第11話 練習試合
遊星社高校との練習試合が決まったので、知り合いに連絡した。U-15の代表でバッテリーを組んで以来関わりはなかったが、試合を楽しみにしている旨の連絡があった。後はもう一人、シニア時代の動機にも連絡しておく。
彼は、うちのシニアで4番を打っていた。その打棒は何度もチームを救った。僕とバッテリーを組んでいた。パスボールの多さは玉に瑕だったが、バッティングの圧倒的才能が認められて遊星社からのスカウトを勝ち取った。
「お前、遊星社からのスカウト蹴んのかよ? もったいねえ。後悔しても知らねえぞ」
それが最後の会話だった。僕は彼に言わなければならないことを最後まで言わなかった。でももう遅い。おまえがあの遊星社で輝けるわけないなんて残酷なこと、そもそも言えるわけがないし。
***
「あっちぃ。ほんとに6月? ねえ、薫くん。ベンチにクーラーってない?」
「期待しない方がいいね」
遊星社高校のある大阪に降り立った。今日はどうやら30度に達するらしい。まだ6月上旬だというのに結構なことだ。でも、選抜準優勝チームと戦えるなら許容範囲。
今回は普段と違う試みがある。糀屋さんは日傘をさしながら、分厚い資料の束を小脇に抱えている。パソコン部のデータ第一号だ。遊星社は過去ログが山ほどあるし、キーボードを叩けば欲しい映像を簡単に入手できる。鳥羽監督もデータ解析には乗り気で、渡会さんが各校とのパイプを活かして試合映像やスコアブックの入手に奔走している。
パソコン部内では暇を持て余した部員の何人かも今回協力してくれたようだ。特に3年生にやる気がみられるらしい。指定校狙いだろうが何だっていいさ。
今日の試合、僕は投げない。その代わり外野手として出場する。野球はバスケなんかと違い、ベンチに下げたが最後、二度とグラウンドには戻れない。だから、また投げさせる可能性のあるピッチャーを外野に回しておく戦法が存在するのであり、一応僕もレフト守備なら少々嗜んでいる。
バッティングは昔は才能だけでバットを振っていたが、そんな時代はとうに過ぎ去り、今はバントもろくにできない内野ゴロ生産機である。打てなくても起用した監督が悪いので気にせずいこう。
遊星社高校の設備案内を任された1年生の中に、同じシニアだったやつがいた。彼は僕の顔を見たがすぐに逸らした。なので特に話したりはしていない。その代わり、Uー18で一緒だった中学BIG5の一人、
「洛中で大活躍らしいじゃん」
聞けば、ネットニュースで取り上げられているらしい。京都に突如現れたスーパー一年生コンビ。取材された覚えはないが、記事上の僕は「慢心せず次の試合も頑張ります」なんて立派な言葉を残しているほか、僕のと碧海の二人は寮で相部屋ということになっている。……妙だな。
僕が今日投げないことを伝えると、それは残念だねと本当なのか嘘なのかわかりかねることを言った。翠川は試合に出るらしい。聞くと、なんと遊星社で一年生からレギュラーを掴んでいるとか。華々しいスタートを切っている。中学BIG5として誇らしい。半ば死語だけど。
今日はAチームとBチームで2試合組まれている。僕はBチームのほうで途中から出場する。アップまでの時間は、Aチームを観戦しようと思う。
Aチームのスタメンは以下の通り。(丸数字は学年)
1中 土屋②
2ニ 小林③
3三 碧海①
4右 國澤③
5一 高田③
6遊 川口②
7左 佐々木②
8捕 井上③
9投 去来川③
池永さんの調子が良くない今、去来川さんが遊星社相手にどこまでやれるかは気になるところだ。
遊星社は、3年生のエース右腕、
翠川は6番キャッチャーで先発出場。頑張ってほしいとは思っている。
***
試合が始まった。切り込み隊長を務める土屋さんが打席に立つ。1番バッターの役目は、塁に出てチャンスメイクをするほか、ピッチャーの調子やボールのキレを確かめることにある。だが土屋さんはすぐに手を出す。
初球のアウトハイに来たストレートをい捉えてきなりセンター前に運んだ。
ノーアウト一塁。二番小林さんはこのチームの副キャプテンを務めている。セカンドで堅実な守備を度々見せる。
バットを寝かせたが、初球は見送り。ストレートが外れてボール。二球目もバントの構えだが高めに浮いてツーボール。
翠川がマウンドに向かった。土屋さんに初球を打たれて調子が狂ったのかもしれない。もしそうならこちらの作戦勝ちだ。
三球目も高めに外れ、4球目は叩きつけるようなボールでフォアボール。ノーアウト一塁二塁で碧海が打席に立つ。
辻川がなぜ右バッターに打たれるのか、その理由は恐らく彼の決め球であるカットボールにある。左バッターに対してはこれを泣き所である膝元に決めてゴロを量産するスタイルだが、右バッターに対しては角度が付かないでファールで粘られる。
碧海は8球粘っていた。特にカットボールはすべてカットで逃げ(洒落ではない)ボールゾーンは見逃している。中学の時はぶんぶん振り回していたくせに、技術が身に付いている。
スリーボールツーストライク。三振かゲッツーが欲しい場面で、ゴロを打たせるカットボールは効かない。……なら、データ的には。
碧海は高めに来たストレートを待ってましたと言わんばかりに引っ張って右中間にかっ飛ばした。ランナーが一人ホームイン。中継が返ってきたが一塁ランナーの小林さんが身をひねりながら本塁にスライディングしてセーフ。
送球間に三塁を狙った碧海に向かって、翠川が矢のような送球を放った。判定はアウト。ランナーをタッチできず2点目を取られたことで並のキャッチャーならがっくりしそうなものだが、すぐに次のプレーを意識して行動するのはなかなかできるものではない。
1アウトランナーなしとなって國澤さんが打席に入ったが、辻川は立ち直ったらしく残念ながら三振に終わり、続く高田さんも内野ゴロに仕留められた。
初回先制。データは役に立つ。
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