第6話 人生には、計画書がある?
あたしは、必死になって考えた。何を聞いたらいいんだろう。聞きたいことは山ほどある。だから余計に、何を聞いたらいいのかわからない。
「え、ええっと」
『ニャに?』
「あたし、いつ計画書を書いたんだろう」
『そりゃあ、産まれる前だニャ』
「はぁ」
『生き物は、産まれる前に、計画書を書くニャ。それで、それが承認されると、産まれる準備が始まるニャ』
だからあたしは何も知らないんだ。だって、あたしには、おむつをしていた記憶すらないんだもん。産まれる前のころのことなんて、そりゃあ覚えていないよね。
「ニャるほどね。ねぇねぇ、ニャム。ちょっと気になることがあるんだけど」
『ニャンだニャ?』
「命の中にはさ、無事に産まれることができない命もあるでしょう? そういうのも、計画通りなの?」
『いい質問だニャ。どんニャ命も、計画通りだニャ。ただ』
「ただ?」
『そういうことにニャる計画書は、ニャんか雑だったりするニャ』
「雑?」
『例えばだニャ。愛情たっぷりもらうまで生きる、って計画だとするニャ。そうしたら、お腹の中で愛情たっぷりもらったらそれでおしまい、ってニャったりするニャ』
確かに、計画通りではあるみたいだけど……。たぶんその計画をした人、〝ニャンかちがう!〟って思っていると思うよ?
「ねぇねぇ、じゃあさ、〝子どもは親を選んで生まれてくる〟っていうのは? それも、計画の内ってこと?」
あたしはすっごく真面目に問いかけた。それなのに、ニャムはくつくつと笑っている。あたし、そんなに変なことを聞いたかな。
『ニャコはその話、本気にしているニャ?』
「え? ああ、まぁ……。そうかな。小さいころっていうか、ギリギリ記憶があるころかな。そういう絵本を読んでもらったことがあるし」
『へぇ。じゃあ、言わニャい』
「……は?」
『ニャコの計画書に、ニャコの夢を壊してとは書いてニャいからニャ』
「ちょっと! それってつまり、子どもは親を選んでないってことじゃん!」
『ニャニャっ! ニャぜバレたニャ⁉』
ニャムが短い両手で必死になって顔を隠そうとしている。でも、全然隠れていない。だから、あたしとニャムの視線はばっちり合っている。
視線を外さないで、じーっと見つめ続けていると、ニャムの顔になんだか汗が浮かんできた……そんな気がした。
「じゃあ、どうやって親を選ぶの?」
『夢は諦めたのニャ?』
「うん。今は夢とか理想とかそういうのより、現実に興味がある」
『じゃ、じゃあ教えてあげるニャ。計画書が承認された後、その計画書に合ったお母さんを探すのニャ。それで、いいお母さんが見つかったら、いってらっしゃいってするニャ』
「なるほど。つまり、子どもに合う親が選ばれるってことか。ねぇねぇ、見つからないことってないの?」
『よっぽど欲張りニャ計画を立てない限り、見つからニャいことはニャいニャ。っていうか、欲張りニャ計画は〝やりニャおし!〟って言われてしまうから、承認されることがニャいのニャ』
「ふーん。じゃあさ、さっきの話に戻っちゃうんだけどさ。無事に生まれることができない命を授かるお母さんは、そういう計画をしていたってこと?」
『そういうことニャ。まぁ、〝無事に産めニャい〟って計画する人は、そうそういニャいけどニャ。神様から試練を与えられて乗り越える、とか計画したんじゃニャいか?』
何それ。それが本当だとしたら、神様の試練ってなかなか厳しくない?
あたしも、計画書に〝神様に試練を与えられる〟って書いちゃっていたりするのかな。
気になる。未来が気になる。
今、あたしの目の前には、あたしの人生計画を知っているらしい、会話ができるネコ型の化身がいる。
聞くしかない。あたしの人生がばら色か否か、聞くチャンスを手放したくない!
……って、考えてしまうのも計画の内なのかな。って考えると、計画に抗いたいような気がしなくもない。
ああ、あたし、いったいどうしたらいいの⁉
『ニャにしてるニャ? 頭かゆいニャ?』
「かゆくはニャい! と、ところで、なんで計画書の化身は見えない存在ってことになってるの? 別に見えても構わないんじゃないかと思うんだけど」
だって、ほら。憎たらしいところもあるけれど、まぁ……けっこうかわいいし?
『うーん。ちゃんとしたことはわからニャいけど、噂で聞いた話だと、計画を無理に変えようとするようニャ奴がいて、そのせいで大変ニャ思いをした計画書がいたらしいニャ。だから、計画通りに進むように、こっそりこっそりできるようにって、こんニャ感じにニャったらしいニャ』
「へぇ」
『そんニャわけで、ニャムのお先は真っ暗だニャ。だって、ニャコにバレちゃったんだもん。この先いったいどうしたらいいものニャのか……』
ニャムが大きなため息をついた。自分がしたことだっていう自覚なんてないけれど、でも、あたしのご先祖さま……じゃないな、魂、でいいのかな。とにかく、あたしの計画のせいで真っ暗だって思わせちゃったんだもんね。ここはしっかり謝っておかなくちゃ。
「ニャム、迷惑かけてごめんね……って、ああっ!」
『ニャ、ニャンだニャ⁉︎』
「お菓子! 全部食べたな! あたしの分! あたしの分は⁉」
『ニャ! しゃ、謝罪のしるしとして受け取っておいたニャ!』
「ふざけないでよ! じゃあ、全部食べちゃった謝罪のしるしとして、お先真っ暗を受け入れなさいよね!」
『そ、そんニャ~』
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