第7話
雨南は、まだ淡く輝きを残す飛行物体の前に立っていた。
防御壁を取り戻した彼女の目は、先ほどまでの混乱や不安をすっかり抜け落とし、代わりに静かな決意の色を帯びている。
「荷物を積まなければなりませんね」
執事の低く落ち着いた声が、飛行物体の表面に反射して柔らかく響く。
テント、寝袋、小さなバーナーと水筒。
山で過ごした一晩の痕跡が、次々と雨南の手で飛行物体の積載口へ運び込まれていく。
飛行物体の外殻は金属とも石ともつかぬ質感で、手で触れるとわずかに温かく、積載口は生き物の口のように静かに開閉した。
荷物を積み終えた雨南は、執事の案内で入口へと向かう。
内部は先ほどの複写工程で見た空間とは異なり、移動用の座席や荷物固定用の装置が整然と配置されている。
壁面には薄く発光する帯が走り、それが脈動するたび、機体全体が呼吸をしているようにも見えた。
「それでは、白檮家図書館までお連れいたします」
執事が操縦席らしき位置に立ち、何かを静かに操作する。
次の瞬間、機体はほとんど音を立てずに地面を離れた。
山の空気が機体の周囲をすり抜け、窓もないはずの壁の向こうに、透けるような景色が広がる。
深い緑の森、遠くに連なる稜線、そして白檮家の広大な敷地がゆっくりと近づいてくる。
雨南はその光景をただ黙って見つめながら、これから足を踏み入れる「時間のための場所」へと思いを馳せていた。
やがて機体は静かに下降し、白檮家の敷地内、図書館の前庭に着陸した。
重力が戻る感覚と同時に、彼女の胸の内には、これから出会う未知の記憶と物語への予感が、淡く膨らみ始めていた。
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