第6話 侍タマリン

「侍タマリン」


一匹だけ、突然変異なのか。


ワタボウシタマリン。 (猿)

頭の白い冠毛が綿の帽子をかぶっているように見える

ことからの名の由来。


その一匹は、頭が黒い。

白塗りした役者のように顔は白く、

片方の耳には、ピアスのようにホクロがある。

フサフサの長めの後ろ髪は、侍のように一つ束に見える。

黒い毛の中に二三本白い毛が交じっている。

少し年齢もいっているのか、白髪のようだ。


上目使いに見える目は、少し狡賢そうで、小さめだ。


見物人が何人か集まりだすと、当然のように、斜に構える。


展示室内の入り組んだ木の枝から枝へ、忙しく飛び渡り、

お気に入りの所へ、見栄を切る。

両の腕を広げ、静止する。


写真撮りには、人気がある。


同じことを繰り返す、皆あきてしまう。

そのうち見る人もいなくなる。

はじめて来た見物人には、驚かせ楽しませてはくれる。


時の流れは容赦しない。

他のことを知る楽しさ、喜びもなく、年老いて、生きていく。

気が付かなければ、それも幸せなのかも知れない。


幸福のひとつところによしとする

好機あれども 向かうことなく

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