13輪.姫のわがまま
静かな朝に、突如として破裂音が響き渡る。
それは何発も続き、イブキはたまらず飛び起きた。
「!?な、なに、この音!」
「もう、なに~?うるさいんだけど……。ふぁ……」
隣のベッドからアムの眠たそうな声が聞こえる。
「ほら、この音!どこかで銃撃があってるのかも」
イブキはめでたい日に大変なことが起きていると、気が気でなかった。
しかしゆっくり体を起こし、耳を澄ませたアムがあっけらかんに言う。
「あぁこの音?きっと花火だね。今日は戴冠式だから」
「はなび」
首を傾げるイブキと再び眠りにつこうとするアム。
そこに、コンコンとドアをノックする音が。
2人の返事の前に扉がゆっくり開かれると、ルルが姿を現した。
「おはようございます。お二方。朝食の準備ができましたので持ってまいりました」
昨日の楽しげな表情とは一変して、再び険しい澄ました顔に戻っていた。
「朝ごはんまで!?ありがとうございます」
アムが飛び起きて目を輝かせ、ルルの元に歩み寄る。
用意されていたパジャマがだいぶ大きく、ズボンの裾を引きずっている。
「それと、食べ終えたら少しお時間良いでしょうか?」
「大丈夫ですけど、何かありましたか?」
「いえ、その……姫が会いたいと申しておりまして」
「姫が!?なぜ!」
完全に目を覚ましたアムが目を大きく見開いて後退る。
ルルは申し訳なさそうな表情を浮かべて一礼した。
「私は部屋の外で待っておりますので。ごゆっくりどうぞ」
「ごゆっくりって……」
「姫様待たせる訳にはいかないでしょう」
「あ!イブキずるい!いつの間に!」
いつの間にか着替えを済ませていたイブキは席に着き、スープに手をつけている。
アムも大慌てで服を着替え、急いで朝食を食べる。
テーブルの脇にある窓の外の景色は、昨日よりも人だかりが増えて姫を一目見ようと、朝にも関わらず各国の来客も続々集まってきているようだ。
「お、お待たせしました!」
「あら、随分早かったですね。行きましょうか」
ものの数分で朝食を済ませドアを勢いよく開けると、ルルが壁に背をもたれて立っていた。
思ったよりも早く2人が出てきたので気を抜いていたのだろうが、すぐに背筋を伸ばして2人についてくるよう促した。
「9時から各国の要人が代わる代わる挨拶に来る予定なのですが、姫がどうしても2人に会っておきたいとわがままを言い出して。申し訳ありません」
廊下の途中で何人かの使用人とすれ違うが、皆忙しそうで特に2人の存在を気に留める物はいなかった。
ルルもキビキビと脇目も振らずに歩いて行く。
イブキは身長のリーチがあるので余裕で着いていけるが、アムはほとんど小走りで着いて行っている。
「いえ、こちらも姫に許可を取らずに城に泊まらせてもらったので、ちゃんと挨拶したいです」
「確かに姫には挨拶してませんね、ふふ」
イブキの言葉にルルは肩を震わせて笑っていた。
イブキは何かおかしな事を言ってしまったのだろうかと首を傾げた。
「姫、失礼します。2人を連れて参りました」
分厚そうな扉の前で立ち止まり、少し声を張り上げたルルは力を込めて扉を開ける。
部屋の中は木製のシンプルな家具が並び、全体的に茶色と白で統一されている。
「ありがとう、ルル。わがまま言ってごめんなさいね」
奥の椅子に座って朝日を浴びながら窓の外を眺めていた姫が立ち上がる。
背中に大きくスリットの入った黄色のドレスが、褐色の肌をより美しく際立たせる。
イブキとアムは見覚えのあるその顔に口をあんぐりと開けた。
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