第8話 壁
國澤さんは流石といったバッティング、冷静にセンター返しを放ってチーム初ヒットを記録した。だが続く碧海が引っかけてしまいダブルプレー。後続も倒れたため結果的に3人で攻撃を終えた。
僕はと言えば、後続は断ち何とか2失点のみで帰ってきた。アレは完全な失投だった。僕はいい意味であまりプレッシャーを感じない。でも、それが一種の驕りになっていた可能性はある。プレッシャーを感じないと思っていても、部員たちの思いなど無意識に色んなものを背負いすぎていた。逆に打たれたことで冷静客観的に自分を振り返ることができている。
過ぎたことを悔いるのは、試合が終わってからいくらでもできる。取り敢えず、この試合に集中することにする。
2回、3回はランナーを出しつつも無失点に抑えた。秀明館のバッター陣はバットを振り切るのではなく、どちらかというとコツンと当てて内外野の間に落とす感じ。なのでそれほど怖さは感じないのだが、ポテンヒットもそれはそれで気持ちよくない。
後は、追い込まれてからのシンカーを警戒してか追い込まれる前に早打ちしてくる。研究されているのかもしれない。僕のシニアから秀明館に行ったやつがいるし、僕自身も秀明館から推薦を貰っていたから、特別おかしくは感じない。
4回を三者凡退に抑えたところで監督からお疲れ様の声をいただいた。4回を投げて被安打3、四球1、奪三振3、失点2。悪くはないが、良くもない。
嵯峨根には完全に捉えられたホームランと敬遠1。はっきり言って大負けだ。これが春で良かったな、と切に思う。夏なら洒落にならない。
5回表、川勝の特徴的フォームを何とか攻略しつつあり、切り込み隊長土屋さんがタイムリーツーベースを放ってベース上でピッチャーに向かってガッツポーズを繰り返し暴言を吐き散らしていたとき……満を持して嵯峨根がマウンドに上がった。
今まであの超変則フォームを見てきたせいで嵯峨根へのタイミングを取るのが難しいらしく、三振が続いてアウトが2つ積み重ねられた。
バッターは、4番國澤さん。スコアはまだ1−2。ここでなんとか1点もぎ取り追いつくことができれば、まだ勝負はわからない。
嵯峨根はゆったりと足を上げた。三盗できるならしてみろ――そう言わんばかりである。
ストレートをインコースぎりぎりに投げ込んでストライク。一歩間違えたら柵越えされる危険性を顧みず、勇気あるピッチング。
2球目、アウトコースに大きく外れてボール。力んだように見える。
3球目、今度はアウトコースギリギリいっぱいに収めて見逃しのストライクを奪う。
「……どうかなぁー」
鳥羽監督が呟いた。どんな思いでいるのかは想像に難くない。
4球目、フォークをカット。5球目、ワンバウンドしたフォークを見逃し。6球目、カーブについていく。7球目、ストレートがわずかに外れる。
スリーボールツーストライク。ここが恐らくこの試合のターニングポイントとなる。代わったばかりの嵯峨根を捉えられるかどうか、これは大きい。
ネクストバッターズサークルでは、碧海が真剣な表情をして佇んでいる。
さあ、何が来る。僕の予想はボールゾーンにフォーク。國澤さんは洛中打線で最も怖いバッターだ。碧海には悪いが、僕は國澤さんよりは碧海を相手にする方が楽に感じる。いくら今大会碧海の調子が良くても。歩かせたとしても、次のバッターを打ち取れば何の問題もない。
8球目――土屋さんがスタートを切った。ヒット1本で帰ってこれる。
「……――あっ」
嵯峨根の持ち球は、カーブ、スライダー、フォークのはず。……いや、もしかしたら、これまではそうだったのかもしれない。僕がそれほど得意でない球。ストレートと同じフォームで投げるものの、ボールが全然来ない遅球。
國澤さんはタイミングが全く合わずに三振を喫した。
「……チェンジアップ」
ピッチングの勢いで嵯峨根から帽子が落ちる。太陽の光にさらされながら、ニヤリと笑ったのが見えた。
僕からバトンを受けて登板した2年生の白井さんは、ストライクが全く入らず満塁のピンチを招き、3失点を喫した。次の回も登板したが調子は奮わず、交代した3年生の
筋トレ打線は代わった嵯峨根を前に不発。ランナーが出ても得点には結びつかず、犠牲フライでもぎ取った1点のみ。
最終スコアは2−7。洛中高校は秀明館高校に敗れ、準々決勝で姿を消した。
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