十歌平川

第1章 穏やかな午後

街角のカフェから漂う香ばしいコーヒーの香りが、柔らかな午後の日差しに混ざって、街全体を包み込んでいた。七歌と絆川は、肩を並べながらゆったりと歩き、互いの些細な話題に笑顔を交わしていた。

「この店、なかなか落ち着くな」

絆川は店先の小さなテラスを眺めながらつぶやく。カフェの木製の椅子や、壁に掛かった小さな絵画が、どこか昔懐かしい雰囲気を醸し出していた。

「そうですね、今日はゆっくりできそうです」

七歌は柔らかく微笑み、手にした紙袋を軽く揺らす。その中には、店で焼かれたばかりのパンや、甘い香りのする焼き菓子が入っていた。

通りを渡る人々のざわめきや、遠くで聞こえる自動車のエンジン音が、平和な午後の空気を一層穏やかに彩る。しかし、静かな時間の中に、かすかな異変が混ざっていた。遠くの路地から、小さな悲鳴がひそやかに、しかし確かに聞こえたのだ。

絆川の眉がわずかにひそめられ、彼の視線が路地の方へ向かう。七歌もそれに気づき、少し身をすくめる。街の静寂が、突如として緊張に変わる瞬間だった。


第2章 少女との遭遇

絆川の目が、路地の奥で小さく震える影を捉えた。誰もいないはずの細い道に、ひとりの少女が、足早に駆け抜けている。

「……あそこに誰かいる」

絆川は声を潜めながら呟き、すぐに少女の後を追う準備を整える。少女の姿は、恐怖に押しつぶされそうになりながらも、必死に前へ進もうとする様子が見て取れる。

「待って! 危ない!」

絆川の声は少女に届き、少女は立ち止まり、振り返って驚きの表情を浮かべる。大きな瞳に恐怖が広がり、わずかに口が開く。だが、逃げる足は止められず、再び走り出す。

絆川は一瞬の迷いもなく、少女に向かって駆ける。街角の看板や塀をかすめながら、二人の間に迫る緊迫感は、空気を震わせるほどだった。


第3章 追跡と混乱

路地を駆け抜ける二人の背後には、見えない脅威が迫っていた。謎の敵が、黒い影のように忍び寄り、徐々に距離を詰める。

絆川は少女の小さな手をしっかりと握り、狭い路地を曲がって身を隠す。息が荒くなる少女を前に、彼の心臓も高鳴った。

「こっちだ!」

絆川の指示で少女は方向を変え、建物の陰に身を潜める。短い沈黙の間に、二人の呼吸だけが路地に響く。

その間、七歌は一歩も退かず、敵と対峙する。剣を構え、光を帯びた一撃で迫る敵を押し返す。衝撃が路地の壁に反響し、静かな街の片隅を揺らす。七歌の目には、緊張と覚悟が交錯していた。


第4章 戦場の分断

絆川と少女は建物の陰で身を寄せ合い、互いの存在を確かめながら呼吸を整える。少女は小さく震え、声を出すこともできず、ただ絆川の顔をじっと見つめた。

「……誰……?」

少女の声はかすれ、恐怖が滲む。しかし絆川は柔らかな微笑みを浮かべ、少女の心を落ち着かせるように答える。

「大丈夫、危険はもうすぐ終わる」

彼の言葉には揺るがぬ信頼と決意が込められていた。その言葉を聞いた少女の瞳に、わずかな安堵の色が差し込む。

遠くでは、七歌が剣を振り、敵の攻撃を軽やかに受け流す。光と影が交錯し、街の静寂を破る中、二人の安全を守るための戦いは続く。


第5章 逃げ延びた先

二人はさらに奥の路地へ逃げ込み、ようやく一息つく。絆川は少女を守るように立ち、周囲に目を光らせる。

少女は荒い呼吸を整え、わずかに安堵の表情を浮かべる。ほっとした瞬間、遠くで七歌の声が届く。

「まだ終わらせない!」

その声に勇気をもらい、絆川は少女の手をさらに強く握り直す。街に一瞬の静寂が戻る中、二人の影は路地の陰に溶け込む。

しかし、空には新たな不穏な気配が漂い、物語はまだ終わらない――。

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