第11話 給食のさかニャ


 四時間目が始まる前、「お腹空いた~」っていう子が多かったし、四時間目の最中にお腹を鳴らしている子が何人もいた。

 ちなみに、ニャムもお腹を鳴らしていた。そのあとあたしと目が合って、ポッとほっぺたを赤くして、それから何食わぬ顔をして散歩へ出かけていった。

 そんな空腹を乗り越えて迎えた、待ちに待った給食の時間!

 どんどんと広がっていくおいしそうな香りにつられて、どこかへ行っていたニャムが帰ってきて、

『ニャコ、今日はニャに? いいにおい!』と笑う。

「今日は、なんだったっけ? たしか、サバの味噌煮だったような」

『さかニャ~』

 ニャムは両方のほっぺたが垂れないように支えている。その顔は、時々感じる憎たらしさをスパイスだって思わせてくれるくらいに可愛かった。

 だから、お魚をわけてあげよう、と思うけれど……。

 どうしたらサバの味噌煮をわけてあげられるんだろう。

 勝手に食べて、って言いたいところだけれど、人目につくところじゃだめだ。

 となるとやっぱり、足の上にいてもらって、ニャムに向けてこぼして、キャッチしてもらうべき?

「奈子ー! 給食とりにいこう」

「ああ、うん!」

 考え事をしていると、時間がひゅんと素早く過ぎていく。いつの間にか順番が来ていたみたい。琉花に声をかけてもらうまで全然気づいていなかった。

 立ち上がると、ニャムがあたしの席にぴょんと飛び乗った。それから今にもよだれを垂らしそうな顔で、あたしを見た。

 まるで、犬みたい。

 本当に、変なネコ。

「どした? 机に大事なものでも隠してるの?」

「ううん。なんでもない」

 隠していない、みんなに見えないだけで堂々とそこにいるネコから目をそらす。

 それから、前に並んでいたみかんに視線をうつした。

 ニャムとは違って、ずいぶんとしょんぼりしている。

「みかん、何かあった?」

「ああ、奈子ぉ。やっと給食だってるんるんしてたんだけどさ、わたし、忘れてたよぅ。今日、サバじゃん」

「みかんって、青魚嫌いだよね」

 琉花があたしに隠れてクスクス笑いながら言った。

「そうなんだよねぇ。鮭は好きだよ? マグロも好き。だけどサバとかサンマとかは嫌い」

「なぜに?」

「ホネホネしてるから」

 魚はだいたい骨があるけどな。お刺身とかがいいってことかな。

「わかる! あとさ、健康志向ぶってる感じがする!」

「そうそう! よくわかってんじゃん! よぅし、琉花を青魚嫌い部に入部させてあげよう」

「なにそれ。誰が作っていつ活動してるの?」

「今わたしが作った! 活動経験はない!」

 あはは! と笑い声を響かせていると、先生の席から鋭い視線を感じた。三人そろってそろりと視線を動かすと……やっぱりだ。睨まれている。

 先生の口が〝静かにさっさととりなさい!〟と言ったかのようにパクパク動いた。

 あたしたちはへこへこしながら、急いでトレーにお茶碗やお皿を載せていった。

 トレーをもって席へ行くと、待ちくたびれたのだろうニャムがぴょこんと席から降りた。

 あたしがスムーズに座れた方が早くサバにありつける。そんな未来が見えたんだろう。

「これ、青魚嫌い部に未入部の奈子にあげる!」

 ニャムに気を取られているとき、みかんがそう言って、あたしの承認を得ずにあたしのお皿にみかんの分のサバの味噌煮をのせた。

 パチッとウインクを決めて、何食わぬ顔をして、みかんはみかんの席に着く。

 あたしは困惑しながら、先生をちらりと見た。たぶん、バレていない。

 席に腰かけ、ニャムを見る。

 今にも俊敏なネコの手で、ふたつになったサバの味噌煮を両方とも掴んで食べだしそうな顔だ。

 足をトントン、と叩く。ニャムへの〝のぼっていいよ〟の合図。

「それでは、日直さん」

「はーい! それではみなさん、手を合わせてください。美味しい給食を作ってくださった、すべての皆さんに感謝して、いただきます!」

「「いただきます!」」

 みんなが食べ始めるのと同時に、ニャムがあたしの足の上でぴょこぴょこと跳ねだした。はやくよこせ、と言っている。

 ……あれ? 結局、どうやってニャムにあげるんだったっけ?

 あたしは少し前のことを思い出そうとした。でも、何も思い出せない。ううん、違う。いい案なんて何も思いついていないんだった!

 考えがまとまらないまま、あたしはサバの味噌煮を箸でつまみ上げた。

 とりあえず、一口食べてから考えよう。

 だって、あたしだって腹ペコで、だから頭が回らないんだもん!

 大きく口を開けて、サバをパクッと――

「……うニャ!」

「え、奈子、大丈夫? どうした? 急に。今絶対こぼしたでしょ。ティッシュつか……う?」

 あたしはティッシュを出そうと引き出しに手を突っ込んでいる琉花と一緒に、足を見た。

 そこには、頬を膨らませてサバをもぐもぐしているニャムがいる。

 あたしにはそう見える。

 じゃあ、琉花には……?

 ゆっくりと琉花のほうを見る。琉花は不思議そうにあたしの足をじーっと見ながら、

「この前もやってたよね? っていうか、今回トイレに行ってなくない? どういうこと? タネ、教えてくれない? わたし、そのマジックに興味ある!」

 やばい! このマジック、タネはあるけど説明できない!



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