第15話

 すっかり日が暮れた。時刻はもう午後七時前だ。

 僕たちは京都駅の構内に戻り、新幹線の券売機へと向かった。京都・東京間の新幹線の時刻表を確認をすると、この時間でも四・五分置きに新幹線が出ている。下手な在来線よりも短いスパンに素直に驚いてしまう。

 一万五千円と引き換えに券売機から出てくるチケットを受け取ると、何だか変な感覚がした。修学旅行の帰りのような、それともまた違う何かが終わってしまう。

 ただ、本来、終わってしまった方がいいのだ。そもそもこんな現象僕たち高校生だけで解決できるようなことではない。それに財布の中のお金と銀行口座の残高の減りを見るとこの現象にずっとは対応できないなのは分かり切っている。

同じく隣でチケットを受け取った彼女はどう思っているのだろうか。

 僕たちは余裕をもった時間の新幹線を予約し、ホームの椅子でしばらく待つことにした。

「お疲れ様」

「佐倉さんこそ。今日もお手柄だったね」

「たまたま、私の方が先に気づいただけだよ」

「でも、山科さんを助けたのは佐倉さんだよ」

「だから、それは・・・」

「そうじゃないよ」

「えっ」

「いや、そうだけど・・・。何て言うか、山科さんが転落しそうになったのを助けたのもそうだけど、佐倉さんの言葉で山科さんは、きっと救われたと思う」

「そうかな、もしだったら、・・・良かった」

「きっと、そうだよ」

 彼女は照れ恥ずかしそうに、膝に手をやり、僕とは反対方向へ向いた。

「あっ、新幹線きたよ」

 僕たちは新幹線に乗り込み、いつものように横並びに座った。

 彼女は疲れていたのか、窓を外を見たまま寝てしまった。当然と言えば、当然だ。今日だって、彼女は僕よりも早く起きて、同じようにようにたくさんの階段を登り、そして、人を救った。本当に彼女はすごい女の子だと思った。

「はぁ~あ」

 ただ、僕も三日連続のこの旅に疲れていたのかすぐに寝入ってしまった。


「成田くん、成田くん」

「ん~」

「もう東京駅だよ」

「えっ、もう」

 目を閉じたら一瞬で東京駅についていた。

「早く行かないと、扉閉じちゃうよ」

 僕は急いでカバンを持って、彼女と少し駆け足で新幹線を降りた。

 例のごとく、新幹線から京葉線のホームまでの長い長い道を歩き、僕たちは乗車した。

 人数が少ない列車の中は、ガタンガタンと音を立て進んでいく。僕たちは、お互いに疲れているのか、列車が地上に出て後も、ガタンガタンという音が際立っているだけだった。

 列車が地上に出てから、しばらくして彼女はひとり言を囁くように僕に尋ねた。

「なんか不思議」

「何が」

「なんか、一年くらい外国にいってて、今はその帰りみたい」

「さすがにそれは大げさすぎない」

「でも、ただの旅ともまた違う」

「確かに、それは分かるような気がする」

 少しの間の後、彼女は神妙な面持ちで僕に聞いた。

「ねえ、明日も夢をみたらどうする?」

「心配?」

「全く」

 彼女は本当にそう思ってそうに、自信に満ちた声で答えた。

「逆に成田くんこそどうなの」

「別に、そこは心配していないよ。むしろ、僕の貯金残高が足りるかどうか」

「ふふっ、何それ。もしそうなったら、私が貸してあげるよ」

「払ってくれるわけではないんだね」

「大丈夫。低利子で貸してあげるから」

「はぁ~、そうですか」

 僕はため息をついて、彼女はそれ見て笑う。

『まもなく千葉みなと、千葉みなと』。アナウンスが車内に流れた。

「じゃあね、成田くん」

「うん。気を付けて」

「もし、夢を見たら。連絡して。学校には寄らずに直接行くから」

「特進クラスの優等生もすっかり不良だね」

「本物の不良の成田くんに言われたくないね」

「僕が不良なら、日本の高校生の何十パーセントが不良になると思う」

「ふふっ、また明日」

 彼女は列車のドアが開くと、僕に軽く手を振って、列車を降りた。

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