第5話 ニャムはいったい何者なの?
「た、ただいまぁ……」
家に帰ったとたん、どっと疲れが押し寄せてきた。いつもだったらすぐに家の中に駆けこんで、荷物を放り投げるところだけれど、今日はとりあえず腰をおろす。
「はぁ……」
ここなら誰かの視線を気にせずにニャムと話せる。そう思うと、緊張の糸が急に切れた。けれど、急いで結びなおす。誰かの視線がないのは、お母さんが帰ってくるまでの間だけ。そのあとはまた、誰かを気にしないといけなくなる。
のんびりなんてしていられない! ひとりぼっち……ううん、ニャムとふたりぼっちの間に、いろいろと聞きださなくっちゃ!
あたしはすっくと立ちあがると、荷物を放り投げてキッチンへ向かった。それから、お菓子の引き出しを開けて、あれもこれも掴んで、テーブルへと運んだ。
『わーい! たくさんあるニャー! いただくニャー!』
「どうぞどうぞ……って、こら!」
『ニャニャっ!』
「ニャムはダメ!」
『ニャンで!』
「あたしはニャムのせいでお昼食べそこなってお腹ぺこぺこなの! あたしが先! それに」
『それに?』
「あたしの質問に答えてくれたら、お菓子をわけてあげる」
『ニャんだ、そのご褒美方式! ニャムはペットじゃニャいんだぞー!』
「じゃあ、ニャンニャのよ!」
『ニャムは! ……って、あれ? そういえば、ニャンでバレたニャ?』
ニャムの頭の上に、ハテナマークが浮かんで見えた。
ニャムが顎に手を当てて、眉間にしわを寄せて、にゃーん、と唸っている。
あたしはクッキーを口に放り込んで、もぐもぐしながら、
「バレないはずだったの?」と聞いてみた。
『そりゃーもちろん! ニャムは人に見えちゃいけニャいんだニャ。あれ? それニャのに、ニャんで?』
言うと、ニャムは自分で自分の頭をぽんぽんと叩きだした。右手でぽん、左手でぽん。ぽんぽんぽんぽん。ぽかすかぽかすか。だんだんと、叩くっていうよりネコパンチになってる。あれ、痛くないのかな。
『……ニャっ!』
ニャムの動きが止まった。
「ど、どうしたの?」
『ニャコめー!』
さっきまでニャムの頭をぽかすかと叩いていた手が、あたしにむかって飛んでくる!
本物のネコパンチだ! 透けた腕のくせに! 当たると痛い!
「もう! なんなの!」
『ニャコめ! 計画書に〝化身と出会う〟って書いたニャー⁉ ニャんてちっちゃい文字だニャ! ニャるほど、だからバレずに承認印を! く、くぅ~!』
ニャムが寝っ転がってじたばたと手足を動かしている。駄々をこねている小さい子みたい。
「計画書? 化身? 何それ。あたし、覚えがないんですけど。っていうか、ニャムって何かの化身なの? 化身? お化けの身ってこと?」
『ニャーっ!』
ネコらしい機敏な動きで突如としてジャンプしたニャムが、あたしの顔めがけて飛んできた。
パンチですら痛かったのに、タックル? めっちゃ痛い!
『ニャムは、ニャコの人生計画書の化身ニャのニャ! ニャコの人生は、ニャムにはぜ~んぶおみと~しニャのニャ!』
人生計画書? 計画書の化身? ぜんぶおみと~し? それってつまり、未来を知っているってこと? 何それ……すごいじゃん⁉ 誰かが近づいてきたりしているときにあたしがビビッと感じているあのセンサーよりもすごいじゃん⁉
『人間が生きる道ってものはニャ、生まれてくる前にぜ~んぶ決めてあるのニャ! それ通りに進めてやるのが、ニャムたち化身のお仕事! 人間には見えニャいから、やりたい放題……じゃニャい、導くのにおじゃまが入らニャいっていう仕組みだニャ。ニャー! それニャのに、それニャのに!』
連続ネコパンチが飛んでくる! 痛い! けど、この子、爪がないんだな。痛いけど、切れて血が出る、なんてことはないみたい。それに、赤くもならないし。
『承認前に気づいていたら、爪でピーって取り消し線をかいたのにぃー!』
爪、あったんだ。ってことは、お化けみたいなものだから、化身じゃない生き物に直接傷をつけられない、みたいなことかな。
「ニャ、ニャム。落ち着いて。ごめん。あたしが何をしちゃったか、よくわかんないけど、とりあえずごめん」
『とりあえずごめん、ニャンて、謝る気ニャいだろー!』
「なくはない! ニャくはニャいってばーっ!」
言葉で伝えても許してくれないと思った。だからあたしは、ニャムの前に山盛りのお菓子をずいと出した。
すると、ニャムは『ニャン』と鼻を鳴らして、お菓子をもぐもぐ食べだした。
手当たり次第に食べていく。何も気にしている様子はない。計画書の化身というものは、なんでも食べられるみたいだ。ってことは……? もしかしたら、たまたまネコの姿をしているだけなのかもしれない。
「それで、ええっと。お話の続きをしても?」
『しかたニャい。聞きたいことがあるニャら聞くといいニャ。答えられることは答えてやるニャ』
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