14輪.トラブル発生
ついに幻の姫に謁見するアムとイブキ。
しかし、そのシルエットにひどく見覚えがあり2人は顔を見合わせて口を揃えた。
「サン!?」
「ふふ、驚かせてごめんね。イブキ、アム」
サンは罰の悪そうに頬をかき、黄金の瞳が奥でキラキラと煌めいている。
そのいたずらっぽい笑みは、昨日の少年の笑い方と全く同じだった。
「え〜!すっごくかわいい!似合ってるよ」
「ありがとう」
アムがサンに駆け寄り、ドレスを褒める。
サンは照れくさそうにはにかみを浮かべる。
しかし、イブキは部屋の入り口で立ち尽くしていた。
「イブキ……?」
身分を偽って騙すような真似をしたので、もしかして怒っているのだろうかとサンは縋るようにイブキの名を呼ぶ。
「とても似合ってますよ、お姫様」
イブキは優しく笑ったので、サンは胸のつかえが取れたようでイブキの元へ歩み寄ってくる。
アムも後ろでその様子をにっこりと見守っている。
「ちょっと、お姫様だなんてやめてよね」
「じゃあ、サン?」
「それも実は違うんだよね、私の名前は……」
その時、重たい扉が再び開かれ、若いメイドが部屋に飛び込んできた。
「ルルさんー!大変です!」
「何です、騒々しい」
急いで走ってきたのか、そのメイドは肩で息をして膝に手をついている。
ルルはその作法をたしなめたが、背中を支えて椅子に座るよう促した。
「ミエーノ国の王子が、早く姫に会いたいと大臣達に詰め寄ってて」
椅子に座って息を整えると、まだ幼い顔つきのメイドが顔を上げてルルに報告した。
「あの王子……!謁見までにはまだ時間があるのに、少しでも印象付けるためか?厄介な」
ルルはいつもの険しい顔を更に険しくさせ、爪を噛んでぼやいた。
脇に座るメイドは萎縮して、床に目を落としている。
そんな様子を見てサンが口を開いた。
「いいわ、ルル。今まで皆さんをお待たせしたんだから、これ以上待たせるわけにはいかないわ。少し早いけれど、行きましょう」
サンが胸を張ってルルの前に立つ。
そして、座っているメイドの方を見て大丈夫だと言わんばかりに頷く。
メイドは安堵したように顔を綻ばせ、サンを見上げた。
「イブキ、アム」
昨日とは雰囲気の違う落ち着いた声音に、2人は思わず背筋を伸びてしまう。
「姫として初めて会う人達があなた達でよかったわ!今日は楽しんでいってね」
姫は振り向きざまに美しく微笑むと、ドレスをつまみ上げて優雅に一礼し、ルルと共に廊下に出て行った。
2人は手を振ってそれに応えることしかできなかった。
「まさかサンがお姫様だったとはねー、びっくりした」
「うん。本当に……」
イブキはサンの門出を喜ぶ一方で、姫を1人にしてしまった原因は花御子というルルの話を思い出し、サンに嘘をついている気持ちになり、自分がこの場に居て良いか心に影を落としていた。
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