廃れた剣が世界を断つ

さまたな

1章 剣術と魔法

プロローグ➕第1話 剣に魅せられし少年

剣と魔法のアルデア大陸ーー

          だがそれは昔の話

魔法が支配する世界。広大な空の下、煌めく魔法の結晶が点在し、人々の生活はその不思議な力によって成り立っていた。強力な魔法を使う物たちは社会の頂点に立ち、魔物を討伐する時も、圧倒的に魔法の方が有利だ。そのため剣術は徐々に影を潜めていった。

その中心国エルザリア王国では、魔法使いの貴族たちが王都を掌握し、剣士はもはや戦場の片隅で静かに歴史の一部になりつつあった

だが、そんな時代に、村で一人の少年が

生まれた。

ユリオン•カインハルトーー彼は誰よりも剣を愛し、魔法に頼らない強さを追い求めていた


ユリオンが剣術に興味を持つきっかけと

なったのは、幼い頃に祖父が書いた一冊の

書物だった。

その書物は「侍」と呼ばれる異世界、日本の剣士たちの物語を語っていた

彼にとって、その「侍」は伝説以上の存在であり、憧れの存在になり、

彼の心に火を灯した。

「剣は魂だ。恐怖に飲まれた瞬間、斬撃は鈍る」

祖父はよくそう語った。剣術は単なる技術ではなく、精神の鍛錬であり、己の誇りを賭けた戦いの証だと。

ユリオンの家は剣術の家系ではなかった。

彼の父も魔法使いであり、家の期待は魔法の才能を伸ばすことにあった。

しかしユリオンは違った。彼の目はいつも剣に向いていた。

村の片隅にある小さな稽古場で、ユリオンは木剣を握りしめ、何度も何度も繰り返し素振りを行った。

「魔法は確かに強い。だが、剣が消えることはない」

ある日、師範代の老剣士は静かに言った

「お前のその心が、本物の剣士を創る」

ユリオンの挑戦は始まったばかりだった。魔法が圧倒的な力を誇る世界で、剣術の道を選ぶことは孤独の戦いだった。しかし、彼の中に確かな信念があったー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

エルゼリア王国北部の辺境、リーヴェ村。

ユリオンはいつものように剣の修練を終えると、幼馴染のリリアと森へと足を運んでいた。

目指すのは村の北に広がるダルク森。そこには人目につかない開けた場所があり、木々の間を使った足運びの稽古に最適だった。

「今日こそ、間合いを詰める動きの感覚を掴む..」

腰に練習用の細身剣を差し、森の奥へと踏み入れる。昼下がりの森は鳥の声と風の音しかなぅ、心地よい静けさが広がっていた。

森の奥で型を繰り返していると、不意に空気が変わった。 

鳥の声がやみ、風がざわつき、重く湿った気配が肌にまとわりつく。

「..,..?」

ユリオンが耳を澄ますと、茂みの向こうから低い唸り声が響いた。

次の瞬間、木々を薙ぎ倒す勢いで黒い影が飛び出す。

現れたのは、村で滅多に目撃されないはずの魔物ーーーダルク•バイダー。

漆黒の鱗に覆われ、狼のような体に、

赤く光る瞳が獲物を探すようにギラついている。

「なぜここに..,..!」

ユリオンは反射的に剣を抜いたが、そもそもここ、ダルク森は、王都の魔法使いが魔物を一掃し、魔物が出ないはずの安全な森だった

本来は魔法使いや複数の千紙が相手をするクラスの魔物だ。

しかし逃げる選択はなかった、背後には薪を拾っているリリア•フェルネアの姿があったのだ。

「ユリオン!?なんでこんな所にーー!」

「後ろに下がれ!」

魔物が飛びかかる。ユリオンは身を捻り、

ギリギリで爪を避けると同時に足元へ切り込みを入れる。

だが厚い鱗に阻まれ、浅い傷しか残せない。

(やっぱり硬い..,..でも!)

再び間合いをとり、祖父から受け継いだ教えを胸に刻む。

(剣は魂だ。恐怖に飲まれた瞬間、斬撃は鈍る)

(剣士は、圧倒的に危険が高い、遠くから攻撃ができる魔法使いに対して、剣士は近づかなければいけない分、攻撃が当たる可能性が高くなる)

ユリオンは微笑を浮かべる

(だが、ヒリヒルするこの感じ,,,気持ちいい)

「行くぞ..,..」

魔物の突進を剣で受け流し、そのまま身をかがめ、先の攻撃で傷ついた鱗に、魔物が通り過ぎる一瞬の内に何度も斬撃を繰り返し、鱗を破り、肉を切った。

特定の魔物は知能が高く、勝てないと判断した相手からは、逃げる行動を起こす。

耳をつんざくような咆哮とともに、魔物は森の奥へと逃げていく。

ユリオンは追いかけようとしたが冷静になり

(無理に危険を犯す必要はないな,,,,)

「..,..助かった..,..」

リリアが震える声で呟く。ユリオンは息を整え、剣を納めた。

「村に知らせよう。こんなのがうろついていたら危険すぎる」


その夜、静かなはずの村はざわめきに包まれていた。焚き火の灯りが広場を照らし、集まった村人の人たちの表情には、不安と驚きが混じっている

「なぜ森に魔物が出たんだ?」

「魔法使いが討伐したはずでは,,,」

そんな声が漏れるなか

村長ーーエルメス•ラントは、背筋を伸ばしたまま、一人のある老人を呼び寄せた。

老騎士、カイラス•マルドゥーン

村長の古き友人であり、

ライバルでもあった男

「..,..魔物が出たと聞いた。しかしユリオン殿が、ひとりで退けたと?」

低い声に、周囲のざわめきが一瞬やむ。

エルメス「完全に仕留めてたわけじゃない。

だがーー同じ所に蓮撃で押し切り、足りない火力を補った、、とか」

カイラス「ただの村の少年が持つものじゃないな、」

焚き火の火が揺れ、カイラスの瞳に赤い光が宿る。

その頃、当のユリオンは、自宅の小さな寝台で静かに眠っていた。

あの偶然が、この村、ひいてはエルザリア王国全体の運命を揺るがす大きな渦の始まりになることも、まだ知る由もなかった。













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