第2話 目覚めの合図

森の魔物の出現から一夜が明けた。

昨日の戦いを思い出しながら、ユリオンは

薄暗い納屋の中でごろりと転がっていた。

筋肉が心地よく疲れている。

 正直、怖かった。魔物の唸り声、恐怖に

固まって一瞬動けなくなった。

 でもそれ以上に、剣を振るって、

命がけでぶつかった時の胸の高鳴り……

 あの一体感と熱さが、どうしようもなく気持ちよかった。

 「……もう一度あんな戦いをしてみたい。いや、それ以上を味わってみたい」


自分の心の中で、静かにそんな呟きが

湧いてきた。

いつの間にかまぶたが重くなり、ユリオンは深い眠りに落ちた。

     

夢の中だった

目の前には、どこか明るい草原。空は青く、風が優しく顔を撫でる。

 ふと目線を目にやると、派手なジャケットを羽織り、ツバの大きな帽子を被った男が目の前に立っていた。笑い皺の刻まれた顔、

薪割りでもしてきたような腕っぷしだ。

「やぁ、ユリオンくん」

「――誰だ?」

「んー、通りすがりの“応援団”ってことでよくない?細けぇことは気にすんな」

のほほんとした調子が、警戒する隙さえ

与えない。

「昨日、いい戦いしてたな。血が騒いろ?」

警戒心が緩み、ユリオンは正直に答えていた

「…怖かったけど、それ以上に……剣を振るうのが、改めて楽しいって思ったんだ」

男は声を上げて笑った。「いいねぇ、それ!そういう奴、大好きだ」

「な?剣を持って、強い敵とやりあうあの感じ。生きてる!って心から思えるだろ?お前さん、もしかして“もっと強い奴とやりたい”って思ってんじゃないかい?」 

思いがけず心を見透かされ、ユリオンは

うなずいた。

「強くなりたい。昨日みたいに、もっと

上手く戦いたい。それに……

どんな敵でも圧倒できるようになりたい」

帽子男は片目をつむりながら、ユリオンの肩をポンと叩いた。

「よしよし、素直でよろしい!

じゃ、ちょっとだけ――お前さんの中に眠る“力”、のヒントを与えよう」

「……力?」

「そうそう。生まれつき持ってる奴もいれば、きっかけを掴んで伸びる奴もいる。でもな、大事なのは“自分で限界を決めないこと”だ。強くなりたい、上手くなりたい。そうやって手を伸ばす奴には、チャンスが舞い込むもんよ」

「ま、ちょっとしたオマケみたいなもんさ」

男は指をパチンと鳴らした。

その瞬間、ユリオンの胸の奥に、微かな火花がパッと弾けた気がした。

「ほら、ビビっときただろ?

オレはそれで十分。それじゃまたな――

世界で一番強い剣士になったら、

?」

帽子男は手を振り、風の中へ消えていった


夢から覚めたユリオンは、しばらく天井を

ぼんやりと見上げていた。胸の奥でまだ

微かに、昨夜の戦いと夢の余韻がざわめいていた。

窓から差し込む朝の光に目を細め、ゆっくりと体を起こした。

軒下で父が魔法を使って薪割りをしていた。顔を見るなり「すごいな、昨日は」と驚いたように微笑んでくる。

ユリオンは照れ臭そうに頭を掻きながら

「まだまだ全然だよ」と答える。

母は台所で煮物の鍋をかき混ぜていた。

「危ないことはもうやめておくれよ」と心配しながらも、「ユリオンの剣は昔から不思議だった」と、優しい目でユリオンを見つめる。

「ご飯はしっかり食べていくんだよ」

朝食の後、広場に向かうとカイラスが

ユリオンを待っていた。

老騎士のカイラスは大きな荷物を肩に担ぎ、真剣な眼でユリオンに声をかける。

「ユリオン、お前の剣筋……

ただの村人じゃない。王都には俺を師範とした剣術道場があるんだが。

一緒に来ないか?」

ユリオンは一瞬、驚きと憧れが交じる気持ちでカイラスを見上げる。

(魔法が中心の王都に、

剣術道場..本当にあったんだ!)

「俺が……王都でやれると思いますか?」

カイラスは力強くうなずいた。「お前なら

十分通用する。王都には腕自慢も多いが、

お前ならきっと成長できる」

その言葉が、ユリオンの心に火を灯した。

数週間かけて両親とはなし、

出発の支度を整えた。

出発当日、ユリオンは両親の前で深く

頭を下げた。

「行ってきます。必ず、立派になって戻ってきます」

父は強く肩を叩き、母は布きれで目頭を拭いながら、「元気でな」と送り出してくれた。

村の道を歩き出す前に、ユリオンはリリアの家に立ち寄った。

リリアは庭先で洗濯物を干している。ユリオンを見つけると、少し寂しげに微笑んだ。


 「王都に、行くんだね」


「ああ、カイラスさんに誘われたんだ。俺、もっと強くなりたくて……」

言葉に詰まるユリオンに、リリアはそっと胸の前で両手を合わせる。

「きっと大丈夫。ユリオンなら,,,,,,

けど無理はしないでね」

嬉しさと寂しさが入り交じりながら、

ユリオンは力強くうなずいた。

「ありがとう。リリアにも、立派になって、

いい話を聞かせるから」

村を抜ける坂道の上で、カイラスが

待っていた。

ユリオンはもう一度、村や家族、そしてリリアに手を振り返してから、

新しい世界へ踏み出した。

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 ここまで読んでくれて

    本当にありがとうございます!

次回から、物語が加速すると思うので

(思いたい)次回も読んでくれると嬉しいです!!



      

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