第10話
僕たちはその後、トラックの運転者のおじさんと話し怪我がないことを確認すると、遅い時間ということもあって、連絡先だけ交換して別れることにした。
女の子はまだ僕たちの見ながら片手で大きく手を振りながら、もう一方の手でお母さんと手をつなぎながら帰路を歩いている。女の子のお母さんが軽く会釈して、角を曲がるまで、僕たちも手を振り続けた。
「お疲れ様」
女の子とそのお母さんが見えなくなったとこでそう、僕に言った。
「うん。お疲れ様」
僕は疲労感でいっぱいであったがそれを上回る達成感を感じていた。特に、女の子を助けた彼女はもっとそうなんだろう。
「とりあえず、駅に向かおうか」
「そうだね」
僕は、彼女の意見に同意し、県道沿いの近くにあったバス停に向かった。僕たちは兼六園下と書かれたバス停の時刻表をざっと目に通した。
「あれ、もしかしてもうバスない?」
「・・・みたいだね」
彼女は僕にそう同意すると、時刻表に背を向けて歩き出した。
「とりあえず、駅の方へ向かおうか」
「そうだね」
僕は彼女の後に付いていった。
歩きながら僕はスマホで次の新幹線の時刻を確認する。
「げっ、次の九時三分発の新幹線で今日の最終便だって」
「えっ、本当?今から急げば間に合うかな」
僕は彼女のそういわれて、スマホの位置情報アプリから金沢駅までの徒歩でのルートと時間を確認した。
「今から走ってもぎりぎりだね。チケット買う時間もあるし」
「そっか」
「さて、どうしようか。超ダッシュで走る?タクシー頑張って探す?」
僕が彼女に意見を求めると、少し前を歩く彼女は立ち止まって僕の方へ振り向いた。
「じゃあ、ホテル、探そうか」
「えっ」
僕は彼女の突然の提案に唖然としてしまった。
「だって、今から走っても間に合わないかもしれないし、タクシーを捕まえられるかもわからない。それに私はこれから走れるほどの体力はもうないよ」
「それはそうだ」
ぼくは彼女の横まで追いつき、彼女も僕に合わせて再び歩き始めた。
「でも、高校生だけでも泊まれるホテルなんてあるの?」
「それは大丈夫。このカードでネットから予約すれば泊まれると思う」
「何それ、大丈夫なの?」
「大丈夫、たぶん・・・」
彼女は少し自信がなさそうに答えた。
「私はホテルを探すから、成田くんはこれから入れそうなお店を探して。なんか安心したらお腹空いちゃったよ」
「わかった。ちょっと待ってて」
彼女はきっと、凄い緊張の中、あの県道十号線沿いで張り込んでいたのだろう。僕は半ば諦めかけてしまい初動が遅れてしまったが、彼女はすぐさま反応した。彼女の責任感の強さ、忍耐強さ、僕は改めて彼女を尊敬してしまった。
僕たちは金沢駅方向へスマホ片手にしばらく歩いた。
「成田くん、一応ホテルとれたよ。あんまり空いてなくて駅の向こうだけど」
「早っ。料金どのくらいだった?」
ブルジョア女子高生の手際の良さに思わず驚いてしまった。
「別にいいよ、それくらい」
「そういうわけにはいかないよ」
彼女は手を顎に当て、少し頭を悩ませた。しばらくして閃いたように顔を上げた。
「忘れてたけど、昨日の特急のチケット貰ったままだし。それでいいんじゃない」
「全然、料金が違うよ」
彼女は再び手を顎に当てて、軽く俯いた。
「じゃあ、今度別のところにいったときに何か奢ってよ」
「別にところ?もしかしたら、」
「関係なくだよ」
「関係なくても?」
「うん、だって私たちは『戦友』でしょ」
「『戦友』って、面白いこと言うね」
「その割には面白そうな反応じゃなさそうだけど」
「友達でもなく親友でもその他一般的な交友関係を示す名称じゃなくて『戦友』って」
「だって、私友達でもなく親友でも・・・ただの同級生ってわけでもないでしょ」
彼女のニヤリと頬を少し上げ、僕に同意を求めるように見つめた。僕はその視線に耐えることができず、首を二回縦に振り、服従の意を示した。
「それで、戦友くん、いいお店はあった」
「あんまりだね。ここらへんは九時くらいでしまっちゃうみたいか」
「そっか~、どうしようか」
「あっ、ここなら十時までやってるって」
ぼくはスマホに映るお店の情報を彼女に見せた。
「うぇ」
彼女の反応はやや芳しくなかった。
僕たちは近江市場通りにある老舗っぽい、というよりレトロな雰囲気のお店に入った。
僕たちは案内された席に座り、僕は出してもらった氷で冷え切った水を飲みほした。
「はぁ~生き返る。仕事終わりにお酒を飲むってこういうことなのかな」
「制服着た人間が言って言う台詞ではないと思うよ」
彼女は正論を言いながらも、ピッチャーに入った水を僕のグラスに注いでくれた。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「事故の方は佐倉さんのお手柄でなんとか未然に防ぐことができたけど。この謎現象解決の糸口はあんまりだったね」
「別に、わたしだけじゃなくて、君の貢献も大きいと思う・・・。それと、今日の収穫が全くなかったっていうわけじゃないと思うよ。」
「例えば?」
「尾山神社に行った時、神主さんが言ってたでしょ。お願いは強く願えば願うほど神様が叶えてくれるって」
「佐倉さんは、未だにそっち路線なんだね」
「だって、こんの不思議な現象、こういう解釈でしか考えられないのも事実でしょ」
「まぁ、そうだけど・・・」
「だから、私たちもどこかで強くお願いをして、それを神様は叶えてくれたんじゃないかな・・・。例えば、弁天島の辨天神社とか」
彼女は自信に満ち溢れた不敵な笑みを浮かべた。
「なるほど、確かに僕たちの共通はそこだけど、さすがにそんな非現実的なこと・・・」
「成田くんって、意外に現実的っていうか、どこか冷めているよね・・・」
「・・・まぁ、そうかもね」
「別に悪いとはいってないよ。言い換えれば客観的とも言えるし・・・」
彼女は僕をそういって励ましてくれたが、彼女のいうことは的を得ていると思った。いつからからか僕にはそういった想像力というかなんというか・・・、そういったものが欠けてしまったように感じる。
彼女は気を取り直して、さきほどの彼女の持論をまた整理し始めた。
「じゃあ仮に辨天神社が関係していると仮定するならば・・・成田くんはどんなお願いをしたの?」
「ん~、そういわれると覚えてないなぁ。どうでもいいことをお願いした気もするし、漠然としたすごい大きいお願いをした気もするし・・・。佐倉さんはどうなの?」
「わたしは・・・内緒」
「え~教えてよ」
「恥ずかしいからダメ。成田くんが思い出して教えてくれたら私も話すよ」
何かの糸口になるかもしれないからできればききたかったのだが、タイミングがいいのか悪いのか、店主さんであろうおじさんが料理を持ってきてくれた。
「はい。お待たせ。熱いから気を付けて食べてね」
『はい、ありがとうございます。』
僕たちは重なるように返答した。
「それにしてもすごいボリュームだね」
彼女は食べる前から心配そうに料理を見つめた。でも確かにすごいボリュームだ。銀色のお皿いっぱいのカレーとその上に大きなカツが一面に乗っている。
「金沢では一般的らしいけど。さっき、お店調べるときに書いてあった」
「でもなんで金沢でカツカレー?」
「なんかもともと一つのレストランで提供されていたものらしくて、その後そこで働いていた人が広めたっていう説が有力らしいよ」
「じゃあ、もしかしてここがそのお店だったり」
「いや、まさか」
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