第7話 只見線
「只見線」
山間の午後の暮れゆく様は心細い。
まだ人気があれば紛れるものを。
道の駅、特産品販売所もそろそろ夕方の店じまいへ向けての動きが
始まる頃だ。 山の午後は、暮れるのは早い、秒速だ。
もう、帰りかけていた。
向こうから、何か特別な発見でもしたかのように、少しはずんだ足取りで、
こちらへ向かってくる壮年の一人旅。
なぜか私と目を合わせ、親しく声をかけてくる。
─いい眺めですよ、是非見られたら良い。
見えるでしょ、あの斜面、人が二三人いる所。
すぐそこですよ。只見線の鉄橋が見事。
是非! 行ってごらんなさい!
促されるまま、足が向く。
駐車場から出ていく車に、私は振り向きざま高く手を上げ、腕を大きく
振って、その人と挨拶を交わし別れた。
只見線の橋梁が見えるというビューポイント。
道の駅から見える山の斜面に人が二人こちらへ戻ってくる姿があった。
夕暮れるまでには、まだ少し時間がある。
斜面の階段らしき所は、いつの頃からかわからないほど落葉や草でよく踏み固められ、すべりやすくなっている。手摺といっても、太目のロープだ。
短い距離だが、足元ばかりに注意がいく。
斜面を登りきった所は、人が三四人立てば窮屈なほど狭く、足元はでこぼこ
している。 しかし、立札が只見線の景観を称えている。
眼下に広がる只見線の橋梁は、遥か深い彼方に臨み、息をのむ。
緑濃い季節を迎えようとする頃に訪れた私は、青く輝いて見える橋梁に、
背筋が頭まで一直線になる思いであった。
緑をはらんだ橋梁は空の青よりも、ターコイズブルーというべきか。
空に架ける橋。
私は、しばらくその場に。
何組かの人達がやって来ては写真を撮り、すぐに下りていく。
そして、日は秒速に暮れていく。
私は今ここにいて、自分のすべての感覚を開放し、可能な限り、記憶に
留めようと必死になっている。
この一瞬をも。
この空気をも。
来た道を戻る。
大きめのリュックを背負った学生らしき人とすれちがう。
軽く息を切らしている。只見線を見に来たという。
斜面のビューポイントへ向かって行った。
早かった。すぐに戻ってきた。
うしろから学生に声かけられる。
─今度は、紅葉の頃に来たいですね。
僕は今、只見線の電車に乗ってきたもんで、次は橋と電車を同時に
見てみたいので。
次は、車でくるという。
このあたりの眺めは、名の知れた所である。
旅先の会話をかわすひとたちの
まじりけのない素直な思い
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