親兄絆語」

霧に包まれた静かな朝。イギリスの家はその古びた外観からは想像できないほど、重厚で歴史ある空気に満ちていた。壁にかけられた古い旗は、かつての栄光の記憶を語るかのように、ひらひらと朝の風に揺れている。まるで長い歴史の中で刻まれた出来事を静かに見守っているかのようだった。


イギリスは暖炉の前の重厚な椅子に腰掛け、手にした新聞をじっと見つめながら、薄く眉を寄せて小さく呟いた。

「また今日も、あの兄弟がやりそうだな……」


新聞の見出しは近隣諸国の動きや国際情勢、経済問題で埋め尽くされているが、彼の視線はそこにはなく、どこか遠く、昔から繰り返される兄弟たちの争いを思い浮かべていた。長年にわたり家族の喧嘩を見続けてきた経験が、その言葉に重みを与えている。


玄関のドアが突然勢いよく開いた。そこに現れたのは、いつも元気いっぱいのアメリカだった。彼はまるで自分が世界の中心であるかのように、大声で叫んだ。

「親父!今日も俺は世界のトップだぜ!」


彼のエネルギーと自信は底知れず、その声は家の中いっぱいに響き渡り、静かな朝の空気を一変させた。


イギリスは眉をひそめながらも、慣れた様子で静かに答えた。

「アメリカ、調子に乗りすぎるなよ」


アメリカは笑みを浮かべながら胸を張り、なおも自信満々に言う。

「心配するな、親父。俺は誰にも負けやしない」


一方、リビングのテーブルで朝食を摂っていたカナダは、落ち着いた声で口を開いた。

「お父さん、また兄さんとケンカしそうですね」


彼の声は穏やかでありながら、その瞳には兄への複雑な想いが隠せなかった。優しさと心配が混ざり合っている。


イギリスは目を細め、苦笑いを浮かべながら答えた。

「兄弟喧嘩はいつものことだ。まぁ、放っておくわけにもいかんがな」


その時、アメリカが突然カナダに向かって大声で叫んだ。

「兄弟よ、俺がリーダーだ!お前は黙って俺についてこい!」


カナダは冷静に兄を見つめ返し、優しい声で言った。

「兄さん、少し落ち着こうよ。世界はお前だけのものじゃないんだ」


その言葉にアメリカは少しムッとしたが、すぐに笑いながら肩をすくめた。

「心配するな、俺は大丈夫だ」


イギリスは深いため息をつきながらソファに腰を下ろす。

「親父の役目はお前らの喧嘩を仲裁することか……」


その時、携帯電話が鳴り響いた。イギリスはそれを取り、落ち着いた声で応答する。

「わかった。すぐに向かう」


アメリカは家の外で胸を張りながら叫んだ。

「俺がこの国を引っ張っていくんだ!誰にも負けない!」


カナダは優しい眼差しで兄を見つめ、静かに言った。

「兄さん、無理はしないで。時には休むことも必要だよ」


アメリカは軽く笑って肩をすくめる。

「心配するな、俺は大丈夫だ」


日が沈み、夜の帳が降りるころ、三人はリビングに集まった。


イギリスは静かに口を開く。

「お前たち、いつまでも争っていてはダメだ。家族だろう?」


カナダは素直に頷き、アメリカも少し表情を和らげた。

「分かってる、親父。でも兄弟は時にぶつかるものさ」


イギリスは微笑みながら言った。

「そうだな。だが、絆があれば乗り越えられる」


三人は互いに見つめ合い、強い絆で結ばれていることを改めて感じた。

争いがあっても、それは彼らの絆の深さの証だったのだ。


長い歴史の中で幾度も繰り返された兄弟の衝突も、やがては和解と理解に変わっていく。

今日もまた、家族の絆が静かに、しかし確かに深まった夜だった。


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