未来からきた男

リュウ

第1話 未来からきた男

 気になっていた。


 朝の地下鉄で見かける男性。


 髪は、長く前髪を上げ、無精ひげを生やしている。

 眼光は鋭く、改札を出てくる人を見つめていた。

 長めのコート、やけにピカピカの黒の革靴を履いていた。

 服装のセンスは古く、周りから浮いていた。

 二十年前の恰好だった。


 浮浪者のようにも見えるのだが、浮浪者にしては小綺麗だった。

 浮浪者特有のコンビニ袋や古びた汚い鞄を持ち合わせていない。

 ということは、家があるのだろう。



 会社を終え、地下鉄の改札口から出ようとした時、僕の目はその男を捉えた。

 ずーっとその場所にいたのだろうか?

 何のために?

 人を探しているのか……


 僕は、その男の前を通りすぎるまで見つめたが、その男はこちらに目を向けることはなかった。

 何かを、誰かを探している。

 警察の張り込みの様に、通路の壁際に立ち、改札を抜けてくる人々を見つめていた。



 その男を見つけてから、五日経とうとしていた。

 彼は、相変わらず改札を見つめていた。

 僕は、会社帰りにその男に訪ねることにした。


 ゆっくりとその男に近づいていった。

 男は、改札から目を離さない。


「すみません……」僕は、声をかけた。

 だが、返事がない。

 もう一度大きな声で訊いてみた。

「あのー、話していいですか?」

 男は、僕の声に気づいて、初めて僕を見た。

「何か用か?」力の入った声だ。

 すぐに改札に目を移す。

「何をしているんですか?」

「うるさいな、ほおっておいてくれ!」

 イラついた声で答えた。


 ピピピピッ。


 その時、アラームの音がした。

 その男の腕時計からだ。

 男は、腕時計のアラームを消すと、改札から僕に視線を移した。


「私に何か用か?」

「いや、あなた、この場所にずーっと居ますね。何をしているんですか?」

「あなたには関係ない!何をしようと私の勝手だ」


 そう言われると余計に気になる。

「教えてください!」

 僕は、その場を立ち去ろうとする男の腕を掴んでいた。

 男は、私を睨みつける。


 殴られる……


 僕はそう思って覚悟していた。


「わかった、話そうか」


 男は、傍のベンチを指さした。

 男と僕は、そのベンチに腰掛けた。




 男は、未来から来たと言った。

 この地下鉄が爆破されると言う。

 今日の18時きっかり、この駅が爆破される。

 男は、その爆破を未然に防ぐ為に未来から来た。

 実は、犯人の特徴がないらしい。

 動機さえもはっきりしていない。

 分かっているのは、この駅が爆破されることだけだと言う。


 真剣に話す男は、嘘をついていないと思った。

 普段なら、そんな話をされたら信じることはないだろう。

 しかし、この男の身なりや話が嘘をついていないと思った。


 僕は、改札に目を移す。

 この中に、この中に爆弾を持っているヤツが居る。

 誰も怪しく見える。


 時計を見ると、18時5分前。

 本当に爆破されるのだろうか?

 改札から大勢の客が下りてくる。

 この中に犯人が居る。

 僕は、目を見張る。


 ピピピピッ。


 僕の胸ポケットのアラームが鳴った。


 18時だ!


 僕の鞄から、赤いランプが点滅している。

「お・ま・え!」

 男は、僕を睨めつけ、鞄を奪い取った。


 僕は、張り付いたような笑顔を男に向け、その場にたたずんでいた。 

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未来からきた男 リュウ @ryu_labo

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