第7話
僕たちは千葉駅に着くと昨日と同様に特急券を購入し、列車に乗り込んだ。僕たちは昨日とは打って変わり、慣れた手つきで特急列車の座席を軽く倒す。
「それにしても不思議だね」
「不思議って?」
僕はここ最近不思議なことがありすぎて、もはやどれが彼女にとって不思議なのかわからなくなっていた。
「こうして、平日の朝に学校とは逆方向、それも金沢まで向かってるってこと」
「まぁ、そうだね」
「そうだねって、まるで大したことないっている反応だね」
「別にそんなことはないけど、最近は色々ありすぎて・・・。とにかく行ってみて手がかりを探すしかないよ」
「そこだよ。成田くん」
「どうしたさ、急に」
「確かに取り急ぎは夢の中の出来事を解決他にないとは思うけど、それだけではこの現象を解決することはできないよ」
「言われ見ればそうだね。夢の中の出来事を解決することと、この現象自体を解決することは同じ直線上にはないっていうことか」
「まさに、その通り。だから私たちは並行してこの現象自体を終わらせる何か手がかりを探さないといけないんだよ」
「でも・・・、かと言って、そもそもこの現象が何に起因して起こっているのか全然検討もつかないんだけど。佐倉は何かあるの」
「そういわれると、具体的な何かはないけど。例えば、か、神様・・・とか?」
「か、神様・・・」
僕は少しニヤリと笑ってしまった。
「もー、ひどいよ。」
佐倉さんはむっとした顔で僕の方に顔を近づけた。
「ごめんごめん。まったく想定してなかった答えだったから」
「そんなにおかしい」
彼女まだ不満を募らせている。
「おかしくはないけど、佐倉さんってそういう非科学的なことを言わなそうなイメージだったから」
僕は口を片手で抑えて、笑いを堪えた。
「私だって、そんなこと本気で思っているわけでないけど、神様か何かが私たちに災難から人を守るために私たちに夢を通して依頼をしているんじゃないのかなって」
「まぁ、仮にそうだとしてもきっかけが分からない。何せこの現象に巻き込まれたのは僕たち二人しかいないんだから」
「そうだね・・・。例えば、私たちの共通点って言ったら・・・」
「同じ夢をみたっていうのは当たり前として、昨日に行った弁天島に行ったとか?」
「そうだね・・・。でも、今日の目的地の金沢に私はいったことがないし・・・話を聞く限り成田くんも」
「うん。ない」
「二人との行ったことある場所、行ったことない場所が共通してはいるけど、どちらも言ったことがある場所っているわけではないんだね」
「あっ、でも、そういえば佐倉さんは昨日、夢の中に僕は映っていなかったって言ってたよね」
「うん。今日もそうだった。」
「じゃあ、二人の相違点はそこだね」
「もしかしたら、何かの手がかりになるかもしれないけど・・・」
「現状は特に分からないっていう感じかな」
僕は、現時点の結論を述べ、彼女は軽く頷いた。
「関係ないもしれないけど、なんで弁天島に行ったの?」
「なんでって?」
「昨日私は話したけど、そういえば成田くんには聞いてなかったなぁと思って。もしかしたら何かのきっかけになるかもしれないし!」
珍しく彼女が前のめりに僕に質問を投げかけてきた。
「別に理由なんて・・・ないよ」
「そんなことないでしょ」
「別に大した理由じゃないし」
突然の彼女の畳みかけに僕はやや後塵をを拝してしまった。
「もしかしたら、なにかこの現象の解決のきっかけになるかもしれないし!」
あまりにも前のめりな彼女に虚を衝かれた僕はしぶしぶ答えることにした。
「・・・旅」
「えっ」
彼女は唖然とした表情で僕をみた。
「旅」
「旅?」
「だから、ちょっとした気分転換で遠くに行ってみただけだよ」
「一人で?」
「うん。悪い?」
「べ、別に悪いはないけど、なんで一人でその、『旅』をしているのかぁって」
「特段理由はないけど、恣意と言えば自分探しというか・・・何と言うか」
僕は何とかぼかしていったつもりだったんだが・・・
「はははははは(笑)」
佐倉さんはなにかツボにはまったように笑いだした。
「別にいいだろ。自分探しぐらい」
僕も少しイラついて彼女に対して前のめりに反論した。
「ごめん、ごめん。はは(笑)」
彼女は謝罪をしながらもまだ笑いを続けている。
「はぁー」
僕はため息をついた。佐倉さんもそれを察したのか笑いを抑えるようにしている。
「ごめんね。なんか、らしくないなって」
「らしくないって、僕は佐倉さんにどんな人だと思われているの?」
僕はなんだか腑に落ちない。
「別に変には思っていないけど・・・、あんまり悩みとないのかと思ってた。なんと言うか目の前のことにぶつかっていって、そのたびに解決するような・・・そんな感じ」
「言っておくけど、僕はなんでもそつなくこなすタイプじゃないよ。昨日も言ったけど、受験勉強はしてないから、しっかりと偏差値もそれに比例している。そんなタイプなんだよ」
「そ、そっか」
「それに僕にだって、多かれ少なかれ悩みはあるよ・・・。去年の冬、嫌なことがあって少し落ち込んだいた時期があったんだ。その時、たまたまネットで弁天島の都市伝説をみたんだ」
「あ~、たしか弁天島の鳥居に夕日が差すときにお願いをすると、そのお願いが叶うっている噂。なんか一時期流行ったよね」
「そう、ちょうどその時。その時どんな願いをしたのか、実際願いが叶ったかも覚えていないけれど、あの日見た景色があまりにきれいだった。言葉にできないくらい美しくて、何か変われるような気がした。それ以来、僕はことあることがにどこかにいって、悦に浸って、何か変わっているような気分になっているだけ。馬鹿らしいでしょ」
自分でも言っていて恥ずかしい気分になってきた。言った後にひどく後悔をした。対する彼女はしばらく黙ったまま俯いていた。少しして彼女は口を開いた。
「そっか。でも何となくわかるな。私も人生の最後には日本各地を回ってみたいなんて考えたこともあるよ」
「老後の使い方としては有意義かもしれないけど、あと五十年くらいは先だよ」
「ふふっ」
彼女は軽く失笑した。だか、僕はそれを見てなぜか安心した。
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