和歌絆十
第1章 束の間の日常
日本の家の居間。
木の柱が温かみを帯びて、ちゃぶ台には湯気を立てる料理が並んでいた。
絆川、七歌、十六夜、日本、ドイツ、フランス、イタリア、そして陸。
それぞれの席で箸やフォークを動かし、束の間の夕食を囲んでいた。
「このシチュー、意外と旨いな」
ドイツが無骨に呟き、皿を一気に掬い取る。
イタリアが満面の笑みで手を広げた。
「ボーノ! やっぱり食事はこうでなくちゃ! オリーブオイルをちょっと垂らしたら、もっと最高になるぞ!」
フランスは余裕の表情でグラスを傾け、赤いワインを回しながら小さく笑う。
「料理の味も悪くないけれど……この雰囲気がいい。友情と、束の間の平和……まるでワインの熟成のようだ」
日本はおっとりとした口調で静かに注意する。
「フランスさん、飲みすぎないでくださいね。ほら……もう頬が赤くなってますよ」
「フッ、心配されるのも悪くない」
フランスは肩をすくめて、余裕の笑みを崩さない。
その一方で、十六夜は少し下を向いて黙っていた。
箸を動かす速度は遅く、視線は器の中に落ちている。
そんな彼女が、ふと隣の絆川にだけぽつりと声を漏らした。
「……美味しい」
絆川は一瞬驚き、すぐに破顔した。
「そうか……! そう言ってくれるだけで十分だ。俺にとっちゃ、それが一番のご馳走なんだよ」
七歌がにっこりと笑顔で頷く。
「だよな、絆川。俺もそう思うぜ。みんなで一緒に食ってるこの時間……これが最高だ」
陸は少し遅れて箸を置き、皆の顔を見渡した。
「……オレ、こうやって一緒に食卓囲むの、なんか久しぶりでさ。
戦いとか任務のことばっか頭にあったけど……やっぱ、いいな。
こういう時間があるから……オレら、戦えるんだと思う」
彼の言葉に、場の空気がさらに柔らかくなる。
誰もが――この静かな日常が、ずっと続けばいいと願った。
しかし、その平穏は長くは続かない。
第2章 財団王、大和美琴の出現
その夜。
家の外の空気が突如として重く変わった。
陸が真っ先に異変を感じて立ち上がる。
「……おい、感じるか? 空気が……歪んでやがる」
七歌が眉をひそめ、剣の柄に手をかけた。
「なんだ……この圧……!」
夜の闇がねじれるように揺れ、そこからひとりの女が姿を現した。
艶やかな黒髪と、紅い瞳。
その立ち姿はただの人ではなく――王の風格を持っていた。
「やっと会えたわ。絆川、そして……十六夜」
財団王・大和美琴。
その声は甘美でありながら冷たく、居間の空気を一瞬で支配した。
絆川は咄嗟に立ち上がり、叫ぶ。
「お前が……財団の王か!」
七歌はすぐに剣を抜き、構えた。
日本がその肩に手を置き、声を張る。
「皆さん、落ち着いてください! 挑発に乗るのは早い……ですが警戒を」
美琴は微笑むだけで、片手を軽く振る。
空気そのものが震え、床がかすかに軋んだ。
陸は一歩踏み出し、低く唸るように言った。
「……こいつが、王……! 冗談じゃねぇ、今の空気だけで体が重い……!」
第3章 圧倒的な力
ドイツが最初に踏み出した。
「来るなら受けて立つ!」
拳を繰り出した瞬間――光が弾け、次の瞬間には床に叩きつけられていた。
「なっ……!」
フランスもイタリアもすぐに動いたが、まるで子供をあしらうように簡単に倒される。
「こんなに……力の差が……!」
「うわぁぁっ、信じられない!」
日本ですら一歩も動けず、ただの威圧だけで体を押さえ込まれる。
「……これほどとは……!」
美琴は紅い瞳を細め、微笑みを浮かべた。
「あなたたちは王に挑むにはあまりにも無力ね。
でも……あなたたちがここで倒れる姿は充分に価値がある。
だって、それを見せつけるだけで――絆川と十六夜を、私のもとへ引き寄せられるのだから」
陸が必死に立ち上がり、歯を食いしばった。
「ふざけんな……! 俺らをただの餌に使うだと!? 上等だ、王だろうがなんだろうが、簡単に従うと思うな!」
だが、その声も美琴の笑みにかき消された。
第4章 財団の影での会話
一方その頃、財団の拠点。
ビスマルクが冷たい声で呟く。
「……大和美琴様がついに動き出した」
ナポレオンが顎に手を当て、短く答える。
「そうか。ならば我々は今回は手を出さぬ、ということか」
ビリー・ザ・キッドが舌打ちした。
「チッ、せっかく暴れられると思ったのによ。
血が騒いで仕方ねぇってのに……!」
フーディーニは薄く笑い、肩をすくめた。
「王の采配に逆らえば消されるだけ。従うしかないさ。
それに……王が直接動くなんて、滅多にない。これは面白い舞台だよ」
彼らはただ見守るしかなかった。
第5章 残された者たち
家には日本、フランス、ドイツ、イタリアが倒れ伏していた。
静まり返る居間に、重苦しい空気だけが残る。
美琴は絆川と十六夜をじっと見つめ、柔らかい声を残した。
「さあ、もっと強くなりなさい。そして……私のもとへ来るのよ」
その言葉と共に、彼女は影に包まれて姿を消した。
――沈黙。
七歌は拳を握り、唇を噛んだ。
「くそっ……あれが財団の王……! あんな化け物相手に……どうすりゃいいんだよ!」
陸も悔しげに拳を壁に叩きつけた。
「ちくしょう……! 俺だって守りたかったのに……何もできなかった……!」
絆川は震える十六夜の肩を抱きしめ、強く言い聞かせるように呟いた。
「絶対に……守る。どんな敵が相手でも、俺が必ず……!」
夜風が窓を揺らし、遠くで犬の鳴き声が響いた。
しかし――皆の胸に残ったのは、圧倒的な敗北の記憶だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます