を重ねてきたのに生まれたものが結果ゴミとはなんたる喪失感。これ程の絶望は人生経験初めての事。絵など描くんじゃなかった。表現などするんじゃなかった。水族館で見たカワウソを可愛い可愛いしておくだけで満足しておくべきだったのだ。ズブの素人が立体を平面に落とし込もうだなんてどだい無理な話。専門学校なり絵画教室に通いながら女々しく練習すべきだった。


 ……いや、何を守りに入っているのだ俺よ。

一度紙に描いてしまったらやり直しはきかないと自分でいったではないか。即ち、アートの道を志した以上はもう戻れないのである。自分なりに完成系を作り上げるしかない。


 そこで閃いた技法がある。

 立体が描けないなら全部平面にしてしまえばいいのだ。複数の視点からものを捉え全てを正面に集約する。こうすれば陰影だの凹凸だのを気にせず見たままに描けるし、気持ちアートスティックではないか。あれ? なんか、凄い発見をしてしまった気がするぞ? なんだかこれはちょっとやっちまうかもしれん。俄然やる気が出てきた。描くぞ、描くぞ!   


 あ、これキュビズムっていうんだ。ふぅん。


 やめよ、絵描くの。

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