第4話 ニャムと給食を食べるには?
『痛い! 痛いニャ! やめろニャー!』
ニャムがニャーニャー言っているけれど、トイレに着くまではこのまま進むしかない。
『ニャー! ニャムは真ん丸が好きだけど、ボールにニャりたいわけじゃニャいニャー!』
ごめん、ごめん。と、心の中でだけ言っておく。
あたしが考えついた、ニャムと一緒にトイレへ行く方法。それは、真ん丸のニャムをサッカーボール代わりにして転がしていくっていうものだった。
みんなにも見えるネコでやったら動物虐待だー! って怒られるだろう。怒られる云々関係なく、みんなにも見えるネコにあたしはそれをしようと思わない。でも、このネコは変なネコだからね。たぶん平気。……平気?
うわぁ。名案だと思ったけれど、よくよく考えたらめちゃくちゃひどいことをしているような気がしてきた。ううん、あたし、今めちゃくちゃひどいことをしている。
トイレの個室は全部空室。それもそうか。給食時間だもんね。
中に入って、鍵をかけた。ふたの上に腰かけて、頭を抱えて、
「はぁ~」
『どうしたニャ』
「あたしネコ蹴った。すごいサイテー」
『自覚あったんだニャ~。まぁ、今回のことはゼリーで許してやるニャ』
「ゼリー? そうだ! あたしね、ニャムに聞きたいことがあって、だから蹴ったの」
『だから蹴ったの、がちょっとむかつくけど、どういうことか聞いてあげるニャ』
「いや、ニャムはご飯を食べるのかなって。どうやって食べるのかなって」
『ニャ~ン』
ニャムはちょっと嬉しそうに笑いながら、あたしを見た。
『ニャムも普通に食べるニャ。だけど、お化けがいるみたいに思われてしまうだろうから、みんニャの前で堂々と食べられニャいニャ。ニャー、ニャンてかわいそうニャニャム』
自分で自分のことを〝かわいそう〟と言う。そんな自分のことをとても〝かわいい〟と思っていそうだし、とても大好きそうにも見える。
「ねぇ、ニャム。じゃあどうすればニャムはご飯を食べられるの? あたしにできることは?」
『よくぞ聞いてくれたニャ! それでは、ニャムのアイディアを話すニャ。まず、ニャコは普通にご飯を食べるニャ。そのとき、ニャムはニャコの足の上にのっているニャ。で、ニャコがご飯を口に運び損ねてこぼすニャ。こぼしたやつを、ニャムがキャーッチ! もぐもぐ食べたら、完璧ニャ!』
ニャムがエッヘン! と胸を張った。
なんだかぜんぜん良くない気がするけれど……本当に完璧?
『ほらほら、さっさと戻らニャいと、給食時間が終わってしまうニャ?』
「あっ! ヤバ! もう! 給食食べられなかったら、ニャムのせいなんだからね!」
『ひどい! ひどいニャ! ニャムはニャんにも悪いことしてニャいのに!』
あたしは個室を飛び出すと、手をしっかり洗って、教室へと駆け戻った。ニャムがぴったり後ろについてくる。たぶん、もう蹴られたくないからなんだろうな。でも、あたしももう蹴りたくなんかないから、こうしてついてきてくれてよかった。
「奈子、遅いじゃん。はらいた?」
「ああ、うん。ちょっと」
「女はつらいよ?」
「まあ、そんなとこ?」
なかなか戻らなかった理由を適当にごまかして腰かける。するとぽすん、とニャムがあたしの足の上にのってきた。上目遣いであたしを見る。ゼリーをよこせと目が言っている。
そういえば、ネコって食べちゃいけないものとかなかったっけ?
ネコを見るのは好きだけれど、ネコと触れ合う機会なんてそうなかったから、よくわからない。イメージで言えば、ひたすらに魚を食べている。あとは、なんだろう。お味噌汁をかけたご飯のことを、おばあちゃんが〝ねこまんま〟って言っていたのを聞いたことがある。だから、お味噌汁をかけたご飯もきっと食べられるんだと思う。
でも、残念。今日はカレーだ。カレーはさすがにダメだよね。
ニャムの希望はゼリー。でも、ゼリーってネコにあげてもいいの? 本当に?
「奈子、いきなりデザートから食べるの? まぁ、時間ちょっとしかないもんね。それもいいと思うよ」
「え? ああ、うん」
適当に話を合わせながら、すくったゼリーを口へ運ぶ。すると……トゥルン! あたしのゼリー、落っこちた!
なんで? なんか、腕が思った通りに動かなかった気がするけど……。
あ、ニャムだ! たぶん、ニャムのせいだ! きっとニャムがあたしの腕を動かしたんだ!
「奈子、大丈夫? ティッシュいる? って……あれ?」
「平気、大丈夫……って、どうした?」
「奈子、今、ゼリー落としたよね?」
「ああ、うん」
「落としたゼリー、どこいった?」
「……え?」
机の上、服の上、床の上……どこを探してもゼリーはない。
そして、足の上のニャムはというと……ほっぺたを膨らませて、ニコニコしながらもぐもぐしている!
「え、えっと……じゃ、じゃじゃーん! 百回に一回しか成功しないマジック! お楽しみいただけたかなっ」
「え……。もしかして、これの仕込みのためにトイレに行ってたの?」
「そんなわけ……そ、そうそう!」
「奈子、大丈夫? 熱ある?」
「ないない!」
「本当?」
「本当!」
しゃべっていたら、いつの間にか下膳の時間になっていた。
ああ、もう! あたし、ニャにも食べられていニャいんですけど!
お腹ぺこぺこだったのに! ぜんぶぜんぶ、ニャムのせい!
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