第12話
目を開けると僕は見慣れない天井を見ていた。そういえば昨日はあのまま金沢に止まったんだった。体を起こすとすでに制服に着替えた彼女が櫛で髪を整えていた。
「早いね」
ぼくが挨拶替わり彼女にそう伝えると、彼女も挨拶替わりに僕に予想通りの言葉を伝えた。
「ねぇ、夢は見た」
僕は歯磨きをして、バスルームで制服に着替え、軽く身支度を整える。
「今日の目的地は・・・」
「京都だね」
ぼくが答えると、彼女は頷いて同意した。
8時過ぎ、僕たちは堂々とチェックアウトをして、ホテルへ外へ出ると、金沢駅へ向かった。
「京都ってことは一旦、東京駅まで戻るよね」
「いや、このまま北陸新幹線で敦賀駅まで行って、そこから特急に乗り換えれば京都までいける」
彼女はそうなんだと言わんばかりに関心した様子だった。普段あまり鉄道に興味ない人ならこのルートは信頼も少なくないだろう。まさか、ここで鉄道知識が役に立つとは思わなかった。
僕たちはテクテクと金沢駅に向かっていると彼女が僕に尋ねてきた。
「成田くんは、学校に連絡しなくていいの?」
そう言えば、今日が学校であるということを完全に忘れていた。
「佐倉さんはもう連絡したの?」
「うん。成田くんが着替えてる間に」
この裏切者め。心の中でも思うだけにしておいた。
『プルルルル・・・プルルルル』
僕は歩きながら学校へ電話をかけた。
担任だけはでないでくれとこころで祈っていると、案の定というべきか、しっかりと担任が電話にでた。今日も休むという僕の懇願を伝えるまでに担任は一昨日・昨日の僕の行動について問いただしてくる。僕はあれこれと理由をつけて、担任が母親に確認をとるということで決着がついた。まぁ、このあと、母親から連絡を想像すると到底決着がついたとはいえないのだが・・・。
彼女はため息を吐く僕をどこか嬉しそうに見ている。
「人の不幸がそんなに楽しいですか」
ぼくはカタコトで彼女にそうといただしたが、彼女はニヤリと笑う。
「心配されてそうでよかったじゃない。」
僕は不満そうに横目で彼女をみた。
「そういう佐倉さんは、三日も連続で学校を休んで何か言われないの?」
「私は優等生なので、特に細かいことは言われないのです」
彼女は自信ありげに高らかに言った。
「どの口が言ってるんだか」
「何か言った?」
どうやら口が滑ってしまったようだ。彼女の鋭い視線が僕に当たった。
「いえ、なんでもありません」
ぼくはその後、バイト先の店長にも無理を言って、シフトを変えてもらい、今日一日を自由に使えることになった。
金沢駅についた僕らは早速、敦賀行きのチケットを買おうと券売機へ向かう。僕たちは敦賀までのたった五十分足らずのチケットを手に入れ改札にそれを通した。
「朝ごはんまでだし、お弁当でも買っていく?」
「そうだね。新幹線の時間的にもちょうどいいし、買っていこう」
僕たちは駅のホームにずらりと並ぶ多種多様なお弁当に目を通して、ペットボトルのお茶と一緒に買って、新幹線の列車へ乗り込んだ。七月に入ってまだ四日目だが、新幹線に乗るのは今月で既に四回目だ。
僕たちは席へスムーズにつくと、ノールックでリクライニングのボタンを見つけ席を倒した。僕は袋に入ったお弁当を取り出し、それを机に広げていった。
僕はエビ・カニ・いくらの三種の海鮮丼を、彼女は色鮮やかな幕の内弁当を選んだ。
「成田くんの美味しそうだね」
「佐倉さんも色とりどりで綺麗だね」
「そうでしょう」
彼女はまるで自分が作ったかのように自慢げに答えた。
僕たちはお弁当に口に運びながらも、お互いに今日見た夢について確認することにした。
「それで、成田くんは今朝、清水寺から女の子が落ちる夢をみたってことでいいんだよね」
「おそらく、間違いないと思う。それと女の子は多分僕たちと変わらないくらいだと思う。制服を着てたっぽいし」
「私もそう思う。つまり、今日私たちは誤って彼女が転落する前に彼女を助ければいいっていうことだよね」
「だいたいそうだね」
僕は彼女の説明に多少の違和感を覚えたが、概ね同意した。
「間に合うかな」
「多分、大丈夫だと思う。おそらく事が起きるのは夕方過ぎで、僕たちが京都につくのは正午前。十分余裕があるよ」
「良かった。」
「あと一つ佐倉さんにききたいんだけど」
「ん、何?」
「今日の夢にも僕は映っていたなかった?」
「うん。映ってなかった。やっぱりそこが気になるよね。成田くんの夢には?」
「僕の夢には佐倉さんが映っていた」
「ん~、もしかしたらこれが何かのヒントなのかな?」
彼女はもこめかみに手をあて考えでいるが何か浮かんできそうにない様子だった。もちろん僕もそうだった。
「これに関しては考えても仕方がないし、とりあえずはやっぱり京都にいくしかないね」
「うん」
僕たちはわずか五十分足らずの乗車を終えると、すぐさま、特急列車の乗車ホームへ向かう。エレベーターを下り、改札に乗車券、新幹線のチケットと事前に勝っておいた特急券のチケットを入れる。出てきた乗車券と特急券をパパっと取り、もう一階下の特急列車のホームへエレベーターで降りた。
さすがに特急列車に乗り慣れてきた僕たちは乗車するとすぐに席を見つけ、リクライニングを適度に倒した。
「なんかもったいないね」
「何が?」
「せっかく敦賀駅まで来たのに乗り換えだけで終わっちゃうなんて」
「しょうがないよ、ただの乗換駅だし」
「でも、敦賀には色んな観光名所があるみたいだよ。ほら」
彼女はどこで貰って来たのか、敦賀特集と書かれたパンフレットを広げてみせた。
「ね。神社とか赤レンガもあるみたいだよ」
「そ、そうなんだ・・・」
「もう、興味ないでしょう」
僕はあまりにも彼女が顔を近づけてくるので少し動揺してしまった。
「そ、そんなこと・・・ないよ」
僕は本当の理由が言えず困ってしまった。
「やっぱり興味ないじゃん」
彼女は不満そうな顔をしてそっぽを向いていたが、しばらくして僕の困った表情が可笑しかったのか、吹き出すように笑ってしまった。
そんな僕たちの様子を見てなのか反対側に座るサラリーマンのおじさんの視線が鋭く感じ、僕たちは軽く会釈をして謝罪をした。
そんなとりとめもない会話してから、僕がうたた寝しそうになる一方で、彼女はこれまた慣れた手つきで前の席に備え付けられた机を倒し、カバンに入った参考書とノートを広げた。
「すごいね。ここでも勉強するの?」
僕はあくびを手で抑えながら彼女に話しかけた。
「中途半端に時間があるんだから、こういう時間にやっておかないと。昨日も全然できなかったし」
「僕には難しい所業だよ」
「成田くんも大学に行かないわけではないんでしょ。後で後悔するかもよ」
うっ、と針が僕の胸に刺さったかのように感じた。
「わ、分かっているよ・・・」
僕は言葉とは対照的に眠気に抗うことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます