第11話

 僕たちは食事を終えると、そのまま金沢駅を通り抜け、ホテルへ向かった。お昼ごろと違い、人通りはほぼなくなったが、対照的に駅前にそびえる鼓門がライトアップされ一際目立っていた。金沢駅からしばらく歩くと今日泊まるそこそこ立派なシティホテルの前に着いた。

「私がチェックインしてくるからちょっと待ってて」

「別に僕もいくけど」

「制服を着た高校生二人でいったら変に思われるかもしれないでしょ」

「分かったよ。僕はどうしてればいい?」

「ここら辺で待っててよ、いいタイミングで連絡する」

「連絡って僕の連絡先もってたっけ?」

「最初にあった時に交換したでしょ!」

「あーそうだった」

「もう、しっかりしてよね」

 彼女はそう言ってホテルの中へ入っていた。

 僕は入口近くの建物の外装を背にして、腰を下ろした。今日も随分歩いてのかもう足はパンパンだ。見知らぬ地で同級生の女の子と泊まりで旅をするなんて想像もつかなったかった。今になっても不思議で、どこか浮ついた気分になってしまう。

そんな中、ふと、空を見上げた。残念ながら、千葉県と同じく星はあまり見られない。だが、おかげでどこか安心した気持ちにもなった。

 でも何か忘れているような・・・。僕は彼女からの連絡にいつでも応じられるようにとスマホをポケットから取り出し、メッセージアプリを開いた。すると、何通もの連絡が溜まり溜まっていた。母からだ。そういえば全く忘れていた。数あるメッセージを要約すると『今どこにいて何をしているのか』ということだった。僕は適当に『今日は友達の家に泊まる』とメッセージを送ったが、『明日、学校でしょ』とか、『事前に聞いていない』とか案の定としていいようのないメッセージが来たので『ごめんなさい』とだけメッセージを打って僕はアプリを閉じて、ため息を吐いた。

 しばらくして、彼女からの電話がなった。

「あっ、成田くん?一応、チェックインできたよ。部屋は四〇一号室だよ。一階にコンビニがあるから下着類とか必要なものがあったらそこから買ってね」

 ポチッ。こちらがうんもすんも言う間もなく彼女は電話を切った。とりあえず、僕は彼女が言った四〇一号室へ向かうことにした。コンビニで下着類を買い揃えた僕は彼女のいる部屋の間に立ち、トントントンとドアを叩いて彼女を呼び寄せた。

「あ、成田くん遅かったねー」

「それは待たせて悪かったね。じゃあ僕の部屋の鍵、わたしてもらえるかな?」

「えっ、そんなのないけど」

「ないけどって?」

「えっ、一つのアカウントからは一つの部屋しか取れないけど」

「えっ、じゃあ僕はどこで寝ればいいの、廊下?」

「どうしたの急に。だからここってだって」

 彼女はそう言って、彼女の今いる部屋を指さした。

「いや、それはまずいでしょ」

「まずいって何が?」

「だから・・・その・・・」

「だって、一つしか部屋取れないんだし仕方ないでしょ。それにベットはちゃんと二つあるから大丈夫だよ」

「はぁ~。だからって・・・」

「もう、意外と成田くんって面倒くさい。それに何かいけないようなことしちゃうのかな」

 彼女は口角を上げて、僕を挑発するように見つめた。

「はぁ~。分かりましたよ・・・」

 僕はこのままだとよけいに面倒くさいことになりそうだったので、

「はい、いらいしゃい」

 彼女は僕が入ったのを確認するとゆっくりとドアを閉めた。

「部屋広っ」

「なんかカードの優待で無料でアップグレードしてくれたみたい。それより、窓からの景色見てみてよ。」

 何時にもましてテンションの高いが彼女がヘアを案内してくれた。あまりに広く豪華な部屋に僕はむしろ物理的にも気持ち的にも一歩引いてしまった。

「よし一通り済んだし、私お風呂入ってくるね」

「お風呂?」

「覗かいねいでね」

「覗かないよ!」

「はいはい」

 彼女は僕のなだめるようにそう言うと、バスルームの扉を閉める。僕はなんだか別の意味で疲れてしまった。

 彼女はシャワー室から出ると次は僕にお風呂に入ってくるように促した。さすがに僕も汗でべと付いた体を水で流したかったため、遠慮なく借りることにした。ぼくはヘアに備え付けられたバスタオルと部屋着を取り、下着の入ったビニール袋を取った。

 僕はバスルームに入る前にビニールの中に入った消毒液と絆創膏を、ベットに腰をかける彼女に渡した。

「何これ」

 彼女は僕から渡されたもの見て、僕の方を見上げた。

「肘擦りむいているでしょ」

「知ってたんだ」

 彼女は探偵に犯人と言い当てられ観念したような表情をしていた。

「女の子を助けた後も、手を振っているときも抑えていたから」

「これは一本とられましたなぁ。でもそこまでしてくれなくてよかったのに」

「念のためだよ。ちゃんと手当しておくんだよ」

「えー成田くんやってよ。手当しにくい場所だし」

「ええっ、それくらい一人でやりなよ」

「これくらいいいじゃん」

 彼女はもうすこししっかりした人かと思っていたが、意外にも甘え上手というか。なんというか・・・。普通の女の子なんだなと思った。

 ぼくは仕方がなく彼女を作業机の椅子に座らせ、僕のその足置き?用の椅子に腰を掛けて、彼女の手当をすることにする。

 僕は彼女の肘に消毒を当て、それを備え付けられていたティッシュで拭った。ティッシュ越しに触れた彼女の腕は思ったよりも細々していた。なんというか変な言い方をすればもろいと言うか。彼女は消毒液を吹きかけられると片目を閉じ、痛みに悶えていた。見ているだけでいたそうだ。

 ぼくは絆創膏がずれないように少し前のめりになって、ゆっくりと彼女の肌にそれを当てた。

「よし、完成」

「ありがとう」

 彼女はなんだか嬉しそうに僕にお礼を言った。僕はそのままバスルームに入り、汗を流した。

 備え付けられていた部屋着に着替え、バスルームを出ると彼女は化粧台にコンセントにドライヤーをつなげて髪を乾かしていた。僕は作業机の椅子に深く腰を落とした。

「女の子は大変だね」

 ぼくは誰でも分かる一般常識を思ったままに彼女に伝えた。

「そうだよ~。面倒くさいんだよ」

「じゃあそこまでしなくてもいいんじゃない」

「そうだねー。でも私はかっこいい大人になりたいから、しっかり見た目を整えるんだよ。逆に言えば、君はもう少し整えた方がいいんじゃない。今朝もちょっと寝ぐせついてたし」

「ぼくはこれがデフォルトだからいいんだよ。個性だよ」

「ははっ、それは面白いね個性だね」

 僕は彼女に促され髪をいつもより少しばかり長く乾かすと、お互いに寝床についた。自分の部屋のものより広く、圧倒的にふかふかのベットに僕は満足していると眠りに着こうとすると彼女は微かな声で囁いた。

「今日はありがとね・・・」

 半身になって彼女に背をむけたまま僕は答えた。

「僕のほうこそ、たぶん佐倉さんがいなかったら女の子は助けられなかったかもしれない」

 少し経っても返事のなかったので彼女はねてしまったのかと思った頃、彼女は再び囁いた。

「嬉しかったんだ。」

「嬉しかった?」

「医者になりたいっていう夢を目指したのも、もともと母みたいに人を助けて笑顔にできるような人になりたいと思ったからなの。これまで自分には勉強はできても、人を救えるかのか全く自信がなかった。でも、今日あの女の子を助けて、お礼を言って貰えてすごくうれしかった。」

「そっか、それは良かったね」

「でも、それはきっと、成田くんがいたからだと思う」

「それは買いかぶりすぎじゃない」

「そんなことないよ。なんだかんだ言って、手を引ってくれたの君だった」

「じゃあ、素直に受け取っておくよ」

 本心で今回は彼女の貢献がほとんどだと僕は思っているが、きっと彼女はそんな回答を望んでいないのだろう。僕はありがたく彼女の感謝を受け取ることにした。

「成田くんは、明日も夢を見たらどうする?」

「まぁ、どうにかはしようと思っている。」

「そっか、私もそうする・・・。おやすみ」

「うん。おやすみ」

 僕は疲れていたのか目を瞑るとすぐに眠りに入ってしまった。

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