第2話「所変われば人も変わる」

~人間とは、TPOをわきまえるものである。~


玄関を叩くと、上官の奥さんと子供2人が出てきた。

上官は目を覚まし、「ただいま」と言った。


奥さんは言った。「今日は早いのね」

子供は言った。「パパ、おかえりなさい!」


すかさず田島が切り返した。

「あれー上官、さっき何か喰らわすって言ってなかったっけ?」


上官「くそー、貴様…!」


田島「なんかうめーもんでもあるじゃろかい」


奥さん「竹の子の皮のおしゃぶりならあるわよ」


小隊15人は凍りついた。

上官といえども、贅沢はできていないんだ。

富士は、貧乏時代に三日間竹の子の皮で過ごした記憶がよみがえり、

意識が遠のいた。


上官は恥ずかしそうに下を向いていた。

田島は上官の背後に回り、上官にだけ聞こえる小声で言った。


「なんでぇ。場所が変わったらやれねーのか」


そう言った後、大きな声で叫んだ。

「肩もみをさせていただきます!」


「1、2、3…10!」

小隊全員で励ますように声をかけると、

上官はまたしても不覚にも寝てしまった。


奥さん「主人はいつも肩もみされるとすぐ寝てしまいますの。

    許してあげてくださいね」


田島「そいつは、結構」

表ではぶっきらぼうに返したが、言葉の温かさが妙に気になった。


田島「だが、戦場ではそうはいかない」

そう言って、鋭い目で“あっぷっぷ”をした。


子供は大笑いし、奥さんも同じように鋭い目で

“あっぷっぷ”を返した。


そんな中、田島のこの行動が日本を変えるかもしれないと

思う人物がいた。

ハーバード卒の高橋である。


高橋「貴族院では国家総動員法の採決がいま行われている。

   この法案が通れば、国民の財産はすべて国のものとなる。

   国民は士気を失い、国力は衰退し、日本は窮地に

   追い込まれる」


富士「もう何もかもおしまいだ…」


田島「いいアイデアがある。国会に乱入して、近衛(首相)の

   おやじの肩を、上官、あんたが揉め。

   そして『総動員なんかしなくても、

       我が小隊でなんとかしてみせます!』

       って叫べばいい」


田島のアホさに、小隊は凍りついた。

高橋は自らの発言を後悔した。

富士はわんわん泣いて、せき込んだ。


上官「そんなことできるわけねーだろ!」


田島「なんでー?自信がないのか?

   なら小隊なんてやめちまえばどーだ。

   でも心配ご無用。それまでは眠ってもらうぜ」


そう言うと、ハイテンションで肩もみを始めた。

上官はすぐに寝た。


小隊の一行は、上官を担いで市ヶ谷から国会議事堂まで

行進を続けた。

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