燃ゆる衣 / お市の視点
わらわの名はお
「
背後から聞こえたのは、夫、
「わらわは、
静かに、しかし、きっぱりと告げた。
「ならぬ! そなたは
その言葉が、わらわの胸の奥深く、とうに
「
一度逃げた。兄、
「……わかった。そなたの覚悟、違えることはすまい。だが、姫たちだけは。姫たちだけは、城の外へ」
「はい。姫たちの助命を
わらわは頷き、筆と
『この子たちが、
震えることなく、ただ一心に筆を走らせた。
「母上、どこへ参られるのですか。我らも母上とおりまする」
一番上の
「
その肩を抱き寄せ、強く、強く言い聞かせた。
「いやです、母上! 母上と離れるなど……!」
次女の
「
末の
「母の言うことをよくお聞きなさい。これから皆で
三人を
わらわは、三の間まで見送った。大勢の侍女たちが付き従い、
母としての役目は、今、果たした。
残るは、
敵陣が、さっと道を開けたという。
天守に戻ると、
「おまえたちまで残ることはない。姫たちと共に行きなさい」
わらわがそう言うと、
「
武家の女は、
「
「わらわも、
城に火が放たれた。ごう、と音を立てて燃え上がる炎が、瞬く間に何もかもを飲み込んでいく。熱風が頬を撫ぜ、死の匂いが満ちてくる。不思議と、恐ろしくはなかった。
そうだ、これでよいのだ。
炎が天井を舐め、黒い煙が視界を奪う。
娘たちよ、強く生きよ。母の分まで。
主観で読む戦国 海林 @Kairin-Ninja
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