第12話 あたしの心の中がバレちゃった⁉


 給食の時の〝落とした食べ物消失マジック〟は、単なるマジックとしてだけではなくて、こぼしても洋服が汚れないスゴ技として琉花の興味を引いた。

 でも、あたしは説明できないからってはぐらかして、笑ってごまかしてばかりいた。

 そうしたら、あたしがどうやって食べているのかに注目されるようになっちゃった。

 琉花はお姉さんみたいだけど、やっぱりあたしたちと同い年の女の子なんだ。

 それでいて、興味を持ったらそれに一直線――って、やっぱりお姉さんじゃん?

 あたし、そんなに一つのことにまっすぐになれないよ……。

 琉花はきっと、何かについて深く知ることを計画して産まれてきたんだろうなぁ。

 あたしはニャムにボトボトと給食を分けてあげられなくなったから、分けやすいもの――パンとかを、もぐもぐしているときにそれとなくニャムに渡すようになった。

 でもニャムは『あれがいいのに、これがいいのに』と文句を言うし、琉花は「また見せてくれたっていいじゃん」と頬を膨らませる。だから、最近の給食はなんだか憂鬱。

『ニャんニャニャ~ん』

 今日のニャムは、なぜだか机の上にちょこん、といる。直接食べられないから、いつもはあたしの足の上でコソコソしているっていうのに。しかもご機嫌。謎だらけ。

 わけが分からないけれど、あたしのマジックがいつ炸裂するかを未だ気にしている琉花には見えないニャムの機嫌を気にしなくていいみたいだから、気分はちょっとラク。

「なぁ、奈子。奈子ってさ、牛乳好き?」

 突然、シュンくんに話しかけられて、ちょっとラクだったはずの気分がぜんぜんラクじゃなくなった。

 すっごく……ドキドキする!

「嫌いじゃないけど。どうして?」

「ああ、いや。今日さ、もう一本飲みたい気分なんだ。毎朝飲んでくるんだけど、今朝は買い置きがなくて飲めなかったからかな。物足りない感じでさ」

「そっか。それなら、あたしのあげる」

「マジ? サンキュ」

 あたしには水筒の水っていう飲み物があるもん。

 牛乳の一本くらい、どうってことない。

 一日くらい牛乳を飲まなかったから骨が折れるでもあるまいし。

『ニャ、ニャニャニャ』

 突然、ニャムがクスクスと笑いだした。

 原因は何? って考えて、あたしはニヤついていることに気づいた。

 恥ずかしい。ほっぺたをぐいぐいと押したり引いたりする。

 そんなわかりやすい行動をしていたら、いつの間にか琉花にじーっと見られていた!

「奈子、やっぱり最近……なんだか変な気がする」

 まるで、名探偵が真犯人を探すときみたいな目だ。

 もう、これ以上詮索されたくない!

 あたしはトレーの上に残っている食べ物を、あれもこれも口の中に詰め込んだ。

 一気に食べて、食器を片付けちゃおう! って思って。

 だけど、急ぎすぎて苦しくなっちゃった。

「……!」

 待って? あたし、給食で死んじゃう⁉

 慌てていたら、

「落ち着け、落ち着け。ゆっくり落ち着いて噛んで、飲め」

 と、焦りを隠しきれない声とともに、背中に優しい手がやってきた。

 言われたとおりに、必死になって噛んで、ごくん、と飲む。

 すぅ、はぁ、と息をする。

 優しさをくれた人を見る。

「ごめん、ありがとう」

「ごめん、オレのせいだ」

「いや、そんなことないよ」

「だって、牛乳あったら流し込めたかもしれないじゃん?」

「いや、急いでたくさん口に入れたあたしが悪いの。牛乳があるかどうかは関係ないよ」

 こんなに自然に言葉を何度も交わしたの、初めてかもしれない!

 ドキドキする。

 ふと、視線を感じた。その方を見てみる。

 ニャムが口をタコみたいにして、ニヤニヤしている。声には出さないけれど、きっと今、『ヒューヒュー』とでも言っている。いや、『ニャーニャー』なのかなぁ。

「……で、琉花はどうした?」

 シュンくんの興味が琉花に移った。

 そんなぁ!

 あたしも琉花のほうを見てみる。すると琉花は、眉間にしわを寄せて、あたしたちのことをじーっと見ていた。

「え、えっと?」

「ねぇ、奈子」

「ん? なに?」

「奈子ってさ、もしかして、シュンのこと……」

「はい、そこ! しゃべってないで、よく噛んで食べる!」

 先生に注意されて、あたしたちはへこへこと頭を下げた。

 先生が今まで黙っていて、今になって注意してきたのは、いったいどういうことなんだろう。

 ニャムを見る。あたしの視線を感じるなり、そっぽを向いて、鼻歌を歌いながら左右に揺れ始めた。

 はぐらかしている。このネコ、絶対何かを知っている!

 あたしはニャムのしっぽをぎゅっと握った。

『フニャっ!』

 ニャムがあたしを睨みつけてきた!

 あたしはそんなニャムを、ニャムの視線に負けない強いまなざしで見ながら、〝これもけいかく?〟と、口を動かした。

 けれど、ニャムはプイっと首を動かしてぴょんと机から飛び降りると、どこかへ行ってしまった。

 さすがに、触られて嫌な部分を触るのはやりすぎだったみたい。

 あたし、あとでニャムに謝らないといけないな。



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