第4話

雨南はゆっくりと執事に近づいた。薄暗い夜の空気の中、彼の冷静な瞳がじっと彼女を見据えている。


「対価はお決めになりましたでしょうか?」執事の声は静かで重みがあった。


雨南は迷いなく答えた。


「私のオリジナルで。」


その言葉に執事は小さくうなずきながら応じた。


「オリジナルを対価に、ふむふむ。しかしながら、時間を買われても、貴方にどのような利益があるか、我々には何もお約束できません。よろしいのですか?」


雨南は胸の内に湧き上がる不安と期待を抑え、「はい」と静かに返事をした。


執事は一瞬の間を置き、そして低く告げる。


「わかりました。異例ではありますが、対応致します。」


そう言うと、彼は雨南を案内し、近くに浮かぶ丸い飛行物体の前へ連れて行った。夜の静寂に溶け込むその球体は、不思議な光を放ち、まるで異世界の扉のように見えた。


「こちらにございます。オリジナルマスターコピー転写フィールド発生機器マイノライザバイオ複写システムをご用意致しました。この丸い飛行物体の中にお進みください。」


雨南は震える足を奮い立たせ、一歩一歩その丸い入口へと歩み寄った。入口の輪郭がほのかに輝き、まるで彼女を迎え入れるかのように柔らかな光を放っている。


その瞬間、雨南の体を包んでいたすべての防御が一気に解かれていった。衣服は光の粒子となって消え去り、心の中の壁も、身体のあらゆる防御も静かに消えてゆく。彼女は完全に裸の状態で、何も隠すものなく、ただそこに立っていた。


光が泡立つたびに彼女の身体の細部が鮮明に感じられた。首筋の滑らかな曲線、肩の柔らかな丸み、胸元に浮かぶ微かな鼓動。細く長い指先はわずかに震え、脚のラインは月明かりの下で淡く輝いた。


彼女の全身には緊張と同時に、何か新しい始まりの予感が漂っていた。裸の身体で佇むその姿は、まるで時間の狭間に身を委ね、運命の渦に飲み込まれようとしているかのようだった。


執事は静かにそのそばに立ち、黙って雨南の覚悟を見守っていた。


彼女は一歩も動かず、ただ未来の扉が開かれるのを待っていた。


雨南は執事の言葉を静かに受け止め、重い決意を胸に丸い飛行物体の入口へと歩み寄った。空気は冷たく、彼女の素肌に触れる風は鋭くもあり、どこか清らかな感覚をもたらしていた。


「オリジナルマスターコピー転写フィールド発生機器マイノライザバイオ複写システム」──執事が説明したその装置は、雨南のすべてを映し出し、再構築する役割を持っているという。


彼女の身体を覆っていた衣服は光の粒子のように溶けて消え去り、心の防御壁や身体の防御も自然と解かれていくのを感じた。裸のまま、全てをさらけ出すという感覚は言葉にできないほどの不安と、同時に解放感を伴っていた。


彼女の肌は朝の露に濡れた葉のようにみずみずしく、静かな緊張が全身を包み込む。目は真っ直ぐ前を見据え、決して逃げようとはしなかった。透き通るような白い肌は淡い光を帯びて、まるで新たな生命の息吹を感じさせる。


身体の隅々まで、彼女自身の存在が震えるほどに鮮明に感じられた。手のひらの柔らかさ、指先の微かな震え、胸の鼓動さえも――全てが今、彼女の内側から輝きを放っていた。


執事は静かに傍らに立ち、無言でその様子を見守っていた。雨南は裸のまま、未来への扉を開ける覚悟を胸に秘めて、次の一歩を踏み出そうとしていた。

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