絆時帝剣
第一章 静かな朝の港町
朝の光はまだ優しく、まるで誰かの優しい手で丁寧に世界を包み込むように柔らかく降り注いでいた。
港町の波は、どこか遠い昔の思い出のように静かに砂浜を撫でている。波が打ち寄せる音は耳に心地よく、空気は昨日よりもさらに澄み切っていた。
岸辺には漁船が穏やかに停泊し、潮の香りと木材の匂いが混ざり合っている。漁師たちは既に船の準備に取り掛かっており、その背中からは生活の厳しさと同時に誇りのようなものも感じられた。
そんな平穏な世界の窓辺に、日本は静かに立っていた。
ふと目を閉じ、深呼吸をひとつ。日本の口元に浮かんだのは、どこか澄みきった微笑みだった。
「皆様、おはようございます。今日も平穏な一日でございますね」
この言葉はまるで呪文のように、朝の空気に溶けていく。
その時、アメリカが元気よく庭先を駆け回りながら声を上げた。
「Yo!日本!今日も元気にいこうぜ!」
彼の言葉はまるで太陽のようにエネルギッシュで、近くの花々までも生き生きと揺らしているかのようだった。
日本はその声に応え、頭を下げて柔らかな笑顔を浮かべた。
「アメリカさん、元気そうで何よりでございます」
その後ろからカナダが控えめに微笑みながら、日本に話しかける。
「兄さん、朝の空気は清々しいですね。昨日の嵐が嘘のようだ」
カナダの声には暖かさと静かな確信が込められていた。
イギリスは優雅な動作で紅茶をすすりながら、落ち着いた声で言った。
「今日も完璧な朝だ、紅茶の香りが心地よい。まさに至福の一時だな」
一方でフランスはワインのグラスを傾けながら、鼻を鳴らし軽口をたたく。
「朝からワインは欠かせませんよ、皆さん。人生、楽しむことが一番です」
ドイツはきっちりとした姿勢で敬礼し、気合の入った声で答えた。
「今日も仕事に全力投球です、皆さん。責任を全うすることが我々の誇りです」
オランダは商売道具を片手ににこやかに話す。
「良い天気だ。船の準備は万端だぜ。今日も大漁間違いなしだ」
スペインはのんびりとした口調で懐かしい思い出に浸る。
「朝の陽気に包まれていると、昔の航海の夢を見てしまうな。あの波と風の匂いが蘇る」
そしてパラオは元気いっぱいに跳ね回りながら大声で叫ぶ。
「おはよう、日本!今日はどんな冒険が待ってるかな!」
日本は優しい声で彼に返した。
「パラオ、おはようございます。今日もお元気そうで何よりでございます」
その場に集まった皆の表情はどこか穏やかで、この日がただの平凡な一日であることを願っていた。
しかし、誰もが知らなかった。平和は決して永遠ではないということを。
第二章 裂けた空、現れた帝国
空が、まるで無理やり裂かれたように突然裂けた。
その裂け目からは轟音が轟き、次第に世界を包み込む巨大な光の渦が見え始めた。
その中心に現れたのは、黄金に輝く鎧を身にまとった騎士たち。目にも鮮やかなその姿は、まさに伝説のローマ帝国の再来であった。
「Ave, mundus est Roma!」
威厳に満ちた声が世界を揺るがし、かつての帝国の栄光を今に呼び覚ました。
「ローマ帝国が、現代に復活したぞ!」
世界中の人々が息を呑んだ。
日本は慌てて声をかけた。
「皆様、この非常事態、ただ事ではございません。速やかに状況を把握し、対応いたします」
アメリカは興奮と驚愕が入り混じった声で叫んだ。
「What the hell?! ローマが戻ってきたのかよ!」
カナダは冷静にアメリカに諭す。
「兄さん、落ち着いてください。冷静な判断が必要です」
イギリスは眉をひそめ、紅茶を置いて言う。
「また帝国の侵略か。まったく、紅茶を飲む時間もないとは」
フランスは腕を組み、過去の悲劇を思い起こすように呟いた。
「これじゃあまた戦争の始まりね…歴史は繰り返すのか」
ドイツは手にした解析端末の画面を凝視し、声を荒げた。
「時間軸が乱れている可能性が高い。科学では説明できない異常だ」
オランダは顔を曇らせた。
「港が攻撃されたら俺の商売も終わりだぜ…大変なことになった」
スペインは深いため息をついた。
「また昔の栄光を取り戻そうってのか…本当に困ったもんだ」
パラオは落ち着きを失い、声を震わせて叫んだ。
「やばい!何とかしないと!どうしよう!」
日本は厳しい表情で言った。
「パラオ、皆様、どうか落ち着いてください。私が対応いたします。今は混乱を避けることが最優先です」
第三章 黒い影の訪問者
空間のひび割れから、さらなる異変が現れた。
黒い影がゆっくりと現れ、地に足をつけるその姿は謎に包まれている。
旗も顔もない、ただ漆黒のマントを翻した球体のシルエット。
アメリカは低い声でつぶやいた。
「……誰だよあれ?」
フランスは疑いの目で影を睨む。
「国旗もない…国じゃない?一体何者?」
ドイツは眉を寄せ、冷静に分析を試みる。
「気配が読めない。情報が不足している」
日本は静かに声を発した。
「どちら様でございましょうか?目的をお聞かせください」
影はゆっくりと歩み寄り、ローマ帝国の前に立った。
ローマ帝国のリーダーが怒りを込めて叫んだ。
「貴様、名を名乗れ!」
黒い影は静かに答えた。
「我が名は絆川(きずなかわ)。時の渦を渡る者」
場がざわついた。誰もがその名に驚き、動揺した。
絆川は冷静に告げる。
「お前(ローマ帝国)が現れたことで、この時代の流れは乱れた。元に戻す」
ローマ帝国は嘲笑った。
「ふん、余を止められる者など存在せぬ!」
第四章 絆川の力
絆川は静かに刀を抜き、その足元に淡い光の紋章が浮かび上がった。
「下がってろ。ここは俺に任せな」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼の二刀は炎、水、雷、風、大地、光、闇……あらゆる属性の色を帯びて輝き出した。
「魂解――」
「絆が導く勝利の約束(きずながみちびくしょうりのやくそく)」
放たれた光はまるで神の裁きのように、あらゆる勢力を切り裂き、閃光がローマ帝国の騎士たちを包み込んだ。
彼らの鎧は光に砕かれ、次々に消えていく。
ローマ帝国は絶叫した。
「く…これが敗北か…」
光の渦が静まると共に、ローマ帝国の兵士たちは完全に消え去った。
空間の裂け目もゆっくりと閉じられ、世界には再び静寂と平和が戻った。
アメリカは呆然とつぶやいた。
「お、お前…何者なんだよ」
絆川は振り返らずに言った。
「時を紡ぎし者。余計は不可」
そして、その言葉を最後に、彼は闇の裂け目へと消えていった。
第五章 新たな時代の幕開け
カナダは感嘆の声を漏らした。
「兄さん…あの人、すごかった。あんな力が存在するなんて」
イギリスはゆっくりと紅茶を飲み干し、静かに言った。
「まあ…紅茶の時間には少し早かったが、世界が救われたなら良しとしよう」
平和だった日常は一変したが、絆川の存在は人々に新たな希望をもたらした。
しかし、この戦いは終わったわけではない。
時の渦はまだ静かに揺らぎ、絆川の背中が消えた闇の裂け目の向こうには、まだ見ぬ戦いが待っている。
物語は、まだ続く――。
第11章 裂ける空
港町の午後は、いつも通りのんびりしていた。
海風はゆっくりと頬をなで、波は同じリズムで寄せては返す。
魚屋の看板はぎしぎしと音を立て、漁師たちは腰を下ろして網を繕っている。
浜辺では子どもたちが凧を揚げ、空に向かって「もっと高く!」と叫んでいた。
フランスは、そんな光景を眺めながらコーヒーをすすっていた。
砂糖はたっぷり三杯。もちろん、「カフェ文化を誇るフランスとしてはこれは必須」などと小声で言い訳しながら。
――しかし、その平和は音もなく破られた。
空が、裂けた。
まるで布を鋭い刃で切り裂くように。
その裂け目は静かに広がり、青空の一部が見えない何かに吸い込まれていく。
「……え?」
フランスはカップを落としそうになった。
裂け目の奥から現れたのは、巨大な金色の紋章――双頭の鷲を抱えた存在だった。
翼は光を反射し、海面を黄金色に染めていく。
その中心に立つ影を見た瞬間、フランスの喉は固まった。
声は震え、息は浅くなる。
「……お、お父様……?」
第12章 帝国の進軍(※軍隊は出ない版)
港の空気が、一瞬で張り詰めた。
波の音すら、耳に届かない。
裂け目から漂う圧力が、町全体を押しつぶすようだった。
父はゆっくりと前へ歩み出た。
その足取りは重くもなく、速くもない。
ただ、確実に距離を詰めてくる。
「絶望の先に、見えるはずだ!」
その声は、海を渡り、街全体に響きわたった。
老人たちが店の戸を閉め、子どもたちは凧糸を放して走り去る。
フランスの手は自然と腰の剣の柄を握っていた。
「なぜ来たのです、お父様!」
「お前の力を確かめに来た。それだけだ」
――それだけ?
フランスは思わず目を細めた。
「“それだけ”って……あなたの“それだけ”は、いつも世界規模の話じゃないですか」
「細かいことは気にするな」
「いや細かくないです」
町のカフェの奥から、小声のつぶやきが聞こえた。
「完全に決闘の構えだろ…」
「また父子げんかか……こないだはパリ半壊したのに」
第13章 試練
海霧の中から、もうひとつの影が現れた。
それは絆川だった。
彼はフランスにだけ聞こえるように、低く言った。
「フランス……自分の答えを出せ。父を越えるのか、それとも従うのか」
その言葉は、胸に深く刺さった。
フランスは唇を噛みしめる。
しかし父は笑った。冷たく、しかしどこか誇らしげに。
「何が出ても受け入れろとは言わねえ。だが、乗り越えていけ。お前にならできる」
フランスは剣を引き抜いた。
その刃は夕陽を浴びてきらめき、港を黄金色に照らす。
「ならば……ここで証明します!」
「望むところだ」
第14章 魂解
突如、海と空がまばゆい光に包まれた。
フランスは叫ぶ。
「魂解――輝ける帝国の光!」
その瞬間、光は周囲を覆い、すべての圧力を溶かしていく。
港の石畳に落ちた影が、柔らかくほどけていくようだった。
しかし父は、その光を真正面から突き破った。
剣がうなりを上げ、フランスの頬をかすめる。
「強くなったな……」
「まだ終わりません!」
剣戟が何十回も交わされ、そのたびに火花が散った。
それは夜空に打ち上がる花火のようであり、しかし一発一発が命を懸けた衝突だった。
第15章 別れ
最後の一撃。
フランスの剣が父の剣を弾き飛ばした。
金色の粒子が父を包み、形を失っていく。
「強くなったな……お前ならもう、大丈夫だ」
「お父様……」
父はわずかに笑い、背筋を伸ばしたまま言った。
「もしまた強くなったら……その時は降伏してやろう」
「降伏って、父にしては珍しい言葉ですね」
「だからこそ、だ」
フランスは深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
父は静かにうなずき、光となって消えた。
残ったのは、再び穏やかな波の音だけ。
港の空には、裂け目が閉じた跡も残っていなかった。
フランスは小さく笑った。
「……カフェ、冷めちゃったな」
第16章 道場に現れた男
朝の道場は静かだった。
木の床は磨かれて光り、掛け軸には「心技体」の文字。
その中央に、ひとりの男が立っていた。
「お前が七歌か?」と絆川。
男は背筋をまっすぐに伸ばし、黒い稽古着の帯を締め直す。
低く通る声が道場に響く。
「俺の名は七歌。絆川の親友であり…ライバルだ」
周囲がざわつく。日本も姿勢を正して軽く会釈した。
「初めまして、七歌殿…ではなく、七歌さん。お噂はかねがね」
七歌は口角をわずかに上げる。
「噂だけじゃ物足りないだろ。本物を見せてやる」
第17章 挑戦の宣言
ドイツさんが腕を組んで立ち、場を見渡す。
「今日は日本と俺の試合じゃないのか?」
「予定変更だ」七歌が一歩前に出る。
「俺が出る。絆川、お前の目の前で俺の力を証明してやる」
絆川は鼻で笑った。
「また張り合うつもりか」
「当然だ。お前にだけは負けたくない」
日本は小さくため息をつき、しかし敬語は崩さない。
「では、私が立ち会い人を務めさせていただきます」
第18章 一礼と開始
三人が道場の中央に集まる。
七歌はゆっくりと木刀を構えた。
「日本、お前は見ていろ。これが俺の戦い方だ」
「承知いたしました」
七歌は一歩踏み込み、構えのまま固まった。
その動きに観客が息を呑む。
静寂の中、絆川だけが笑っていた。
「相変わらず…始まる前の間(ま)が長いな」
「この間こそ、俺の呼吸だ」
第19章 第一撃
七歌の木刀が一閃、空気を裂く音が響く。
ドイツさんは驚く間もなく防御に回る。
「速いな…」
しかし次の瞬間、七歌はさらに踏み込む。
「まだまだ!」
木刀と木刀が激しく打ち合い、道場の柱がかすかに揺れた。
日本は真剣な表情で見守る。
「攻撃の精度も、間合いも…絆川に匹敵しますね」
第20章 決着と約束
七歌は渾身の踏み込みでドイツさんの防御を崩し、木刀を肩にピタリと止めた。
ドイツさんは苦笑いしながら息を整える。
「負けたな。参った」
七歌は木刀を下ろし、視線を絆川へ向ける。
「どうだ、ライバル。この俺の勝負、見届けたか」
絆川は腕を組んだまま、薄く笑った。
「まあまあだな。でも…次は俺が相手だ」
日本が深々と礼をする。
「本日は、お見事でした」
七歌は日本に歩み寄り、軽く笑う。
「次はお前ともやる。その時は全力で来い」
「承知いたしました」
道場の空気は張り詰めたまま、しかし確かに熱を帯びていた。
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