会国財絆

第1章 仲間の看病

日本の家。

障子からやわらかな光が差し込み、縁側の外では風鈴が小さく鳴っている。

布団の上には、戦いで傷を負ったフランス、イタリア、ドイツが横たわっていた。

その傍らには氷水の桶や、濡れタオル、薬草が並べられている。

「大丈夫か?」

絆川が心配そうに声をかけ、布団の横に膝をついた。

ドイツは額に汗を浮かべながらも、かすれた声で答える。

「……ああ、少し体が重いだけだ。だが……すぐ立ち上がれる」

「無理すんなよ」

七歌がすぐに割って入る。タオルをきゅっと絞り、ドイツの額に当ててやる。

「こういうときくらい、素直に寝てりゃいいんだ」

一方、イタリアは冷え布を額に乗せられ、寝言のように呻いていた。

「うぅ……ごはん……パスタ……」

「ははっ、夢ん中でも飯かよ」

七歌が呆れ笑いを漏らす。

絆川も思わず苦笑しながら、布団を直してやる。

「食欲あるってことは、まだ大丈夫だな」

フランスは寝返りを打ちながら、目を細めて軽口を叩いた。

「……美しいレディたちに看病されたいものだが……今回は君たちで我慢するとしよう」

「動けないくせに減らず口だけは健在か」

日本が静かに言って、冷たいタオルを差し替える。

その所作は無駄がなく、看病の手際は見事だった。

十六夜が緊張した面持ちで台所からお盆を運んできた。

「……えっと……お粥、作ってみた……」

お盆の上には湯気を立てる椀が並んでいる。

しかし、ほんのり香ばしい匂い――少し焦げた匂いが混じっていた。

七歌が鼻をひくつかせ、思わず吹き出す。

「……おいおい、なんか焦げてねぇか?」

十六夜はぎゅっと唇を噛み、俯く。

「……ごめん。ちゃんと作れるはずなのに……緊張して、少し焦がしちゃった」

空気が一瞬、気まずく固まる。

だが、絆川がすぐに椀を受け取り、笑ってみせた。

「いい匂いだ。ほら、みんな、食ってみようぜ」

ドイツが最初に匙を取る。

ひと口すすり……目を閉じた。

「……悪くない。焦げの香りも……香ばしさとして楽しめる」

フランスも匙を口に含み、くすりと笑う。

「焦げたって? いやいや、これは“個性”だよ。苦みが効いていて、むしろ大人の味さ」

イタリアは寝ぼけながらも食べさせてもらい、にっこり笑った。

「ボーノ……! あったかい……」

その言葉に、十六夜はようやく安堵の笑みを見せた。

そして皆の表情も、わずかにだが柔らかくなった。


第2章 十六夜の不安

皆にお粥を食べさせ終えたあと。

台所で片づけをしていた十六夜が、ぽつりと呟いた。

「……私のせいで、みんなが傷ついたんじゃないか……?」

その声は小さいが、部屋の空気を一瞬で張り詰めさせた。

絆川がすぐに立ち上がり、強く言い返す。

「バカ言え。お前のせいじゃねぇよ」

十六夜が驚いたように目を瞬く。

絆川は真剣な眼差しで言葉を続けた。

「俺が必ず守る。お前が背負う必要なんてねぇんだ。俺たちが一緒に戦うんだから」

十六夜はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷く。

「……ありがとう」

七歌は肩をすくめ、にやりと笑った。

「ほんと、絆川はそういうとこ真っ直ぐだよな。……でも、そういう真っ直ぐさで救われることもある。悪くねぇ」

日本も静かに口を開いた。

「十六夜さん。戦場で傷つくのは、誰か一人の責任ではありません。

皆で立ち、皆で背負う。それが仲間です」

十六夜はその言葉に胸を震わせ、小さく「……うん」と答えた。


第3章 財団の会議

一方その頃――。

財団本拠地の広大な石造りの会議室。

重厚なシャンデリアが鈍い光を放つ中、長い円卓に幹部たちが座っていた。

ビスマルクが立ち上がり、厳格に告げる。

「――大和美琴様が動き出された。各員、覚悟はできているな?」

ナポレオンが腕を組み、低く応じる。

「想定より早い。だが、我々に迷いはない」

フーディーニは机にカードを並べながら、口元に笑みを浮かべる。

「次の幕が上がる……そういうことだろう」

壁際で銃を磨いていたビリー・ザ・キッドが口を尖らせる。

「チッ、俺はもっと早く暴れてぇのによ。待ちくたびれて退屈だ」

ビスマルクが一瞥し、冷たく言い放つ。

「焦るな。時が来れば戦場は開く」


第4章 財団の日常

会議が終わると、緊張は少し薄れた。

フーディーニがカードマジックを披露しようとしたが、手を滑らせてカードを床にばら撒いてしまう。

「……おっと、失敗だ」

ナポレオンはため息をつきながらも、黙ってカードを拾い集めてきっちり並べ直す。

「……几帳面すぎるな、お前は」

フーディーニが苦笑し、肩をすくめる。

ビリーは拳銃をくるくる回して遊び、机に穴を開けてしまう。

「へっ、いい音だな」

すかさずビスマルクの鋭い視線が突き刺さる。

「……次に同じ真似をすれば、銃口を捨ててもらう」

「ひぇ、こえぇな……!」

と笑いながらも、ビリーは銃をしまった。

その空気はどこか奇妙だが、確かに安定していた。


第5章 不気味な前兆

そのとき。

会議室の奥――重い扉が軋み、ゆっくりと開いた。

暗い廊下から、薄闇をまとった影が差し込む。

玉座の前に、財団の王――大和美琴が姿を現した。

紅い瞳が鋭く光り、空気を凍らせる。

ビスマルクは即座に姿勢を正し、低く呟いた。

「……次に動くのは、我々かもしれませんね」

仲間たちの顔が一斉に引き締まる。

――財団の日常の裏側で、確実に新たな戦いの幕が上がろうとしていた。

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