開かれたままのウィンドウ

チョコしぐれ

window_open.txt

机の奥から、小さなUSBメモリが出てきた。

記憶にない。差し込み口は錆び、ざらつきが指に残る。


パソコンに挿すと、中には 「window_open.txt」 というファイルがひとつ。

開くと、最初の一行が目に飛び込んだ。


あなたはこれを開きましたね。


心臓が縮む。

続く文は、俺の部屋を覗いているかのようだった。


机の上の白いカップは、もう冷めきっています。

右足は椅子から少しはみ出しています。

画面の光だけが、あなたの顔を照らしています。


まさに今の俺の姿だ。

偶然じゃない。嫌な予感がして閉じた。


……数秒後、勝手にまた開いた。


新しい一文が増えている。


閉じても、あなたは閉じられません。


閉じる。――また開く。

指が震え、スクロールが乱れる。


今、あなたは画面を指で押し上げましたね。

スマホなら右手の親指。PCならトラックパッドに置いた人差し指。

その指先が、少し湿っています。


ドキリとする。

本当にそうだ。――偶然ではない。


偶然ではありません。あなたを見ています。


息が詰まる。

部屋は静かで、聞こえるのは冷蔵庫の低い唸りだけ。

カーテンの隙間が、わずかに揺れた気がする。


次に開いたとき、文が変わっていた。


あなたの背中に、“私”がいます。


反射的に振り返る。

――誰もいない。


安堵して前を向く。

……画面に、俺の背中が映っている。

背後から、顔のない“それ”がゆっくりと近づいてくる。


今、あなたの背中にも。


画面が真っ暗になった。

ただ、モニターの表面には――俺の背後の誰かが、まだ映っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

開かれたままのウィンドウ チョコしぐれ @sigure_01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ