第3話 フォームチェンジ、そして僕とわたしの邂逅
現代 8月
日本 某県にある大規模な港町 通称〈ベイエリアタウン〉市街地エリア
凍り付いたビル街で、僕はディスクボーイ・ハンターウルフに変身した。
「姿が変わったようでも、実力の方は……さてどんなものか。見せてもらいましょか」
そう言う魔将軍レトゥガーは、こちらがフォームチェンジしたのを警戒しているのか油断のようなものは一切感じられない。むしろさらにピリピリとした戦いの雰囲気のようなものを強めている感じさえある。
いいだろう。僕の力を見せてやる。
雪が降り出すなか、僕とレトゥガーの戦いが再び始まった。
僕はレトゥガーに向かって駆けだした。
さらに背部ブースターを起動させ加速する。
ディスクボーイ・ハンターウルフは、スーツ各部にブースターを強化・増設しているため、これまで以上に素早い動きや繊細な動きが可能だ。
しかしレトゥガーは加速した僕に全く怯むことなく槍での強烈な突きを繰り出す。
しかしその攻撃は既に予測している。
ディスクボーイ・ハンターウルフの装甲内には無数のセンサー類が詰まっていて、相手の筋肉の動き、視線さえも捉えられるため、ある程度相手の行動を先読みすることが可能なのだ。
槍の一撃の軌道を駆け寄りながら回避。
槍を突き出して守りががら空きになっているレトゥガーの頭部に、腕部ブースターでさらに威力を増したパンチを喰らわせる。
「ぐむうっ!?」
パンチをまともに喰らったレトゥガーはよろけて後退する。が、すぐに槍を杖代わりのように柄を地面に突き立て体勢を立て直した。
レトゥガーは槍を構えなおすとこちらに向かって素早い槍の突きの連打を繰り出す。
しかしその全ての動きをハンターウルフのセンサーは捉えた。レトゥガーの動きを読み、体を右に左に逸らして槍の連撃を全て躱す。
「おのれっ!」
レトゥガーは槍での攻撃をやめ、いきなり蹴りを繰り出してきた。瞬間、スーツの前面に配置されているブースターからエアを噴射し後退し回避する。
レトゥガーはこちらとの距離を詰めながら流れるように回し蹴りを次々と放ってくる。僕はそれを体を逸らしたり腕で受け流しながら無力化する。
攻撃をまともに喰らうことはない、しかし防戦一方になってきていてじわりとレトゥガーに追い詰められている感がある。
思わずこちらも負けじとキックを放つ。
お互いの蹴りが空中でクロスするように激突した。一瞬お互いの力が拮抗し、刀の迫り合いのようになる。
次の瞬間、力がはじけたかのように僕もレトゥガーも後退する。
一瞬にらみ合う視線が火花を散らした。
一歩距離を詰め、キックを放ったのはお互い同時だった。
またしてもキック同士が空中で激突する。お互いにキックを次々に繰り出し、その度にキックが激突する。
その次の瞬間、僕のキックをレトゥガーが体を逸らし躱した。躱され隙のできた僕に容赦なくレトゥガーは蹴りを叩き込もうとする。
しかしこれをまともに喰らうわけにはいかない。なんとかしなくては。
レトゥガー渾身の蹴りを姿勢を低くして躱し、低い姿勢からの回し蹴りでレトゥガーの軸足に一撃喰らわせ、体勢を崩させる。
そのままブースターの補助を得て跳躍しサマーソルトキックを放ってレトゥガーの顎を蹴る。そして着地すると同時にストレートキックを繰り出してレトゥガーを蹴り飛ばした。
レトゥガーは大きく後ろによろめいた。しかし致命的なダメージが入ったようには見えない。
思いの外レトゥガーは硬い。じゃあこちらも攻撃のレベルを上げよう。
腰のディスクチェンジャーを操作する。
≪DISC・LOADING //////≫ ≪MATERIALIZE・WEAPON//////≫
≪WOLFMOONSABER!… COME・ON!≫
ディスクチェンジャーからガイド音声が流れると同時に、僕の手元に光の粒子が集まり、そして光の粒子は三日月を模した剣となった。刃は比較的大きく剣そのものの長さは短剣よりも少し長いくらいだ。
その名もウルフムーンセイバー。逆手持ちに切り替えて、構える。
「しゃらくさい!!」
レトゥガーはそう叫ぶと槍の刃にエネルギーを込め、そして大きく槍を横一文字に振った。刃が描いた軌跡が光の刃となってこちらに飛んでくる。
飛んできた光の刃を紙一重で躱す。
しかしさらに斬撃が飛んでくる。
僕は思い切りウルフムーンセイバーを振りかぶり、飛んできた光の刃を縦真っ二つに切り裂いた。
切り裂かれた光の刃は僕に当たることなく左右に分かれて飛んでいき、そして僕の背後で爆散した。
「馬鹿なっ」
一瞬レトゥガーが怯んだ。この隙を逃さない。背部ブースターを全開、一気にレトゥガーとの距離を詰める。
逆手持ちと順手持ちをすばやく切り替えながらウルフムーンセイバーでの斬撃を何度も浴びせる。
「デイャアーッ!」
「ぐおおおおっ!」
ダメージは与えられているようだが、しかし致命打にはどれも至らない。
逆にレトゥガーのキックの反撃を貰ってしまう。
不意の攻撃によろめいて後退する。すばやく戦闘体勢を取り直すが、少なからずスーツがダメージを負ってしまった。
ディスクボーイ・ハンターウルフの弱点がこれだ。スーツの軽量化と内部機構の多さの代償として装甲が比較的薄いのだ。レトゥガーの一撃はかなり重い。もう一撃は耐えられないだろう。
何より周囲の温度が南極並みになってきている。スーツ内のヒーターをフル稼働させているためバッテリーも長くは持たない。次の一撃を貰う前に早くケリをつけなくては……。
次の一手を放とうとしていると、急にレトゥガーが宙に浮いた。
「今度はこちらから行かせてもらいますわ」
宙に浮いたままレトゥガーが槍を掲げた。
レトゥガーの槍の先端に未知のエネルギーが集まっていくのがわかる。センサーもそれを感知しヘルメット内のディスプレイに警告表示が出る。
次の瞬間、槍の先端からスパークする数本の電撃光線が放たれた。
僕は右に大きく飛び退き、電撃光線を避けた。電撃光線は地面のアスファルトとそれを覆っていた氷ごと粉砕する。
これは当たるとまずいな。
槍から放たれ続ける電撃光線は、こちらを追ってくるようだ。電撃光線から逃れるため僕は走る。電撃光線はさらに僕の背後から迫ってくる。
電撃光線から逃げながらレトゥガーの様子を一瞬見た。よく見ると奴は電撃光線の制御に集中しているのか宙に浮いたままそこから動かない。光線を数本同時に操っていればそうもなるだろう。そこが狙い目だ。
僕はビルに向かって走り出した。
背後からは電撃光線が地面を破壊しながら迫ってくる。
全力で地面を蹴り、それと同時に背部および脚部ブースターを全開にしてエアを噴出。ビルに向かって大ジャンプする。
「てやあっ!」
ブースターの補助を得て姿勢を制御、ビルの外壁に着地する。
そのまま外壁から落ちないよう全力疾走する。
壁走り全力全開だ。
それでもなお電撃光線は追ってくる。
ビルの壁を走る。背後で電撃光線がビルの壁面や窓ガラスを破壊する音が聞こえる。
壁を思い切り駆け上がる。
駆け上がって、そして宙に浮くレトゥガーを見下ろした。
「レトゥガー!」
レトゥガーが僕を見上げる。
奴に表情はないがハッとした顔をしたように見えた。
それと同時に槍からの電撃光線がようやく止まった。
地の利を得たぞ。
今だ。
いや、奴の槍にまたエネルギーが集中している。
でも今しかないんだ。
レトゥガーが再び槍から数本の電撃光線を発射した。
今度はこちら目掛けて一直線に光線が飛んでくる。
でも構わない。僕は壁面を蹴ってレトゥガーに向かって一気に迫る。こちらに飛んでくる光線はブースターの力を借りてその隙間を縫うように避ける。
背部ブースターの出力を全開にしてレトゥガーに全速力で突進する。
手に持ったウルフムーンセイバーのグリップにあるトリガーを引いた。
≪CHARGE/////≫ ≪HUNTERWOLF… C・C・C・CRASH/////≫
ウルフムーンセイバーからガイド用の電子音声が鳴り、刃にエネルギーがチャージされて赤く輝く。
「ウルフセイバークラッシュ!!」
そう叫んでレトゥガーに必殺技を叩き込む。刃のエネルギーとブースターの加速力で威力を増した強烈な斬撃だ。
レトゥガーが咄嗟に槍の柄で斬撃を防ごうとするが、それごとレトゥガーを切り裂く。
レトゥガーの装甲に赤く輝くウルフムーンセイバーの刃が激突し、スパークし激しく火花を散らした!
「ぐうあああっ!!!」
斬られたレトゥガーは力なく落下し、地面に体を叩きつけた。
僕は無事に着地した。
背後に落下しているレトゥガーの方を向く。
やっぱりだ。
立ち上がろうとしているレトゥガーと目が合った。
奴の鎧を大きく破損させるまではできたが、本体の方は致命傷とまではいかなかったようだ。
「……ふふふ、ははは……、どうやら、私の臓物まで斬るには少々届かなかった、ようですなあ」
「……くそ」
奴の言う通りだ。
奴に必殺のウルフセイバークラッシュを叩き込んだ時、わずかに手ごたえを感じなかった。
原因は明白だ。ディスプレイにエラー表示がいくつも出ている。
いくつかのブースターが凍り付き機能停止しているのだ。
そのため加速が足りず、奴を完全に倒すだけの威力が出なかった。
既に周辺の気温は南極のそれよりも低いのだ。極地でも活動できるはずのスーツの一部に霜が付きだしている。機能不全を起こして当然だ。
地の利で負けた。
レトゥガーが柄を切られた槍を持ってこちらにゆっくりと迫ってくる。
「その様子では、力を使い果たしたようですなあ。まあこの寒さの中でようやったと思いますわ、ほんまに」
「……」
痛いところを突いてくる。
スーツは凍り付きだしているし、バッテリーも限界が見えてきている。
「槍はこんななってしもうたけども、まだ武器としては十分使えます。これでトドメを刺したりますわ……」
ここで奴と戦ってはバッテリーが本当に尽きてしまう。
バッテリーが尽きればスーツは実体化を維持できなくなる。そうなると僕は南極以下の気温の中に生身で放り出されて、凍死してしまうだろう。
しかし今この戦いから退いたとして、奴から逃げ切れるかは微妙だ。
奴は今どうしても僕にトドメを刺したいだろう。そうでなければ切られた槍を持ち出したりなんかしない。
どう転んでもピンチ、ならばと僕はウルフムーンセイバーを再び構える。
決死の戦いに挑む。
「最期の勝負やなあ……!」
「来い!」
レトゥガーがこちらに向かってきた。
ならばカウンター技で迎え撃とう。
その時だった。
『レトゥガー!!』
どこからか声が響いた。若い男の声だ。
しかし声の正体がどこにいるのか分からない。ハンターウルフのセンサーでも全く捉えることができない。何らかの術で声だけがここに響いていて本体は別の場所にあるのかもしれない。そういうことはままある。
声だけなのにものすごいプレッシャーを感じる。
レトゥガーはいつの間にか跪いていた。
「魔王様!」
魔王?これが黒幕の声か!
『遊び過ぎだぞレトゥガー! ポータルを開く、一度城に戻り、経過を報告しろ。狩り遊びはそこまでにしておけ……俺もそいつで遊んでみたくなったしな』
「わかりました魔王様、今すぐに帰還いたします」
その返事と同時に奴の背後にポータルが現れ、そして奴はその中に消えていった。
僕は追おうとしたがその前にポータルは閉じてしまった。
『ふははははっ、若き戦士よ! 見ていたぞ、魔将軍相手に素晴らしい戦いぶりだったな』
「お前が魔王か! この辺りを氷漬けにしているのはお前なのか!?」
『その通り。俺はヒョウガ、魔王だ! いずれこの世界は俺の氷で覆い尽くす! 俺がこの世界を終わらせる!』
「そんなことはさせない!」
『威勢がいいな、素晴らしい! いいだろう、いずれお前と勝負してやろう……! 待っていろ、すぐに会える……』
はははははは、と最後に高笑いがして、それきり魔王の声は聞こえなくなった。
どうやら僕は魔王に目を付けられてしまったらしい。
魔王が襲ってくる前に、安全な場所まで退避し態勢を整えねば……。
しかし、今の場所から少し出ればまた屍骸兵達が道を埋め尽くしていることだろう。奴らと今ぶつかることは避けたい。安全策はやはりビルの屋上を飛び移って移動することだろう。
そう思って僕は辺りを見渡す。運よく近くに屋上まで続く非常階段が付いたビルを見つけた。
そのビルの非常階段の手すりに手を掛けたときだった。
スーツのアラートがけたたましく鳴った。おかしい。バッテリーにはまだ移動できる程度の余裕はあったはずなのに……。
ヘルメットのディスプレイに表示された警告文を慌てながら読む。
≪緊急:ディスクチェンジャー緊急停止/////≫
しまった、と思った。ディスクチェンジャーをみると氷が付着し始めている。
チェンジャーそのものが凍結する可能性を考えていなかった。ディスクチェンジャーはまさにスーツの維持装置そのものだ。当然それが停止すれば……。
スーツが元のデータに還元され消えていく。
僕は生身を晒し、超低温の中にさらされてしまう。
寒い、と思ったのと同時に体の感覚がなくなり一気に気が遠くなってしまう。
短くない期間、悪と戦ってきたけどまさかこんな最期を迎えるとは……。
どさ、という音が聞こえた。どうやら自分が倒れてしまった音のようだ。
かすむ視界の中、誰かが駆け寄ってくるのが見た。
誰だろう……こんな寒い中、生身で活動しているようだけど……幻覚かな……。
ああ、もう、かんがえがまとまらない……。
ハッとして飛び起きた。
死ぬかと思った。
肩で息をする。
辺りを見渡すと喫茶店のようだった。ただ店の中全てが氷に覆われている。
しかし僕が寝かされていたボックス席だけは何故か凍り付いておらず、僕の座っているソファも快適な座り心地を保っている。
よくみるとこの席の窓も凍り付いてはいない。窓から周辺の様子を伺う。
外では雪が積もり出している。
少し離れたところに、先ほどの戦闘の跡が見えた。
窓からみえた周囲の様子から推理すると恐らくここは雑居ビルの3階ほどに入った喫茶店、といったところだろう。
そういえば、僕はこんなところにいつの間に移動したんだろう。僕は確か屋外で倒れてしまったはずだ。
「あ、目を覚まされたのですね」
喫茶店のカウンターの方から声がしたので、そちらを向いた。
そこにいたのは見覚えのある人物だった。
そうだ、海沿いで会った、この世界に存在しない物質で出来たペンダントを持つ不思議な少女だ……。
「あなたは……」
「わたしは……フィス、と言います。こうして名乗るのは初めて……ですね」
少女は僕がいるテーブルのそばまで来て、名乗った。
「ど、どうも……僕は、川崎秋人、といいます」
彼女がお辞儀をしたのでこちらも軽く会釈を返し、簡単に自己紹介をする。
僕の首辺りから何かチャリンというような金属音がした。気になって触ると見覚えのあるペンダントが僕の首から下がっていた。
これはあの時彼女が落としたペンダントだ。どうして僕の首に?気になってペンダントに触れるとフィスと名乗った彼女が焦ったように叫んだ。
「それを外してはいけません!」
突然の大声にこちらも驚いてしまう。
「ここ一帯は魔法によって作り出された冷気に包まれています。生身のままではすぐに凍死してしまう……ですが、そのペンダントがあれば自分の身体と、身に着けている物は護られるでしょう。だから、それはそのままつけていてください」
……よくわからないがこのペンダントは冷気を遮断する機能があるらしい。
身に着けている物も護られるということはディスクチェンジャーもショルダーバッグも無事かもしれない。早速確かめてみると、どちらも無事だった。ディスクチェンジャーも解凍されたようだ。
バッグの二重底の下から予備バッテリーを取り出し、ディスクチェンジャーに接続。充電が始まったのを確認する。
待てよ。
僕の記憶が正しければこのペンダントは彼女の姉の形見だったはずでは?そんな大事なものを僕が身に着けているのはなんだか気が引ける気がしてきた。
「このペンダント、確か……あなたのお姉さんの形見なんじゃ……そんな大事なものを僕が身に着けていてもいいんですか」
「いいんです。あなたを助けるためですし、お姉様は優しい人でしたから、あなたを助けるために使ったと知れば喜ぶのではと思います」
「そう……ですか。では、このペンダント、お借りします」
なんかお互いに黙ってしまった。うっかり形見の話とかするべきではなかった。
わずかな間の静寂をやぶったのはフィスさんの方だった。
「あっ、あの、先ほどは危ないところを助けて下さってありがとうございました! あなたがきてくれなければ、今頃わたしはどうなっていたことか……」
「いや、僕は自分にできることをしたまでというか……」
「いいえ、無数の屍骸兵を蹴散らし、魔将軍なる魔族の戦士と渡り合うなど、簡単にできることではないはず!さぞ高名な戦士様とお見受けしました! 何より、私を助けて下さったあなたのお姿はまるで……そう、まるで伝説の勇者様か物語の騎士のようでとても素敵でした!」
「は、はあ……」
「あなたには二度も助けられて、わたし、あなたになんとお礼をいえばいいか……」
「いえ、全然お礼とか気にしないで大丈夫ですから」
「そんな、ぜひ何かお礼をさせてください! えっと、その……わたし、お金はそんなにありませんけど、わたしにできることなら、なんでも!」
「いや、ほら、この冷気から護ってくれるペンダントを貸してくれましたし、それに、外で倒れていた僕をここまで運んでくれたのはあなたでしょう?」
「それは、そうですけど……」
「ほら、あなただって僕を助けてくれたじゃないですか。それで充分ですし、困ったときはお互い様ですよ」
「そうでしょうか……」
「どうしてもお礼をしたいというのなら……そうだな、少し、あなたとお話をしたいかなって」
「お話、ですか? 構いませんけど」
フィスさんは僕とテーブルをはさんで向かい合うようにソファに座った。
彼女には色々と聞きたいことがある。本当に色々と。
「そうですか……じゃあまず、質問を一つ」
_____
同刻
日本 ベイエリアタウンの市街地にある喫茶店
「そうですか……じゃあまず、質問を一つ」
「……はい」
「フィスさん、あなたはいったい何者なんですか」
わたしは喫茶店で、先ほど助けた少年のアキトくんに質問を投げかけられていました。
彼は戦っている時は全身を覆う鎧のようなものを身に着けていたのでわかりませんでしたが、その容姿は幼く見えました。わたしより2か3歳は下なのではないでしょうか。
こんな幼い少年が魔王軍との戦いに身を投じていることに、内心でわたしは驚いていました。
わたしはこの世界に来て日は浅いものの、ここが子供に戦いを強いるほどの修羅の世界であるとはとても思えません。
彼に対する疑問は色々とありますが、質問をされているのはわたしですし、素直に答えます。
「……わたしはフィス。かつての名はフィス・ストビア・ヒートハルと言います。わたしはこことは違う世界にある、世界統一国家ヒートハル王国という国の王女でした。ですがヒートハル王国は今はもうありません。今この世界を襲っている魔王ヒョウガによって滅ぼされてしまいました。わたしはお姉様の導きによって、何とかこの世界まで逃げ延びてきました」
氷の城と亜空の魔王~真夏の決戦・スーパーヒーロー対魔王~ よわレモン @yowa_lemon46
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