敗涙絶望


第1章 時を超えた再会

突如として、モスクワの空が裂けた。

冬空を引き裂くように現れたのは、巨大な赤い渦。

渦の中心から、一人の男がゆっくりと現れる。

漆黒の軍服、深紅のマント、そして背に翻る赤き旗――鎌と槌の紋章。

ロシアの心臓が凍りつく。

「……親父……?」


その男は、かつて世界を震わせた超大国の象徴、ソ連だった。

「久しいな、ロシア」

その声は低く、重く、胸を打つ。

時間軸が乱れたことで、ありえない再会が現実となったのだ。


第2章 挑戦の理由

「なんでここに……歴史から消えたはずだ」

「歴史は力の前では意味をなさない」

ソ連は微かに笑みを浮かべた。

「私はお前を見に来た。…そして試すためにな」

ロシアは戦斧の柄を握りしめる。

「試す…だと?」

「お前がどれほど強くなったか。国を背負う者として成長したのか」


その瞬間、ソ連は巨大なハンマーを構えた。

「行くぞ、ロシアァァ!」


第3章 魂解名発動

轟音と共に二人はぶつかり合う。

大地が割れ、雪が吹き飛び、凍てつく風が唸る。

ロシアは押し返されながらも、目を細めて叫ぶ。

「――魂解名、コクオウノレイヘキ!」

青白い氷壁が背後に立ち上がり、まるで国家そのものが盾となっているかのよう。

「俺はこの壁と共に生き、この壁と共に死ぬ!」


ソ連はその姿を見て口元を歪める。

「ほう…面白い」

ハンマーが氷壁を叩き割り、破片が空を舞う。


第4章 親子の言葉

戦いは続く。

ロシアの斧がソ連のマントを裂き、ソ連のハンマーがロシアの鎧を砕く。

「親父……昔の俺とは違う!」

「まだだ!お前には覚悟が足りない!」

ソ連の叫びは雷鳴のように響く。


一瞬の静寂の後、ソ連は低く言った。

「戦いは腕力だけではない。国を守る意思と、その覚悟が必要だ」

ロシアはその言葉に歯を食いしばる。

「なら、見せてやるよ…!」


第5章 別れと承認

長時間の激闘の末、両者は武器を下ろした。

雪が静かに降り始め、白銀の世界が広がる。

ソ連は息を整えながら、ゆっくりと微笑んだ。

「強くなったな…」

ロシアは少し照れたように笑い返す。

「当たり前だろ、親父」


「お前なら……もう、大丈夫だ」

そう言うと、ソ連の姿はゆっくりと赤い渦に飲まれ、消えていった。


ロシアはしばらく空を見上げ、静かに呟いた。

「……また会おう、親父」


第6章 静かな崩れ

ロシアとソ連の戦いから数日後。

世界はまだ時間軸の歪みを抱えたままだった。

その歪みは、戦場の遠く離れた場所――絆川にも忍び寄っていた。

七歌は拠点で休息していた絆川は、ふと頭を押さえた。

「……なんだ、この感覚……」

視界がかすみ、耳鳴りがする。

ただの疲労かと思ったが、胸の奥から聞き慣れない声が響く。


ふふ……やっと目覚められそうだな。

第7章 囁く影

夜。

絆川は夢の中で、漆黒の海に立っていた。

波はなく、音もない――ただ、暗闇が広がる。

そこに現れたのは、自分と同じ顔をした男。

しかし瞳は真紅に染まり、口元には不気味な笑み。


「お前は……誰だ」

「俺か? 俺はお前だよ。もう一つの、お前――闇川だ」


冥川はゆっくりと歩み寄り、絆川の肩に手を置く。

「この世界は弱すぎる。お前が守るなんて無理だ。だから俺がやる」

「……ふざけるな。俺は……」

「抵抗しても無駄だ。お前の力、心、体……全部もらう」


第8章 侵食

翌朝、仲間たちは絆川の様子がおかしいことに気づく。

「おい、絆川。顔色が……」七歌が眉をひそめる。

「大丈夫だ。ただ、少し……疲れてるだけだ」

その声はどこか低く、冷たかった。

心の奥で、闇川の声が囁く。


もっと力を出せ。この程度の世界、蹂躙できるだろう?

絆川は頭を振るが、足元から黒い靄がじわじわと広がっていく。

指先は氷のように冷え、目の奥がじんじんと痛む。


第9章 乗っ取り

嵐の夜。

外は雷鳴が轟き、雨が窓を叩く。

絆川は部屋で一人、膝を抱えていた。

「……もうやめろ……」


やめる? 違うだろ……お前は望んでいる。力を。

「俺は……!」

その瞬間、全身に黒い稲妻のような衝撃が走る。

視界が反転し、意識が沈む。

暗闇の奥から、闇川がゆっくりと浮かび上がり、笑った。

「……これで、お前はもう眠ってろ」


第10章 冥川、表舞台へ

翌日。

拠点の仲間たちは、絆川が部屋から出てくるのを見て安堵した――が。

「おはよう……七歌、」

その目は真紅、声にはぞくりとする冷たさがあった。

七歌は直感した。

「……お前、誰だ」

「俺か? 俺は……絆川だよ。ただし……本当のな」


闇川はゆっくりと笑い、背後の空間が黒く歪む。

そこから吹き出す瘴気に、仲間たちは息を詰まらせた。


「さぁ……この退屈な世界を、面白くしてやろうじゃないか」


第11章 紅き仮面

雷雨の夜。

アメリカ、イギリス、フランス、イタリア――4人が合同演習をしていた。

そこに、仮面をかぶった黒い男が現れる。

「……何者だ!」アメリカが銃を構える。

「名乗る必要はない。ただ……邪魔だから消す」


仮面の男は漆黒の力をまとい、瞬時に間合いを詰めた。

フランスは剣を抜き、イギリスは魔法陣を展開、イタリアは短剣で応戦するが――。


「ぐっ……!」

一瞬で3人が吹き飛ばされ、アメリカも地面に叩きつけられた。


第12章 敗北の瞬間

アメリカ「な、なんだ……こいつ……!」

フランス「化け物か……!」

イギリス「私の魔法が……防がれただと……!」

イタリア「……くっ……」

仮面の男は無言で歩み寄り、倒れた4人に止めを刺そうとする。

その時――


「何やってんだよ! 本当だめなの、息子たち!」

雷鳴の中から、3つの威厳ある影が現れた。

第13章 親世代の登場

イタリア王国――堂々たる軍服姿の紳士。

大英帝国――背筋を伸ばし、銀の杖を持つ老紳士。

そしてフランス帝国――深紅のマントを翻す、鋭い眼光の男。

イタリア王国「まったく……情けないぞ、イタリア」

大英帝国「息子よ、立て」

フランス帝国「……フランス、お前は何をやっていた」


フランスは目を逸らす。

「……すみません、お父様」


第14章 帝国たちの反撃

フランス帝国は剣を抜き、仮面の男に向き合う。

「面白い……お前、なかなかやるな」

仮面の男は沈黙を保ったまま構える。

フランス帝国「いいか、フランス……お前が使った技を見せてやる」


フランス帝国は左手を胸に当て、静かに息を吐く。

その瞬間、背後に金色の百合紋章が浮かび上がった。


魂解 ―― グランルミエール・ロワイヤル(Grand Lumière Royale)

眩い黄金の光が剣を包み、地面に輝く紋章が刻まれる。

フランス帝国が一歩踏み出すたび、周囲の空気が震えた。


第15章 ぶつかる力

イタリア王国と大英帝国も同時に動く。

大英帝国の杖から放たれる碧色の光、イタリア王国の長剣から迸る紅蓮の炎。

3つの帝国が一斉に仮面の男へ突撃する。

仮面の男は漆黒の刃で迎え撃つ。

火花が飛び散り、雷鳴がかき消されるほどの衝撃音が響く。


フランス帝国「……まだ終わらんぞ!」

イタリア王国「息子たち、よく見ておけ!」

大英帝国「これが、本物の戦いだ!」


そして戦いの中――フランス帝国の目が、仮面の奥の瞳を捉えた。

「……その目……どこかで……?」


16章新たな戦場へ

戦場の夜が再び訪れる。

嵐は去ったはずなのに、空気は重く、呼吸さえ苦しい。

アメリカは剣を肩に担ぎ、いつになく真剣な表情をしていた。

イギリスは杖を握りしめ、フランスと視線を交わす。

イタリアは短剣を撫でながら、小さく唇を噛んでいた。

そんな緊張を破るように、足音が響く。

「……また来たか」

フランスが呟くと同時に、闇を裂いて仮面の男が現れた。

その背からは、黒い霧が滝のように溢れ出している。


第17章 圧倒

戦闘は一瞬で始まった。

アメリカの剣は、闇川の一撃で粉々に砕かれる。

イギリスの魔法は、黒い瘴気に飲まれて消える。

イタリアは背後を取ったつもりが、仮面の男に片手で首を掴まれ、地面に叩きつけられた。

フランス「やめろおおおおっ!」

魂解を発動し、黄金の閃光が再び戦場を照らす。

だがその光は、闇川の掌から放たれた黒雷に呑み込まれ、霧散した。


フランス「……嘘、だろ……」


第18章 崩れる心

地面に膝をつくフランス。

剣は折れ、呼吸は乱れ、視界は滲む。

アメリカは倒れたまま起き上がれず、イギリスは片膝をついて血を吐く。

イタリアは声を上げることすらできない。

フランス帝国、大英帝国、イタリア王国も参戦するが、その力すら押し返される。


闇川の声が、仮面越しに低く響く。

「これが……お前たちの限界か」


第19章 敗北の涙

戦闘は終わった。

終わったのに、立っている者は誰一人いなかった。

泥の中に横たわるフランスの顔には、悔しさと無力感が刻まれていた。

フランス帝国は静かに息子を抱き起こし、耳元で囁く。

「強くなったな……だが、まだ足りん」


その言葉に、フランスの頬を涙が伝う。

雨ではない――それは、敗北を悟った涙だった。


第20章 絶望の夜

嵐の去った空には、月が沈みかけていた。

誰も言葉を発さない。

ただ、仮面の男の残した闇だけが戦場を包んでいる。

フランスは拳を握りしめ、かすれた声で呟く。

「……お父様、僕は……もう一度、立ち上がります」


だが今夜だけは、誰もその決意を口に出すことはなかった。

静寂と絶望だけが、この夜を支配していた。

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