第7話 変則ピッチャー

 秀明館高校先発の背番号18を付けた2年生、川勝大和かわかつやまとの投球練習を覗き見る。

 左のアンダースローで投げる上、足を大きく振り上げたり一度ためを作ったりするなど超変則。こんなピッチャーと当たったことなんてない、まさに秘密兵器。うちを相手に試そうという算段だろう。バッター陣は大変だなあと人ごとみたいな感想を抱いた。


 プレイボールがかかる。うちが先攻のため、リードオフマンを務める2年生の土屋さんが打席に立つ。土屋さんは足が速い。手が出るのも早い。正直あまり絡みたくはない。

 初球、川勝が振りかぶる。思いっきり振り上げた足が一度止まったかと思うと、そのままガクンと身体全体が揺れて止まり、その後トルネードじみた捻りを入れながら下手から放たれた。見逃してワンストライク。……投球練習の時よりクセが強くなっている。なんだこのフォーム。球速は110km/h程度だが、こんな投げ方見たことない。土屋さんの顔が曇っている。


 2球目、同じく変則フォームから放たれる。スイングを仕掛けたが空振り。

 3球目、なんとかバットに当てるもピッチャー前に転がっていく。川勝はそれを拾い上げると一塁へと送球した。……送球は普通なのな。


「マジで**よあの**クソピッチャーが。ほんとに************」


 ……ちょっと聞こえたが、本当に終わっている。気にせず投球練習を続けよう。後続もタイミングが合わず内野ゴロ2つに終わった。



 ***



 マウンドに足を踏み入れる。先発はいい。マウンドが使い込まれてなくて、綺麗だ。……今回はちょっと荒れ気味だけど。

 鳥羽監督から「気負うことはないよ」とのお言葉をいただいている。前の試合で池永さんが完投してくれたおかげでシード権は決まっているから、背負うものは少なくていい。……でも、僕がベンチ入りすることで外れた2、3年生の思いを無下にはできない。


 秀明館高校の1番バッターを左打席に迎えた。審判からコールがかかる。いよいよ始まる。


 初球、アウトコース低めのスライダー。見逃されてワンボール。

 2球目、アウトコースのストレート。これも見逃されてツーボール。


 3球目もアウトコースにストレートを投げたつもりだったが、無意識にストライクを取りに行っていたせいで甘く入り上手く流される。だが、ちょうどショート真正面だったためライナーに終わった。

 危ない、まずはワンアウト。ロジンを手に取り、何回か叩いて、手を口元まで持ってきてふっと吐く。自分でも少し緊張しているのがわかる。口角を上げる意識。


 2番バッターは比較的足の速い選手。そして、バッターボックスのホームベース側ギリギリまで近づいて立った。ほとんど白線を踏んでるんじゃないだろうか。

 これではインコースに投げるとデッドボールになると、そう主張したいんだろうが……僕は腐ってもU18優勝投手であり、シニアの全国大会優勝投手でもあり、洛中高校でいきなり背番号を勝ち取ったのだ。(デキレースなのは秘密)滑られては困る。

 初球、インコース、顔付近にストレート。当てるつもりはないので少し離れた場所……というか、普通の立ち位置なら何も避ける必要のない場所に投げ込む。

 バッターは慌てて避けたせいで体勢を崩して倒れた。立ち上がりながらムッとした視線を向けられたが、知るか。お前はリスクを取らずに利益だけをぬくぬくと享受してこれからの野球人生を生きていくつもりだったのか? もちろん帽子は取る。


 2球目もインコースにストレート。仰け反るような姿勢を見せたが入っていてストライク。そんな近いからそうなるんだよ。


 3球目もインコース低めにストレート。詰まって目の前に転がってきたので、捕って一塁へ。このバッターのスタイルを完全に崩すことができた。


 だが、ツーアウトを取れたことで少し自分の中で安心してしまって、3番バッターにストライクが入らなくなってしまった。

 スリーボールとなり入れにいったストレートを痛打され、センター前に運ばれる。ツーアウトランナー一塁となって、最重要警戒バッターの嵯峨根響さがねひびきが右バッターボックスに立つ。

 ……なんとなく、オーラを感じる。身体が大きく、腕が長い。アレならアウトコースの球も無理なく当てられる。


 タイムを取って、キャッチャーの道房みちふささんが近づいてきた。


「ここ、マジで警戒な。絶対コース間違えんな。最悪フォアボールでもいい」

「了解です」


 話し合いを終え、嵯峨根と対峙する。顔が物凄く怖い。生物的な恐怖を感じる。今どき五厘刈りだし。でも負けるわけには行かない。


 初球、シンカーのサイン。少し引っ掛かってワンバウンドしたが、道房さんが対応してくれた。2球目も同じくシンカー。低めに決まったが見逃されてツーボール。

 ランナーには進塁を許していない。道房さんのブロッキング力が光っている。


 3球目、アウトコースにスライダーのサイン。ただしボール2、3個ほど外。これを見逃されたら歩かせる。頷き、握りを整える。中指全体を縫い目にかけて、手首を少し外側に向け中指でボールを押し出すようにリリース。


 だが、投げている最中、手首を外側に向けすぎたことに気付く。そのため、十分な横回転を掛けられないまま抜けていく。打たれる――そう確信めいた思いがあったとしても身体が止まることはない。

 嵯峨根が左足を内側に大きく踏み出した。外に投げるのが読まれている。ボールは曲がり切らない。ゾーンからは外れているが……嵯峨根は腕が長いから届く。バットの1番いいところで振り抜かれ、つんざくような金属音が耳を襲った。


 打球の行方は見なくても分かるが、一応振り返る。ライナー性の打球は全く失速することなく伸びていって、バックスクリーンに突き刺さった。球場が沸き立つ。先制の2ランホームランとなった。

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