第1章　闇の幕開け

焼け落ちた戦場。

血と煙と灰の匂いが漂う中、ただ二人の影が対峙していた。

七歌は剣を握り、深く息を整えた。

胸の奥にまだ残る鼓動が、激しく打ち鳴らされる。

その前に立つのは、黒い鎖を全身に纏った男――冥川。

その唇に浮かぶのは、不敵で冷たい笑み。

「……また来たか、七歌。」

冥川の声は、焼け跡を這う風よりも冷たく響く。

「光の使徒を気取って、正義の味方ぶって……いつまで続けるつもりだ？」

七歌は鋭い眼差しで睨み返す。

喉が乾いているのに、声だけは強く放つ。

「冥川。俺は光でも使徒でもない。ただ――」

拳を握り、心に刻む。

かつて笑い合った日々。

血だらけになっても肩を貸し合った瞬間。

「――仲間を救うために、お前を倒す！」

冥川の赤い瞳が揺らぎ、次の瞬間、彼は嗤った。

「救う……？」

嘲るように吐き出される声。

「お前が斬ろうとしているのは……仲間そのものだぞ？」

七歌は言葉を詰まらせた。

「……何を、言って……」

冥川はその動揺を楽しむかのように、さらに口角を吊り上げた。

第2章　鎖と剣

「試してやろう。」

冥川が指を鳴らす。

次の瞬間、黒い鎖が大地を裂いて飛び出した。

金属が擦れる轟音とともに、鎖は生き物のように七歌を取り囲み、絡みつこうと迫る。

「七歌。お前は光を掲げ、闇を恐れている。ならば――試すがいい！」

鎖が襲い掛かる。

七歌は剣を振り抜き、火花を散らしながら弾き飛ばす。

「うおおおおッ！」

戦場に轟音が響いた。

土と石が弾け飛び、焦げた大地に新たな裂け目が走る。

「絆川を……利用するな！」

七歌は叫ぶ。

しかし冥川は笑い声を高めた。

「利用？　違う。私は絆川そのものだ！」

鎖が渦を巻き、闇が濃くなる。

「奴の闇の心、憎悪、絶望……それが私だ！」

七歌の瞳が揺れる。

喉が詰まり、言葉が重くなる。

「……絆川の、闇……？」

第3章　揺らぐ心

七歌は剣を握り直す。

その手は震えていた。

「絆川は……俺の大切な仲間だ。」

声が震えながらも、胸の奥から言葉を絞り出す。

「優しくて、光を信じて……いつも俺の隣に立って……」

幼い日々が脳裏に浮かぶ。

無鉄砲に走り回った路地。

夜明けまで語り合った夢。

背中を預けて戦った無数の戦場。

だが冥川の声は冷たく切り裂いた。

「優しい？」

笑みが消え、赤い瞳が光を増す。

「それは仮面だ！　奴は心の底で怒りを抱え、誰にも見せずに苦しんできた。私はその証だ！」

七歌は息を呑む。

「そんなはずは……！」

しかし冥川の言葉は続く。

「七歌、お前に斬れるか？　仲間の闇を……絆川そのものを！」

第4章　対決の刃

七歌は迷いを振り払うように前に踏み出した。

「俺は斬る！」

足元が砕け、衝撃で砂塵が舞う。

「闇を、絶望を……そしてその先にある光を掴むために！」

剣と鎖が激突した。

轟音が大地を揺るがし、空に火花が散る。

「必死だな、七歌。」

冥川は嘲笑を浮かべながら、鎖を絡め取る。

「だが――闇は消えぬ！　私は絆川そのもの。お前が倒そうとしているのは、大切な仲間だ！」

七歌は歯を食いしばり、叫ぶ。

「違う！　俺は仲間を信じる！　闇に飲まれたとしても……その奥に必ず光がある！」

その声は、戦場の轟音をも突き抜けた。

第5章　絆の告白

激突の中、七歌が冥川を押し返した刹那――

「……七歌……」

空気を裂くような声が響いた。

七歌は息を呑む。

「今の声は……絆川……？」

冥川の姿に重なるように、もう一人の影が現れる。

それは、昔から共に歩んできた親友――絆川の姿だった。

「絆川！」

七歌は剣を下げかける。

「お前は……無事なのか！？」

絆川は傷だらけの姿で七歌を見つめる。

その声は弱々しくも、確かに彼自身のものだった。

「……七歌……助けてくれ。」

途切れ途切れに、それでも必死に言葉を紡ぐ。

「俺は……闇に呑まれそうだ……。でも……お前だけは……信じられるんだ……。頼む、七歌……親友のお前しか……俺を救えない……！」

七歌の胸が締め付けられる。

親友の叫びが、剣よりも鋭く心を突き刺す。

だが――

「黙れぇぇぇぇッ！」

冥川の怒声が響いた。

黒い鎖が絆川の体を絡め取り、その声を押し潰す。

「引っ込んでいろ！　この身体は私のものだ！」

絆川の姿が掻き消え、再び冥川が支配する。

その瞳が狂気に燃え上がった。

「七歌！　お前にできるものか！　光が闇を抱くなど、幻想にすぎん！」

七歌は迷わず剣を握り直す。

全身の震えを押さえ込み、叫ぶ。

「言える！　たとえお前の中に闇があっても……それを含めて、俺の仲間だ！」

その瞬間、冥川の笑みが揺らいだ。

赤黒い光と共に姿を震わせる。

「……ならば証明してみせろ。光が闇をも抱けるのか――七歌！」

戦場に再び轟音が響き渡った。

二人の最終決戦が、いま幕を開けた――。