第10話 データ解析
糀屋さんは、軽音部の活動が無いときは基本的に毎日来てくれて雑用を引き受けてくれる。野球部のマネージャーなんて、生易しいもんじゃない。下手したら運動部より運動部している、女子版体育会系の王様だ。しかも、洛中は甲子園に行くかというラインで争う強豪。ありがたい限りだ。
糀屋さんのツテもあり、1年生のマネージャーが4人になった。おかげで3年生卒業後の憂いもなくなった。池永さんはどうやら1年生マネージャーの1人にガチ恋しているようだが、その子はみんなからそれとなく守られていて手は出せないようになっている。今、ただでさえフォークが抜けたりして調子悪いのに恋愛に手を出して泥沼化したらどう責任取るつもりだ!
クラスで話せる人が花田のほかにできたのは大きい。でも、2人ともクラスでは中々のポジションをキープしているからな。誰か、体育会系陰キャはいないものか……いないか。
ともかく、これでマネージャーの面はクリアした。部全体が抱えている問題はなくなったわけだ。なので、ここからは僕の勝手な行動になる。
「糀屋さん」
昼休みが始まってすぐ、1人でいるところに声を掛ける。そうしないと、彼女の周りにはすぐに人だかりができる。
「あっ、薫くん〜。クラスで話しかけてくんの珍しいね」
「立ち位置を理解してるからね」
「は?」
「いや、こっちの話」
目を見る。オッドアイだ。左が黒で右が茶色。カラコンかもしれない。
「友達の中にさ、賢い人いない? コンピューターに強い系で」
糀屋さんが上を向いた。金髪の髪もそのまま流れていく。ギャルっぽい感じなのに胸元はびっしりと閉められていてありがたい。
「どうだったかなー……」
「あたしいるよー」
「はぶちゃん!」
右耳から息を吹きかけられて振り払う。ぞわぞわした。茶髪の、糀屋さんの友達が立っている。はぶちゃんと呼ばれているので名字がはぶなのは分かっている。土生なのか羽生なのかは知らない。埴生かもしれない。
「コンピューター部でプログラミングやってた子がいたはず」
「紹介してくれない?」
「いいけど……なに? 勉強教えてもらうん? そんな成績悪かったの?」
「いや、中間は7位だった」
「天才じゃん」
ほとんど野球ばかりだったから、授業中の勉強と中学時代の貯金で何とかしたが、これからはこうもいかないだろう。引き続き精進せねば。……じゃ、なくて。
「僕はその人に交渉する」
「何を?」
「野球部に協力してくれるか」
「野球って、そんな頭良くないとできない仕事あったっけ」
「あるよ」
糀屋さんが首をかしげる。はぶはるさんも恐らく何も理解していない。……というか失礼だな。野球は結構知能が試されるスポーツだぞ。まあ、そんなことはどうでもいい。僕は2人の目を見据えて言った。
「データ解析をしてほしいんだよ」
***
現代野球はデータの占める比率が極端に大きい。150km/hで別格と呼ばれたピッチャーの球速はいつしか平均値となり、160km/hを超すピッチャーもざらに出てきている。変化球も多種多様にのぼり、ピッチャーの進化にバッターの進化が間に合っていない。
そこで、重要となってくるのがデータ解析班だ。試合や選手のデータを収集・分析し、そこからチームの戦略立案に貢献するアナリスト。プロ野球ではこのアナリストを専門的に雇っているほか、高校野球でもデータ班を用意しているチームもある。
洛中は筋トレに重点を置いているが、これを活かすにはデータが必要だ。嵯峨根のボールは威力、キレともに申し分ないが、キャッチャーの配球やリードを解析できれば打てない相手ではない。……チェンジアップに関してはわかったところで打てるか怪しいが。
はぶさんが紹介してくれた子は、パソコン部の一員だった。野球自体はそれほど知らないようだったが、Pythonへの理解は深く、野球の知識も豊富で適した人材だった。はぶさんに感謝を言う必要がある。パソコン部は普段はオンラインゲームで時間を潰す活動にいそしんでいるらしいので、協力の許可は楽に取れた。洛中高校データ班第一号だ。
後は、データ解析のもととなる映像を集めたり、単純にデータ班の人数を増やしたりしなければならないが……まあ、そこは渡会さんと相談していこう。
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