覚冥歌絆

第1章 宣告の叫び

焦げた大地に炎が揺らめき、崩れ落ちた瓦礫の山が赤黒い影を伸ばしていた。

戦場の空気は未だ冷めやらぬ緊張に満ち、血の匂いが鼻を突く。

その中心に、二人の影が対峙していた。

七歌は震える手で剣を強く握り締め、深く息を吐き出す。

額を汗が伝い落ちる。

だがその瞳は決して逸らさなかった。

「……冥川」

震えを帯びながらも、その声には憎悪が宿っていた。

七歌は唇を噛み、胸の奥から言葉を叩きつける。

「お前だけは……お前だけは……絶対に許さない!」

冥川はゆっくりと笑みを浮かべた。

その目は、赤黒い光をたたえながら七歌を射抜く。

「ほう……やっと光の仮面を捨て、憎しみを口にしたか。」

愉悦に満ちた声が空気を震わせる。

「良い……そうでなくては。人は憎しみでこそ燃え上がる。お前は今、その証を見せている。」

七歌の体から光が迸り、空気が震えた。

瞳は赤と金に燃え、衣の縁から七色の光が流れ落ちていく。

その姿は、かつての七歌を知る者なら誰もが息を呑むほどの変貌だった。

「……俺は七歌。仲間を守るためなら、闇にだって牙を剥く!」

声が戦場に轟き渡る。

「お前だけは……倒す!」

その瞬間、七歌の全身から覚醒の光が爆発した。


第2章 覚醒七歌

冥川が鎖を振り下ろす。

黒い閃光が大地を裂き、瓦礫が宙に舞った。

その破壊力は、普通の人間なら一瞬で消し飛ぶほどのもの。

だが――七歌は微動だにしない。

剣をひと振りするだけで、迫り来る鎖を断ち切った。

「……こんなものか、冥川。」

冥川の瞳が細められる。

その声は笑いを含んでいた。

「力を得たか。だが覚えておけ、七歌。力は必ず心を蝕む。」

鎖が地を這い、黒い闇を撒き散らす。

「お前もすぐに、私のようになる。仲間を救うなどと叫びながら……結局は憎しみに囚われるのだ。」

七歌は一歩踏み込み、声を張り上げた。

「ならば証明してやる! 俺は闇に堕ちない!」

剣を掲げ、光が奔る。

「俺は仲間の光を信じる!」

その叫びと同時に剣と鎖が激突し、火花が夜空を裂いた。


第3章 心の揺らぎ

戦いの最中、冥川は低く囁いた。

「七歌……本当にそうか?」

鎖が地面を擦り、耳障りな音を立てる。

「お前の心の奥に、怒りも憎しみもないと……そう言い切れるのか?」

七歌の表情が一瞬だけ揺れた。

心臓が痛みを訴える。

「……俺は……」

その隙を突くように、冥川は追撃する。

「お前が『許さない』と叫んだその時点で、もう闇に触れている。」

声は静かに、だが確実に七歌の心を抉る。

「私は絆川の闇。そして同時に……お前の闇も映す鏡だ。」

七歌の瞳が揺れる。

過去の記憶が胸を突き刺した。

――かつて、誰も信じられず、孤独に震えていた自分。

その手を取ってくれたのは……絆川だった。

「七歌、お前は一人じゃない」

「どんな時も俺がいる。信じられなくても……お前だけは信じる」

あの日の絆川の声がよみがえる。

七歌は強く剣を握り直し、叫んだ。

「それでも構わない! 闇に触れようと……お前だけは、絶対に負けない!」


第4章 鎖と光の嵐

冥川が両手を広げ、全力で鎖を放つ。

空は黒に覆われ、何千という鎖がうねり、世界そのものを縛ろうとした。

「七歌ァ! 光はすべて、闇に呑まれるのだ!」

大地が震え、瓦礫が空に舞い上がる。

だが七歌は叫んだ。

「俺の光は――仲間と繋がっている!」

剣を掲げると七色の剣閃が天へと伸び上がる。

「お前の闇なんかに、絶対負けない!」

光と闇が激しく衝突する。

爆ぜる轟音が世界を揺らし、大地は裂け、炎が渦を巻く。

空には幾筋もの閃光が交錯し、まるで天そのものが泣き叫ぶかのようだった。


第5章 交錯する絆

七歌の一撃が冥川を弾き飛ばした。

鎖が一瞬ほどけ、黒い闇が散る。

冥川は膝をつきながらも、笑みを浮かべ立ち上がる。

「ふはは……良いぞ、七歌。これだ……この憎しみと怒りの力!」

その声は二重に響き、戦場を揺らす。

「お前は私に近づいている!」

七歌は激しく息を吐きながらも、剣を構え直す。

額から血が流れ、体中に傷が刻まれていた。

だが声は決して揺るがなかった。

「違う! 俺は闇に堕ちない!」

七歌は吠える。

「俺は光も闇も抱いて――仲間を守る!」

その時だった。

冥川の影に、ふと絆川本人の姿が重なった。

「……七歌……俺は……」

その声は弱々しく、だが確かに親友のものだった。

七歌の瞳が大きく開かれる。

「絆川! お前は……!」

記憶が一気に溢れる。

雨の中で傘を差し出してくれた日。

絶望に沈んだ自分に、ただ「隣にいる」と言ってくれた夜。

孤独に震えていた心を救ってくれた唯一の存在。

七歌は涙を浮かべながら叫ぶ。

「俺にとって絆川は――唯一の親友だ!」

「誰も信じられなかった俺に、手を伸ばしてくれたのはお前だけだ!」

「だから! お前だけは、俺が絶対に救う!」

冥川の笑みが歪む。

その声は二重に響き渡る。

「ならば――証明してみせろ! 光が闇を抱けるのか!」

黒い鎖と七色の光が再びぶつかり合う。

轟音が戦場を震わせ、空が裂ける。

こうして――七歌と冥川、そして絆川を巡る最終決戦は、さらに深い渦へと飲み込まれていった。

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